お試し試合
抜けるような青空に、多少肌寒さが残る絶好のコンディション。場所が城壁に囲まれた城の中庭だけあって、風もほとんどない。
中庭には3つほどのグラウンドが整備されている。最も、ラインを引いたうえでユウヤが『造型』で創り出したゴールが置かれているだけのシンプルなものだが。
ユウヤを始めとした幹部の前には、城の騎士から選抜された者たちが種族別に整列しており、それを大勢の貴族が遠巻きにしていた。
「さて、今から試合をするわけだが……皆ルールは覚えてるよな」
「無論にございます。我が部下に、陛下のご意向に従わぬ虚けなどおりませぬ。試合に参加しない者も含めて、全て間違いなく覚えるよう厳命しました故」
ユウヤは選手たちの方を向いて聞いたわけだが、なぜか答えたのはドヤ顔で胸を張るツァンフェイであった。
「……まぁいいや。今日は何試合かしてもらうので、前後半を45分じゃなく、10分ずつにするので、覚えといてくれ。最初は、人間族対エルフ族、竜人族対ドワーフ族、天使族対魔人族だ。じゃあ始めてくれ」
選手達と審判たちが整列を保ったまま整然と各グラウンドに散っていく。
(スポーツ選手と言うより軍隊だな……あ、軍隊なんだから当たり前か)
こうして各グラウンドで、この世界初のサッカーの試合が始まった。
(さて、どうなることやら)
ユウヤ達は各グラウンドの試合を遠目に暫く観察することにした。ユウヤの人間離れした視力からすれば、一々移動しなくても全てのグラウンドを観察できる。
ちなみに、妻たちはそれぞれ自分の種族の応援と観察をするように言ってある。
ユウヤの予想通り、戦術も何もあったものではなく、全員がひたすらボールを追いかけ、取り囲んで蹴りあう。戦術どころか、オフサイドもないシンプルなルールだけしか教えていないので、まぁ当然だろう。
「行け! こっちに蹴り出せ!」
「何で手を使わないのだ?」
「走れ!! 人間族に負けるな!」
「あいつ、今手を使ったぞ! 駄目じゃないのか?」
グラウンドを取り囲む選手以外の騎士たちは意外に盛り上がっているが、声援の間に騎士以外の貴族たちの疑問の声がちょくちょく上がっている。
(初めての試合にしては、意外と盛り上がってるな。ツァンフェイが選手以外にもルールを覚えるように厳命したってのが良かったみたいだ)
今日ユウヤが見たかったのは2点だ。一つは盛り上がるかどうか。そもそもの目的が全ての種族で共有できる「何か」によって各種族の間の距離を縮めようということなので、全ての種族が熱狂してくれるようにならなければ意味がない。
もう一つは、各種族間の格差だ。種族が違う以上、特技や苦手も全く異なるため、全ての種族に受け入れられるには、何らかの手を打つ必要がある。その見極めが目的である。
(有利なのは器用さに優れるドワーフあたりかな)
などと考えている間に、この世界初めてのゴールが生まれた。
得点した者はユウヤも知っている男だった。ジャン・ルイ。先の大戦が終わった時に、模擬戦で戦った男だ。「陛下を投げた男」として大いに名を上げ、今は軍務省に格闘師範として勤めている。六対一で戦わされたユウヤとしては少し納得がいかない部分もあるが、それでも大陸有数の戦士であることは確かである。
(あいつ、選抜されてたのか。まぁ、実力的には当然だけど)
その後もエルフ族は立て続けに2ゴールをあげた。やっぱりスピードに優れるエルフ族は強いようだ。ただ、その後は人間族ががっちりとゴールを固めるようになったため、そう簡単には点が入らなくなったようだが。
(そんなに全員でゴールを固めたら、点を取れないと思うんだけどな。まぁ、人間族は身体的には平均ぐらいだから、戦術を覚えさせれば少しは伸びるかな? さて、竜人族とドワーフ族は……)
こちらはまだ両種族とも得点が入っていないようだ。器用なドワーフ族の方が有利かと思ったが、意外とそうでもない。竜人族がその体躯を生かして旨く守備をしている、というか、進行方向に竜人族がうまく回り込み、それにドワーフ族が激突してボールを失うシーンが多い。とは言え、ボールの支配率はドワーフ族の方がかなり高く、竜人族はシュート一つ打てないでいる。
(幾らドワーフ族が器用って言っても、ボールを扱うテクニックなんて教えてないからなぁ…… 竜人族も折角の背の高さを生かせてないな。ヘディングとか覚えれば伸びそうだ。問題は魔人族と天使族だけど……うーん……)
この二種族の試合もお互い無得点というのは竜人族対ドワーフ族と同じだが、それでもやっぱり試合のレベルが違う。竜人族やドワーフ族には磨けば光ると思わせるものがあるのだ。この二種族が得意とするのは魔法であって、体を使うことではないのだから当然なのだが。
(やっぱ問題はこの二チームだよなぁ。天使族がもう少し早く飛べれば強みになるんだろうけど、歩くのと変わらんからなぁ……)
などと考えているうちに、最初の試合が終わった。
その後も組み合わせを変えて、何試合かを行った。
結果としては、エルフ族が全勝。次いで竜人族、人間族、ドワーフ族。天使族と魔人族はお互いとの試合で引き分けた後は全敗であった。
「皆ご苦労だった。また召集を行うので、各種族はどうやったら勝てるか、よく相談してみてくれ。今日はこれで解散とする」
ユウヤの命令と共に、各種族は城に戻っていく。その中でも、それなりに会話が盛り上がっていた。お通夜のような状態の天使族と魔人族を除いて、の話であるが。
その夜。晩餐を終えたユウヤと妻たちは、ユウヤの部屋で寛いでいた。
分かりやすく不機嫌なふくれっ面をしたヴィキが、文句を言い始めた。
「あんなの、勝てるわけないじゃない! 天使族の特技は魔法なんだから!!」
「じゃあ、ヴィキはどうすればいいと思う?」
「そりゃ、『聖弾』辺りでズババババーンって……」
「それじゃただの殺し合いじゃねぇか」
「ヴィキは置いといて、天使族と私達魔人族はちょっと厳しいわね。これじゃ全種族共通で盛り上がるのは難しいと思うわよ」
アディオラが溜息をついた。
「そりゃそうだな」
「そりゃそうだな、じゃないわよ。私達人間族はそれなりに盛り上がったけど……それじゃ意味がないわよね?」
「まぁ落ち着けよ。多少予想とは外れた部分はあったけど、最初からこうなることは分かってたんだ」
「……分かってた?」
「種族によって特性が違うからな。最終的には、各種族混成でチームを作ればいいだけの話だろ?」
「確かにそうだね。でも、それなら何故今日は、わざわざ種族ごとにチームを作らせたんだい?」
「種族ごとに、何かの補正をかける手もあると思ってね。とりあえず、各種族がどれくらいやれるかを見たかったんだ」
「補正?」
「例えば『加速』の使用を許可する、とかな」
「それだと、風属性が得意なエルフ族が有利になりすぎない? ただでさえ今日一番だったのよ?」
「天使族はどうすんのよ! 魔法が得意って言っても聖属性特化だから、『加速』が得意な者なんてあんまりいないのに!」
「だから、今からそれを話し合いたいんだ。そのために各種族についてもらったんだからな。それと並行して、テクニックとか戦術とかも教えて込んでいく。今日は今一だったけど、ドワーフ族は器用だから、補正をかけなくても伸びると思うぞ」
ジョッキを片手にしたファニーが無言で頷く。
逆にいつも煩……元気なヴィキがユウヤの目の前に飛んでくる。
「じゃあ天使族の補正はやっぱり……」
「ズババババーンは無しだぞ」




