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安直勇者 ~俺はなんでも安直に解決できる勇者様~  作者: 差肥塚 祝


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料理店開業

「次は、トンカツだな」

 そう言うユウヤの前に居並ぶ男たち。

 みな種族こそバラバラだが、その目は揃って真剣そのものである。

 レシピが完成してから既に3週間。

 ユウヤはここ最近、忙しい公務の合間を縫って、各国から集められた若く才能ある料理人たちにレシピの伝授を行っていた。

 (いくらレシピは作ってあるとは言っても、それを渡して後は自分でやれ、ってわけにもいかないしな)

 前にも述べたことだが、本来であればユウヤが事務能力を特に期待されていなかったこともあって、皇帝としての儀礼的な業務はともかく、事務的な業務はさほど割り当てられていなかった。

 しかし、ユウヤが事務能力に類まれなる才能を発揮したこと、帝都の建設に深く関わった、というか建築の殆どを自分でやっていることに加え、今回店を出すことになってしまったこともあり、やたらと忙しい身になってしまっていた。

 要するに、ユウヤの自業自得である。

 「まぁ、皆にとってはさほど難しい料理じゃない。材料はレシピにある通り、豚肉、ロースかヒレ肉だな、今回はロースにする。後は卵と……」

 ユウヤは説明しながら、実際に料理を作っていく。

 まずはロース肉を切り分ける。食べ応えを考えて、かなり厚切りにした。

 脂身がかなり多い肉だが、削ぐことはあえてしない。お世辞にも上品とは言えないが、この脂身こそが肝心なのである。脂身が好みでない客は、ヒレカツを食べればいいのだ。

 実際に隣の部屋で同時並行で進めているホールスタッフには、トンカツを頼む客にはロースカツとヒレカツ両方の特徴を説明して選んでもらうよう指導している。

 料理の種類が多いことや、平民向けの店とは言え、場所的に貴族が訪れることも考慮すると、ホールスタッフの教育にも手を抜くわけにはいかない。

 スライスした肉を丁寧に、筋切りしていく。肉はかなりいい物を仕入れているから、厚切りにしても噛み切れないということはないが、食べやすくするためには、やっぱり筋切りは欠かせない。

 次は肉に塩と胡椒をまんべんなく振っていく。塩はともかく、この世界では胡椒は馬鹿みたいに高い……かと思っていたのだが、実はそうでもなく、普通に料理に使われる程度の値段であった。

 それでもカネム・ボルヌ王国の特産品ということで、先の大戦まではかなり値上がりしていたようだが、大戦が終結して一年以上たつ今となっては、そこそこの基準に落ち着いている。

 小麦粉、溶き卵、パン粉の順番で肉にまぶす。ダマにならないように、薄く、かつ満遍なく付けていくのがポイントだ。

 後はフライヤーで、じっくりと揚げていく。

 そう、じっくりとである。前世でもこの世界でも、豚はしっかりと熱を通さないと危ない。

 かなり厚めに切った豚肉にしっかりと熱を通し、かつ固くならないようにするためには、低温で時間をかけて揚げなければならないよな。

 カラカラという心地よい音を立てながら豚肉という素材が、ゆっくりとロースカツという料理に昇華していく。

 「そろそろだな」

 フライヤーから肉を引き上げて暫く油を切ると、後は切り分けて完成だ。

 包丁を落とすたびに鳴るザクッ、ザクッという小気味よい音が、ちょうどいい揚がり具合であることを物語る。

 「これで出来上がりだ。塩とソース、マヨネーズを添えて、どれを使うかは客任せだな」

 ちなみに、トンカツにマヨネーズというのはあまり一般的ではないような気もするが、ユウヤの好みである。

 また、実はこのソースについて一苦労があった。店を出すことになった時、ユウヤの中でトンカツをメニューに入れることは早々に決めていたのだが、よくよく考えてみれば、この世界にトンカツソースなる物があるわけではない。

 それならば、専門店でよくあるように塩で食べればいいだけの話ではあるのだが、片に真面目な所があるユウヤは、どうしてもトンカツソースは外せないと考えたのだ。

 その結果、各国にある様々なソースや類似の調味料を味見して回ったり、試作を何度も何度も何度も繰り返したり、様々な苦労をする羽目になったのである。

 これは、実は普通の者なら早々に諦めるところである。各国のソースを味わって回るには時間も年単位でかかり、それにかかる費用も莫大なものになる。ましてや、各国の素材を組み合わせて試作を繰り返すなど問題外であった。

 しかしご存じのように、ユウヤは『転移』を使えるため、その限りではなかった。

 なまじ『転移』を使えるがために、返って膨大な時間をソース一つに費やす羽目になったのである。その甲斐あって、最終的に完成したソースはかなりの逸品になったのではあるが……




 料理人たちがそれぞれロースカツを揚げると、後は試食である。

 試食のメンバーには料理人たちとユウヤは当然として、ホールスタッフやユウヤの妻たちも加わっている。

 ホールスタッフが試食に加わるのは当然である。客に聞かれた際に、料理の内容も味もわかりません、では問題外だからだ。

 妻たちについては別にユウヤが必要と考えていたわけではなかったが、

 「この帝都で、しかも夫が出す店の商品を知らないというわけにはいかない」

 というよくわからない主張だの、

 「他の種族のレシピは試食してない」

 だの、果てはユウヤの服を掴んで黙ってじぃっとユウヤを見上げる誰かさんだの様々な主張をされ、連れてこざるを得なくなったのであった。

 皆はアツアツのトンカツに思い思いの調味料をつけると、一斉に頬張り始める。

 「おぉ……これは……」

 「このソースが、たまりませんなぁ。次はこのマヨネーズとやらで……」

 「ちょっと脂が多いですが……いやこの脂が、たまりませんわね」

 「我が国のシュニッツェルと同じような物かと思ったら……こう、食べ応えがあるというか……肉を厚切りにして、じっくり上げるのがポイントか……」

 黙って味に集中する者、色々意見をあげる者などいるが、全体的にかなり好評のようだ。

 「しかし、こんないい場所、よく手配できたな」

 ユウヤは傍らでロースカツを楽しんでいるアンジェラに話しかける。

 店員教育は店で実施している。人通りがとても多い目抜き通り沿いに位置する割にはかなり広い建物で、客席をかなり多くしたにも拘らず、広々とした厨房も確保できている。おかげで大きなオーブンも含めた様々な調理器具を余裕をもって設置したうえで、なお料理人達の動線もぶつからず、ストレスなく料理に専念できる環境を整えることができた。

 「都市計画を建てる身としては、いい場所を幾つか確保しておくのは当然のことよ。何時何の施設が必要になるか分からないから……まぁ、折角確保した場所が食堂になることまでは、予想してなかったけどね」

 チクリと返すアンジェラ。

 「そう尖がるなよ。実際、旨いものを食える、っていうのは帝都の発展のためにも大切なんだから、重要な施設、と言えなくもないわけだし。なぁ、ファニー」

 ユウヤはこの店の発案者であるファニーに話を振るが、当のファニーは

 「……ん」

 と言ったきり、目の前のトンカツと酒との往復運動に戻る。往復の速さから考えると、トンカツも相当気に入っているようだ。


 今日は色々な料理を試作するため、一品当たりの量はごく少なくしてあるのだが、ファニーの目の前だけはトンカツが山盛りになっており、傍らには酒で満たされた大きな樽が置いてある。一番大柄で、健啖家であるクァンメイでも、さすがにここまで大喰らいではない。

 いつものことながら、あの小柄な体の何処に入るのだろう、と改めて考えるユウヤであった。

 

 



 それから一週間後。

 ユウヤ、いや建前上はイサムの料理店は無事、予定通りオープンした。

 ユウヤは客からは見えない、特別室に待機している。店員への指導が終わったとはいえ、暫くは店の様子を見ておく必要がある。

 ユウヤは当然としても、なぜか妻たちも勢ぞろいしており、それぞれメニューを熟読している。今日は水曜日だから、担当皇后はアンジェラなのだが。

 そろそろ昼時ということもあり、何を食べるかそれぞれ悩んでいるようだ。

 皆試食には貢献してもらっているが、全てのメニューを制覇したわけではない。もちろん、試食済みのお気に入りメニューを頼むかもしれないが。

 皆は長い長い熟考の上、ようやく注文を決め、ホールスタッフに注文をする。アンジェラ、クァンメイは自国の料理を、ジュスティーヌとヴィキはユウヤの前世の料理を、ファニーとアディオラは他国の料理を注文した。それぞれの性格が出ているような気がして、なかなか面白いと思うユウヤ。一人だけ注文の量がおかしいのがいるが、今更である。

 もっとも、食後には皆心から満足げな表情を浮かべている。ユウヤはやっと苦労が報われたような気がして、軽く息を吐いた。 

 そこに、一人だけ席を外し、一般の客席の方を覗きに行っていたヴィキがぱたぱたと翼をはためかせて戻ってきたが、その顔は少し曇り気味である。

 「どうした? 食べ過ぎて眠いとか?」

 「違うわよ! こっちこっち」

 ヴィキに引っ張られて客席の方に向かったユウヤ。

 「ん? ……何も問題ないようだけど?」

 「何処がよ! お客さん、全然入ってないじゃないの!」

 「なんだ、そういうことか。まぁ最初はこんなもんだろ。値段も少し高めに設定したしな」

 「こんなもん、って…… 本当に大丈夫なの?」

 「まぁ落ち着けよ。事前に宣伝したわけじゃなし、店構えが派手なわけじゃなし、初日からそんなに客が入るわけないだろ。肝心なのは客の数じゃなくて、客の顔だ」

 「お客さんの、顔? ……ん-、なんか皆、満足そうだけど……」

 「そ。それが一番大事」

 「どういうこと?」

 「満足した客は、また来てくれるだろ? 中には他の客を連れてきてくれる人もいるだろうし、外でこの店の話をしてくれるかもしれない。だろ?」

 「うん、まぁ……確かに」

 「大丈夫、客席が埋まるのも時間の問題だから」

 「ホントに? 値段下げたりしなくて大丈夫?」

 「値段を高めにしたのも、ちゃんと理由があるんだよ。まず、あんまり安くすると他の店が潰れちまう可能性があるだろ? それはさすがに拙い。後、ある程度貴族が来やすくするために、あえて安売りしないって理由もあるな。平民の普段使いにはちょっと高いけど、ちょっとご褒美に行くにはちょうどいい店、ってところが狙い目だ。自分で言うのもなんだけど、俺が心血注いで厳選したメニューだぞ。ヴィキだって美味しい美味しいって連呼してたじゃないか、少しは信用しろって」

 あくまでも強気なユウヤ。

 その強気に過たず、ユウヤの店は各国の料理のみならず、どの国の物でもない斬新にして美味なる店であるという噂が一か月もしないうちに爆発的に広まり、富裕商人の会食や平民の祝い事、貴族が城下街に降りる際の定番の店、という評判を確固としたものにしたのであった。

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