新しい催事
「……そういうわけで、簡単なことではありませんし、時間もかかると思われますが、今後の各種族の関係を緊密にしていくことは、インぺリアの発展に取って必須と考えます。よって、皆の意見を求めます」
静かな空間に、アンジェラの良く通る声だけが響く。
ここはインぺリア城の大広間。現在は月一回の大評議会の真っ最中である。
大評議会と言うだけあって、ユウヤ達皇族は当然、宰相から各大臣達幹部だけでなく、平民代表として市役所の主だった者から場合によっては実務担当者まで、大勢の者が出席していた。
従って議論されることは重要な案件ばかりであり、建国当初は出席者が疲れ果てるまで熱い議論が延々と続いていたのだが、建国後数年を経て、インぺリアが落ち着いていくに従い、大評議会もまた落ち着きを見せて来ていたのであるが……
(今回は久々に、大揉めするかもな)
ユウヤは少し心配していた。転生前の世界でも民族問題はあったが、この大陸ではそれどころではない。まず、各種族は肌の色が違う、どころではない。種族によって能力から特性から好みから習俗から、何もかもが違いすぎる。更に、他の種族の国に住む、どころか行ったことがある者すら数えるほどしかいないのだ。
「成り行き任せでよいのではないでしょうか? 今のところインぺリアは順調に発展しておりますし、それに、例えばお触れを出したからといって各種族が交流を始めるということでもございますまい」
「だからこそ、わざわざアンジェラ陛下が議題に出したのではないか。貴公は覚えておらぬのか? 建国のころ、各種族が知恵を出し合い、特性を生かして手分けをしながら色々な難題に対処していったであろうが」
「確かにそうだが……、待て、我らはともかく、平民たちにはそういうことがなかったのか? 一から都市を造り上げたのだぞ? それならば、我ら貴族だけではなく、平民たちの間にも、種族間で揉めたり交渉したりということがあったはずではないか? 特に隣人の間ではそういったことがあるものだ。そういう所から関係性というものが生まれるはずだが?」
その意見に、市長が発言を求める。
「通常であれば、その通りですじゃが、ここインぺリアに限っては、そうとも言えないのですじゃ。 各種族の区画を仕切っている道路があまりにも広いので、その両側の住民隣人というより、川の向こうに住む者、といった感覚でしてな。それに加え、あまりにも発展が早過ぎたので、己の種族の区画だけで生活が成り立ってしまうようになったのですじゃ。ありがたい話ではありますじゃが、逆に他の種族と交流する必要がなかった、と言うことでもありますじゃな。私共市役所の者同士では、職務上流石に交流もありますし、その意義も理解できますが……」
「成程な。通常なら町一つ作るにしても、同種族でも土地や資源の配分なりといった問題があって、その中で関係性ができるものだが……インぺリアでは都市の区画割から建物の建設まで陛下がなされているし、経済的にも各国の総合商会と市役所がしっかり連携していたからな……」
宰相のスペンサーが咳払いをする。
「問題の原因はそのくらいでよかろう。して、解決策だが……何か意見がある者は?」
何人かが挙手をした。
「何か共通の課題なり問題なりあればいいのですが、幸いと言うか生憎と言うか、今のところこのインぺリアにはそういった問題はございません。ならば、何か催事を催すというのはいかがでしょうか」
「何の催事を行うのだ? 各種族に共通の催事など存在せぬが」
「いや、それは、その……」
スペンサーが助け舟を出す。
「全種族が共同で何かの催事を行う、という案自体は悪くない。して、問題は何をするかであるが……」
ツァンフェイがニヤッと笑いながら発言する。
「定期的に武闘会を開けばよいではないか。盛り上がることは間違いない。それに、兵共の励みにもなる」
「武闘会など、竜人族の独壇場にしかならないではありませんか。ドワーフ族が弓術比べ、魔人族が魔法比べと言い出したら、閣下は賛成するのですか?」
「それは……」
「そもそも、閣下は自分が戦いたいだけでは?」
「む……」
その後もいくつか案は出たが、採用されるほどのものはない。いつしか発言する者もなくなっていった。それもそのはずで、この大陸には皆が納得するような共通の催事など存在しないのだ。
「……中々、難しいものですな」
スペンサーが長いあごひげを撫でるのを見計らって、ユウヤが発言する。
「全種族に共通のものがないんなら、新しく作るしかないんじゃないか?」
出席者全員の目がユウヤに集中する。
「腹案はある。ただ、準備が必要だ。ツァンフェイ、今週中に騎士を選抜してくれ。各種族から、そうだな、20人ずつ」
「はっ。強き者を選び抜いておきます」
「強い奴よりも、速い奴がいい。後、短気な奴は駄目だ。後は……新しいことをやるんだし、要領のいい奴がいいな」
大評議会の3日後、ユウヤの居室。侍女のオリヴィアが入ってきた。
「ご要望の物をお持ちしました。でも……こんな物、何に使うのですか?」
オリヴィアが抱えているのは、牛の皮と膀胱、それと丈夫な糸である。
「会議でちょっと、な。 ふむ……皮は黒と白にちゃんと染まってて、膀胱もちゃんと洗って防腐処理済み……と。注文通りだな」
オリヴィアが肩をすくめて退出すると、
「さて、始めるか。 こんなものを作る羽目になるとは思わなかったけど、『造型』もあるし、なんとかなるだろ」
牛の膀胱の切れ目に思い切り息を吹き込み、『造型』で切れ目を塞いだうえで、奇麗な球形に整える。
(この世界にはゴムなんてないからな。昔は牛の膀胱を使ってたと聞いたけど……)
次は、牛の皮からパーツを切り抜いていく。
白い皮は六角形、黒い皮は五角形だ。
続いて、切り抜きが終わったパーツを糸で縫い合わせていく。ユウヤは裁縫などしたこともないが、『造型』を使えば何ということもない。
つなぎ合わせた皮を膨らんだ牛の膀胱に被せ、皮の開口部を塞げば……
「ボールの出来上がり、と」
ユウヤは完成したボールをリフティングし、感触を確かめる。
前世でサッカー選手だったわけではなく、リフティングなど体育の授業でしかやったことがなかったユウヤだが、今の肉体ならいくらでも続けられそうだ。ユウヤは適当なところで切り上げる。
「まぁ、こんなものでいいだろう。とりあえず、十個ぐらい作っとくか。後はルールを紙に書いて複製させれば、準備はいいかな」
そう、ユウヤはインぺリアの文化として、サッカーを普及させることにしたのであった。スポーツの中でもルールが単純、最低限ボールさえあれば何とかなる、それでいて前世では全世界で人気がある、ということで、打ってつけだと考えたのであった。
「受けりゃいいんだけどな」
ユウヤは呟くと、次のボールを作り始めるのだった。




