第2お試し試合
先の練習試合から3日後、ユウヤは練習試合に参加したメンバーが召集した。
先日の試合はそれなりに、と言うか意外なくらい盛り上がっていたのだが、誰もが身体能力に任せてボールを思い切り蹴りあうだけの、悪い言い方をすれば小学生の遊びのような代物でしかなかった。
(遊びとしちゃありなんだろうけど、インぺリアのイベントとして確立するなら、もう少しまともな試合らしいものにしないとなぁ……)
そう感じたユウヤは、基礎的なトラップ、パスやドリブルなどのテクニックを教えることにしたのである。
「兵の訓練時間にサッカーの練習をするのですか!?」
と軍務大臣のツァンフェイはと難色を示したのだが、
「直接の軍務ではないけど、インぺリアの将来に向けて共有できるものを作ることは立派な職務だろ? 体力仕事なんだから、軍務省の所管で問題ないだろう」
「しかし……」
「ツァンフェイが竜人族基準で毎日毎日朝から晩まで兵を絞り上げてるから、兵たちが根を上げてるって報告があがってるぞ、特に他種族の兵からな。怪我人もやたら多いらしいしな。竜人族は体力馬……いや体力が他種族と違うんだから、少しは考えろよ。単に厳しく訓練すればいいってもんでもないだろ?」
「う……」
「で、その一環として、サッカーを訓練の合間の息抜きにしたらいいんじゃないか? いってもサッカーは体力を使うしな」
「む……」
このようにしてツァンフェイをやり込め、毎日昼過ぎの二時間を兵達のサッカーの練習時間として確保したのである。
また、各種族の参謀格から数人ずつを抽出させ、監督とコーチということで戦術などの教育も行うことにした。
顔見知りであり、以前の模擬戦で器用な戦いを見せたジャン・ルイをパートナーに指名し、ユウヤは解説をしながら実演する。
「皆がボールに殺到するんじゃなくて、離れた味方にパスをする、と言うことを続ければ試合を有利に進められる。そのためには、味方の足元に正確なパスを続けること、パスされたボールをきっちり受け取る、つまりトラップすることが大切だ。で、ボールを正確に蹴るにはまずインサイドキック、足の内側、この平らな面でこんな感じで蹴ればいい。二人一組で、まずはやってみろ」
選手たちはめいめいに散らばり、パスの練習を始める。技量にばらつきはあるものの、どの選手も真剣そのものであるのを見て、ユウヤは満足そうにほくそ笑む。
(やっぱり褒賞があると、違うよな)
ユウヤは次の試合の優勝チームと活躍した者には褒賞を出すと周知していた。もっとも、皇帝の勅命であることや、鬼より怖いツァンフェイ将軍が同席している以上、兵たちに怠けると言う選択肢は与えられていないのだが。
暫く簡単なパスとトラップの練習をさせた後、インステップキック、リフティング、ヘディングなど色々な技術を少しずつ教えていると、あっという間に時間がたつ。最後に練習試合を一試合ずつ行ったところで、訓練時間の2時間は終わった。
(初日だし、まぁこんなもんか。やっぱりドワーフ族は器用なだけあって、覚えが速いな。明日からは魔人族の『加速』も解禁して……天使族が意外と器用だったな……どう補正するか……)
などと、考えることの多いユウヤであった。
それから兵たちは毎日練習を行うようになったが、流石に皇帝であるユウヤはそんなわけにはいかない。基本的に皇帝の執務は午前中と定められてはいるが、その職域は帝国一幅広いといっていいため、毎日練習に顔を出すわけにはいかないのだ。
更に厄介なのは六人の妻である。それぞれが皇后であるためサッカー自体に理解は示してくれてはいるのだが、そのうち誰か一人の為にたまたま練習を欠席すると、他の五人の為にも練習を欠席する羽目になる。誰とは言わないが、あからさまに拗ねる妻もいるのだ。
それでも数日に一階は練習に顔を出すのだが、その度に選手たちが目に見えて上達しているのがわかる。ユウヤがいなくても、真面目に練習しているのは間違いない。
練習試合でも、未熟ながらも少しずつ戦術的な動きを見せるようになった。これは監督やコーチに抜擢した参謀たちの成果だろう。
「日ごろからの我の薫陶の成果ですな」
ツァンフェイが胸を張った。
ユウヤは進捗を見ながら、少しずつ高度な練習を取り入れていく。特に技量が高い者には、クライフターンやルーレットなども教えてみた。前世でのユウヤは特にサッカーが得意と言うわけではなかったが、今の身体能力をもってすれば、幾ら高度なテクニックとはいっても、再現は簡単なものである。
そんなことをしている間に、次の試合予定日が迫っていた。
二回目の試合当日。
先月整備した三面のグラウンド、ユウヤ達幹部の前に選手達が種族別に整列する。
それ自体は先週と同じなのだが、選手たちの目つきが違う。やはり報奨金の効果であろう。
選手たちを遠巻きにする貴族たちの数も、先月より倍近くに増えていた。
「今日は、日ごろの訓練の成果を見せてもらおう。各種族とも、褒賞目指して頑張ってほしい。なお、今日は魔人族のみ『加速』の使用を許可する」
ユウヤは天使族にも何らかの補正が必要と思っていたのだが、何故かヴィキが「要らない」と言いだした。中身は教えてくれなかったが、なにやら「秘策」があるらしい。
(ヴィキの秘策……ねぇ……)
ユウヤはとりあえず、天使族と人間族の試合を見ることにする。
試合開始の笛が鳴った瞬間、天使族のうち3人が相手ゴールの近くまで走り込むと、その場で空高く飛びあがった。
(はい? これは……ひょっとして……)
高く蹴り上げられたボールを飛び上がった天使族がトラップし、地上でぽかんした顔でと見上げる人間族の選手を尻目に、リフティングをしながらゆっくりと相手ゴールの近くに飛んでいくと、ボールを思い切り蹴り下ろす。
ゴール近くの空中に待機していた選手がダイレクトのヘディングで、あっさりと先取点を挙げた。
(天使族、やたらリフティングの練習が多いと思ってたけど……秘策ってそういうことか。でも、守備の方はどうなんだ?)
などと考えている間に、人間族があっさりと同点に持ち込む。
その後はお互いゴールラッシュになった。と言えば聞こえがいいが、知を売りにしているだけあって、戦術的にバランスのいい人間族はいいと、人間族の守備が無意味になる極端な攻撃と、ほとんど見るべきところのない守備の天使族では全くかみ合わないというか、正直あまり面白くない。観客はそれなりに盛り上がっているのだが……
(次、行くか)
そっと溜息をついたユウヤは、魔人族対エルフ族に目を移す。
こちらはまともな試合になっており、中々見ごたえがある。何せスピードを信条とするエルフと、『加速』で対抗する魔人族の試合だ。テクニックはともかく、前世のサッカーより展開が異常に早い。
ユウヤは傍らに控えるツァンフェイに、気になることを聞いてみた。
「魔人族が、やたら速くなったり遅くなったりしているのは何なんだ?」
「『加速』を使ったり切ったりしているからですな」
「何で切る必要があるんだ? 使いっぱなしの方が有利だろ」
ツァンフェイは一瞬胡乱な表情になったが、納得したような表情で答える。
「ご自分の基準で考えておられませんか? 3試合の間、ずっと『加速』を使い続けるのは、幾ら魔人族でも無理ですぞ」
「え? そうなのか?」
「陛下の魔力は異じょ……いや、他とは比べられぬほど多いですからな。寧ろ、魔人族だからこそ、途切れ途切れでも3試合分魔力が持つ、とお考え下さい」
「……」
「それに、途切れ途切れで『加速』使うことが、かえって良い結果を生んでいるように見受けられます」
「……そうだな」
確かに、魔人族の『加速』込みでもスピードでは若干速いはずのエルフ達が、要所で突然加速する魔人族に翻弄されるシーンが少なくない。
それでも総合的なスピードに勝るエルフ族は、何とか互角に試合を進めている。
(魔人族の補正はこれでよさそうだな。後は……)
ユウヤは竜人族とドワーフ族の試合に目を移した。




