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安直勇者 ~俺はなんでも安直に解決できる勇者様~  作者: 差肥塚 祝


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アンデッド

Chapter83

 「……何だって?」

 突然の悪報に、耳を疑うユウヤ。

 「ですから、大変遺憾ではございますが、遠征軍が敗北を喫しました……」

 跪いたままの伝令が、呻くように繰り返す。

 魔物討伐の為にに南の山に送っていた遠征軍が、敗北したというのだ。万全を期し、最精鋭部隊を送り出したにもか関わらず。

 「率いてたのはツァンフェイとフェイだろ!? あいつらがそうそう不覚を取るとは思えないんだが……」

 「ツァンフェイ閣下は重体、現在治療を受けておられます。フェイ閣下は敵に囚われ……安否不明でございます……」

 「囚われた? あのフェイが? おいおい……他の者ならともかく、フェイなら『飛翔』で逃げる位はできそうなもんだけどな……わかった。ツァンフェイから直接話を聞こう」

 「お言葉ではございますが、先ほど申し上げたようにツァンフェイ閣下は重体でございまして、意識もお確かではございません。事情を説明できる状態では……」

 「問題ない」

 ユウヤは執務室の机から立ち上がった。




 事の起こりは、インぺリアの冒険者ギルドで出回った噂であった。

 「南の山の麓で、魔物が大量に発生している」

 というものである。

 その噂を受けて冒険者達は我先と南の山の麓に殺到する。

 噂は事実であったらしく、腕に覚えがある者を中心に、大きな成果を挙げる者も数多くいた。

 稼げる場所がある、ということで冒険者達は更に盛り上がり、麓にいる魔物は徐々に数を減らし、それに伴って冒険者たちは段々山の方へ狩りの場所を移していく。

 そこまでは良かったのだ。

 狩場の標高が高くなっていくにつれて、アンデッドの目撃情報がちらほら出回るようになったのだ。

 アンデッドの種類はゾンビ、スケルトン、レイス、ゴーストとさまざまであったが、目撃情報は日増しに増えていった。

 実は、これは由々しき事態である。

 第一に、アンデッドの討伐は簡単ではない。既に死んでいるため、通常なら致命傷になる攻撃を受けても動き続けるためだ。増してやレイスやゴーストに至っては、物理攻撃を受ける肉体自体が存在しない。

 また、肉や皮などが得られない、つまり「美味しくない魔物」であり、前述の討伐し難さもあって、冒険者としても二の足を踏むわけである。

 また、おかしい点もある。アンデッドというものは自然発生するものではなく、死亡した者が偽りの生命を得て発生するものである。一体や二体であれば、偶然発生したり、他所から移動してくるということもあるであろうが、それにしては目撃情報が多すぎる。

 更に言えば、アンデッドの大部分は元人間である。しかし、今まで人の手が入ったことはない東の山で、アンデッドが大量発生するはずはないのだ。

 「つまり何か、アンデッドが大量発生する理由がある、ということよね」

 謁見の間にて、ギルド長から報告を受けたユウヤの側に座わるアンジェラが発言する。

 「大量発生する理由……ねぇ。どんな理由が考えられる?」

 とユウヤが返す。この世界について、ユウヤはそこまで詳しいわけではない。

 「まぁ、一番単純な可能性は野良の魔導士よね。この大陸で屍霊術は禁じられているから、それを極めようとする魔導士であれば、国に属して……というわけにはいかないでしょうし」

 アディオラが肩をすくめる。

 「屍霊術を極める? 何のために? アンデッドを呼び出せるようになる、なんてのがそんなに魅力的なのか?」

 「違うわよ。アンデッドの召喚なんてのはただの副産物にすぎないわね。屍霊術は生と死、つまり存在の根幹に関わる術なんだから、それだけでも研究対象として魅力的ではあるわね。私は興味ないけど」

 「ふぅん……で、そんなもん極めて、どうなるんだ? 若返るとか転生するとか?」

 「少し違うわね。屍霊術の究極の目的は、自らが永遠の存在となること。ユウヤは会ったことがあるじゃない」

 「え?」

 「『試練の迷宮』で、戦ったでしょう? 覚えてないの?」

 「……あぁ、リッチのことか。確か、アデバヨとか言ったか……あんな姿になりたいとは思わないけどなぁ」

 「ユウヤ、稀有な才能に恵まれた魔導士が一番最後に欲しがるものってわかる?」

 「最後に欲しがるもの、ねぇ……金とか地位とか名誉……とか、じゃないよなぁ……何だ?」

 「時間、よ」

 「時間?」

 「そう、時間。魔術っていうのは、途方もない膨大な知識の集積なのよ。大抵の魔導士は、それらをなぞるだけで人生が終わるわね。でも、一握りの魔導士は、その先を目指すわけ。でも、そうしたくても……」

 「人生が終わる、と」

 「そういうことね」

 「研究をいつまでも続けるには、永遠の存在、つまり、リッチになればいい、と。アディオラは目指さないのか?」

 ユウヤはアディオラを見てにやっと笑う。

 「冗談じゃないわよ、私は女よ? 骨だけになってまで長生きするなんて、冗談じゃないわ。それに、屍霊術は禁忌なのよ? よりによって帝国の皇后が手を出すわけにはいかないでしょ」

 「なるほどね……ん? つまり、南の山にはリッチがいるってことか?」

 「そこまで言ってないわ。ユウヤは実際に会っちゃったわけだけど、本来リッチなんて伝説上の存在よ。幾らこの大陸が広いといっても、そう何人もいるわけがないわ、ていうか、そんな存在が何体もいるなら、この大陸が滅ぶわよ。まぁ、質の悪い魔導士、と言ったところが妥当でしょうね」

 「なるほど。で、ギルドには手に余る、と」

 ユウヤは目の前に跪くギルド長に語りかける。

 「余りにも目撃情報が多すぎますので……不甲斐ないことで、申し訳ございません」

 「わかった。じゃあ俺が……」

 ユウヤが立ち上がろうとすると、静止の声がかかった。

 「お待ちください。このような際に動かずして、何の軍務省でしょうか」

 ツァンフェイがすくっと立ち上がる。

 「相手がアンデッドと魔導士であれば、我らも協力いたしましょう」

 フェイも立ち上がった。

 結果、軍務省と魔道省からなる遠征軍を編成し、事に当たる、ということになったのであった。

  



 城の一角にある医務室。広々とした部屋に、多くのベッドが置かれている。

 通常であれば閑散としたその部屋だが、今は大部分のベッドで痛ましい状態の兵達が呻きを挙げていた。

 天使族を中心とした、通常ならのほほんとしている医務官達が、今日ばかりはあちこちを駆けずり回って処置に励んでいる。

 「これは、陛下」

 部屋に入ってきたユウヤを認めて、老齢の天使族が跪く。医務室の責任者だ。

 「こりゃ酷いな……ツァンフェイはどこだ?」

 「こちらでございます」

 案内に従って部屋の奥に移動すると、まごうことなきツァンフェイがベッドに力なく横たわっていた。

 むき出しの上半身に何人かの天使族が包帯を巻いている。ツァンフェイの巨体に包帯を巻くのは、小柄な天使族には大仕事だろう。

 「容体は?」

 「は、体を何か所か貫かれておりましたが、『治癒』似て何とか傷を塞げましたので、命に別状はございません。当分目は覚まさないと思いますが」

 「体を何か所も貫かれた? よくここまで生きて帰ってこれたな」

 「は、不思議なことに、鎧ごと貫通しているにもかかわらず、傷口は針で突いたかのように小さな点に過ぎず……おかげで出血がごく少なかったことが大きいと思われます。もっとも、閣下の人並外れた、いや竜人族の中でも類まれなる閣下の頑健な肉体あったればのことですが」

 「じゃあとりあえず、目を覚ましてもらわないとな」

 と一人ごちたユウヤをアンジェラが一瞬睨んだが、諦めたかのように肩をすくめた。

 「この状況じゃ、仕方ないわね」

 ユウヤは原則として、部下たちの手伝いをすることを妻たちに禁じられている。

 大抵の仕事はユウヤがやった方が早いのだが、他者の仕事を奪うことは望ましいことではないし、第一キリがなくなるからだ。

 そのため、いくら多くの怪我人がいるといっても、ユウヤ自身が治療してやることはできない。医務官たちに任せるしかないのだ。

 ただし、ツァンフェイは別だ。至急報告をさせ、対策を練らねばならない。

 「起きろ、ツァンフェイ」

 ユウヤが魔力を大量に込めた『治癒』を叩きつけると、ツァンフェイは重体であったことが嘘であるかのように、がばっと起き上がって周囲を見回す。

 「……陛下……」

 「おはよう、ツァンフェイ。怪我の方はどうだ?」

 「体を何か所か貫かれ……ん? 何ともありませぬな……」

 「それならいい。じゃあ起き抜けの所悪いんだが、報告を頼む」

 「はっ……」

 遠征の結果を思い出し、やにわに表情が強張ったツァンフェイは、いつもに似ず暗い声で語り始めた。

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