帝都の課題
広い大通りの両側に、ずらりと建物が立ち並び、大勢の人が行き交っている。
大部分の建物の一階は店舗が入っており、そうでないところも出店で埋め尽くされていたが、大概の店も盛況のようで、大勢の客でごった返している。
大声をはりあげ商品を宣伝する者、掛け合いのような値切り交渉を続ける者、どめどなく立ち話をする者、理由はわからないが口喧嘩になっている者、それら全てが巨大な喧騒を織りなしていた。
「この辺りも、見違えたよなぁ」
感慨深げなユウヤ。この辺りはかなり城から離れており、建物を建設したのも最近のことだ。建設したのはユウヤ自身であるため、当然景色には見覚えがあるのだが、建物に店が入り、これだけの人出があると、当時とは全く違って見える。
ここはインぺリアの大通り、人間族の区画エルフ族のそれを区切る大通りである。水曜日の昼下がり、ユウヤはアンジェラとデート、いやインぺリア視察に出ていたのだ。
「そうねぇ、インぺリアもかなり大きくなったわよね。おかげで、視察も楽じゃなくなってきたわ」
くすくすと笑うアンジェラ。
建国当初から時折視察には出ていたのだが、以前は人間族の区画とエルフ族の区画の間の道路を街はずれまで行き、外周を経由して人間族の区画と魔人族の区画の間の道路を歩いて帰っても、さほどの時間はかからなかった。
しかし都市の範囲が急激に広がったため、町外れまで行って帰ってくるだけで半日かかるようになってしまっている。
「あんなところに喫茶店ができてるわ。ちょっと一休みしていきましょうよ」
「そうだな」
喫茶店の客はまばらだった。とは言っても、人間族の上流階級好みの上品な内装に見合うだけの「ちょっとお高め」の値段設定であるため、元は取れているのであろう。
アンジェラは優雅にティーカップを持ち上げ、紅茶の香りを楽しむ。
「悪くないわね。でも」
「でも?」
聞きながら、クッキーを口に放り込むユウヤ。
「お茶請けが、クッキーしかないのよね」
アンジェラは肩をすくめた。
「この世界じゃ、これが普通なんだろ?」
「それはそうなんだけど……城で慣れちゃってるのよね」
この世界ではお茶請けと言えばクッキーのことだ。城でのティータイムでは、各種のケーキからシュークリーム、アイスクリームなど様々なデザートが添えられるのだが、それらは前世にあったものを、ユウヤがこの世界で再現したものである。
とは言っても、カカオなどこの世界には見当たらないものもあり、ユウヤとしては満足していないのだが。
「例のレストランでも出してないのは何故かしら? 間違いなくうけると思うのだけど。料理を通じて町を発展させるんでしょ?」
「まぁ、そうなんだけど……実は、デザートの類は別の店で出そうと思っててな」
アンジェラはきょとんとした顔になる。
「あら、どうして?」
「まず、店が盛況すぎてな。これ以上メニューを増やすと料理人の負担が大きすぎる」
「それなら、料理人の数を増やせばいいんじゃないかしら?」
「あまり料理人が増えると、厨房の面積がな……それに、今でさえあれだけ大勢の客が詰めかけてるんだ。更にデザートまで出すとなると……」
「店のキャパシティが足りなくなる、でしょうね」
「そうだな。人気があるのは悪いことじゃないけど、あんまり長蛇の列ができるのもな……」
「それで、別の店ってわけね。喫茶店にするってことかしら?」
「いや、持ち帰り専門にしようと思ってる。回転率が一番いいからな」
「確かに……それがいいかもしれないわね。喫茶店であのデザートを出すと、それはそれで長蛇の列ができそうだし」
「そういうことだな。最近は店員がかなり育ってきてて、例のレストランも手がかからなくなってきたから、そろそろとりかかろうかと思ってる」
ユウヤは冷めた紅茶の残りを、一気に飲み下した。
ユウヤ達は店を出て、城に向かって歩き始めた。
「楽しみね、ユウヤの新しい店」
アンジェラがにっこりする。
「機嫌が直ったみたいで、よかった」
「え?」
「いや、店に入るまでは何か微妙な表情だったし」
「そうだったかしら?」
「微妙というか何というか、何か気にしてるような表情だったな」
「うーん……まぁ、確かに、そうだったかもしれないわね」
「で、何を気にしてるんだ?」
ユウヤはアンジェラの顔を覗き込む。
「うん……前々から視察の度に、うすうす感じてたんだけど……通りの真ん中、誰もいないのよね」
「まぁ、道路はかなり広く造ったからな。馬車も通るし」
「そうじゃなくて……気づかない? 道路を横切る人が誰もいないのよ」
ユウヤはハッとしたように道路に目をやる。道路が広くて真ん中に人通りがいないのはともかく、これだけ多くの人が行き交っているのに、不自然なほどに道路を横断する者がいない。
「確かに、そうだな……なんでだ?」
「見当はつくけど……とりあえず、市役所に行きましょ」
「市役所? 何でだ?」
「いいから」
アンジェラはユウヤの腕に腕を絡めると、さっさと歩き始めた。
「ようお越しくださいました、イサム様、アンジェラ様」
市役所応接室で、市長のロバートがにこやかに挨拶する。会議で月一回は会っているのだが、このところ以前に比べて仕事が落ち着いているのか、見る度に少しずつ恰幅が良くなっているようだ。
「して、今日はどういったご用向きでございますかな?」
「インぺリアは全ての種族が住んでるわよね」
「そうですな」
「各種族間に、どれくらい交流があるのかしら?」
「交流……ですか」
市長は白く長い顎髭を撫でながら、しばし考え込む。
「ふむ……即答はできませんが、言われてみればあまりないような気がしますじゃなぁ」
「交流がないのは何故かしら?」
「うーん……各種族ともそれなりの数がおりますじゃで、その種族の区画内だけで生活が成り立つから……では、ないでしょうかな。各種族の区画を区切る道路もとても広いですしなぁ……」
「ロバートは市長として、それが望ましいことと思う?」
「……あまり良いことではないかと。私自身は以前村長だった時も含め、立場上、他種族の者と話す機会は多いですじゃが、能力も習慣も考え方も全く違いますで、調整が必要なことも多かったですが……その分、人間族である自分では考えつかない発想など、得る物もあったと思っておりますじゃ」
「私もそう思うわ。私も帝国建国の時に各種族と相当やりあったから」
「……今おっしゃられるまで、考えが至りませんでした。不明の限りで……」
「勘違いしないで、あなたを責めてるわけじゃないのよ。市長が布告を出せば交流が増える、ってわけでもないし……ただ、やっぱり何か手を打った方がいいわね。来週の会議の議題にあげていいかしら?」
アンジェラがユウヤの方を見る。
「いいんじゃないか? 俺も会議までに、少し考えてみるよ。それにしても、いままで全く気が付かなかったな。さすが『カレドニアの賢姫』だ」
「からかわないでよ」
アンジェラがユウヤの肩に思い込みツッコミを入れた。




