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安直勇者 ~俺はなんでも安直に解決できる勇者様~  作者: 差肥塚 祝


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出店計画

  「で、一週間ほど皆で街を見てきたわけだけど……」

  

 ユウヤは話し始める。 

 全曜日の昼下がり。公務と昼食が終わった後、ユウヤの居室で、皆でテーブルを囲んでお茶をするのはもはや恒例と化していた。応接セットで座る場所もなんとなく決まっている。ユウヤの両隣にアディオラとファニー、正面にアンジェラとクァンメイ。ユウヤからみて右手の椅子にはジュスティーヌ、左手の椅子にはヴィキ。

 ファニーはおくぴくぴと際限なく酒を吞み続け、ジュスティーヌは竪琴をかき鳴らし、ヴィキが時々ユウヤの肩に乗ってくるのもお約束だ。

 「現時点での街の状況と、改善点がある程度見えてきたよな」

 ここ一週間、各皇后は日替わりで、ユウヤと共に街をお忍びで視察していた。無論散歩というか、デート的な部分もあったのだが、流石にそれだけではなく、街の様子をつぶさに観察し、問題点を洗い出すということもやっていたのだ。

 アンジェラから答えていく。

 「そうね。まず移民が想定以上に増えてるから、窓口が足りなくなってるって問題があったわね」

 ジュスティーヌが軽く竪琴をなでながら続ける。

 「今でも城外に畑を作ってる者はいるけど、今後移民が増えたら賄えなくなりそうってことだったよね」

 クァンメイが引き継ぐ。

 「急激に人口が増えたので、治安が少し不安ですわね。六種族全てが共存する都市などこれまでになかったので、そのせいもあるでしょうが……今はまだ小競り合い程度で済んでますが」

 皆が意見を出し合い、おおまかな解決策を話し合っていく。

 「じゃあ、まとめようか。まず移民の受け入れについては、各種族の区域ごとに支所を開設して、業務を分散すると。農業については、城外に大規模な農業区域を設ける。治安については、平民から衛兵を追加で募集して、巡回を増やす……こんなところか」

 「いいと思うわよ。担当大臣に指示を出しておくわね。ユウヤには、新しい庁舎の建設と、農業区域の大雑把な開発、具体的には木の伐採と整地をお願いするわね」

 「わかった。庁舎の建設地と、農業区域の選定と、設計が決まったら教えてくれ。ところで、農業区域は木の伐採と整地だけでいいのか? 水路を掘ったり、土地を耕したり、色々やることはあると思うけど」

 「その辺りは農民達自身にやらせた方がいいと思うよ。自分が整備した、自分の農地だからこそやる気も出るわけだし、一から十まで面倒を見すぎるのは、却ってよくないと思う」

 「そんなもんか……わかった。他にはもうないか?」

 ユウヤはまとめに入ったが、意外な人物が呟いた。

 「……美味しくない」

 「え? ファニー、何か言ったか?」

 「……美味しくないって言った」

 ファニーはそう言うと、手に持った大振りのジョッキを傾ける。

 「美味しくない? 今呑んでる酒のことか?」

 「……違う。街の食べ物がおいしくない」

 「はぁ? あんなに食べてたじゃないか」

 ユウヤの記憶では、ファニーは視察に出た時、それこそ全ての店を制覇でもするつもりかというくらい、色々な店で色々な物を食べまくっていたはずだった。その小さい体で、食べた物は何処に行くのだろうというくらいの健啖ぶりだったはずだ。特別に強靭な体を持つユウヤでも、ファニーに付き合うのはちょっとつらかったくらいだ。

 (まぁ色々食ったけど、確かに味の方はちょっと、あれだったよなぁ……)

 時間が解決するのを待つしかないか、と思っていたユウヤ。

 「……色々食べたから、言ってる」

 「う……まぁ、確かにそうだけど……」

 「……住民にとって、食べ物が美味しいことは、大切。食べ物の美味しくない街に魅力を感じる人はいない」 

 確かに前世でも、大きな都市には魅力的なお店が多かったのは事実である。

 「だからといって、こればっかりはなぁ……店ごとに味を改善しろって命令するわけにもいかないだろうし……」

 「……手本があればいい」

 ファニーはそう言うとジョッキを持つ手を止め、真ん丸な目でじいっとユウヤを見上げる。

 そのまま暫く見つめっていた二人だが、ユウヤが諦めたかのように溜息をついた。

 「……つまり、俺に店を出せ、ってことか?」

 ファニーはこくりと首を縦に振る。それとは対照的に、ファニーがが首を傾げた。

 「皇帝陛下自ら出店するの? それは流石に無理があるんじゃ……」

 そこに、少しニヤニヤしながら聞いていたアディオラが助け舟を出した。

 「それはさすがに無理よ。でも例えば、ユウヤがレシピを考えて、料理人に教えて……」

 クァンメイが続ける。

 「その料理人に店をやらせれば、いいわけですね」

 アンジェラが手を叩く。

 「ユウヤがイサム名義で店のオーナーになってもらって、店員に諜報部員を混ぜることも簡単よね。街の情報も手に入りやすくなるんじゃないかしら」

 「話が弾んでるようだけど、街でも美味しい物が食べたいだけじゃないだろうな」

 ユウヤが睨むと、皆は少し目をそらした。

 「まぁいいや、面倒ではあるけど、悪い案じゃない。そうだな、平民向けに、なるべく安く作れるようなレシピにして……皆には料理人の確保を頼んでいいか? 各種族向けの料理が出せるようにしたいからな。それなりの腕がある奴で、なるべく若い奴を頼むよ」

 皆がこくこくと頷く。

 「後は……場所だな。アンジェラ、店の場所を見繕ってくれ。なるべく広い場所がいい。余り客が多くなるようなら、将来的には店を増やすのもありだけど、料理人を鍛えるなら、最初は一店舗でやらないといけないしな。後は……そうだ、その店とは別に、各王国の美味しい店に、支店を出すよう打診してみるのはどうだ? これは皆に頼む」

 こうして、インぺリア城下街の食文化改善計画が決まったのであった。




 次の日から、ユウヤは頭を抱える羽目になった。

 とは言っても、役所の支所を建設するのは場所の選定待ちであるし、ユウヤにかかれば建物の建設はすぐに終わる。農業区域は広大なものになる予定のため、それなりに手間がかかるであろうが、これは設計が完成しないと取り掛かれないため、逆に今できることは何もない。

 忙しいのは、付け足しで実施することになった食文化改善計画である。

 これも場所と料理人の選定待ちではあるのだが、それらが終わる前にレシピを考えておく必要があった。

 前世のユウヤは料理人として修行していた身であり、その記憶力は人間レベルではないため、レシピなどいくらでも……というわけには、実はいかない。

 ユウヤがその記憶力を手に入れたのは、前世で死んだ後の話である。従って、ここで肝心な前世での料理の知識については、記憶力は通常の人間並みでしかないのであった。

 それでも、それなりに覚えていることは少なくないのだが、大量のレシピを作るとなると、意外に問題は多かった。

 しかし、この世にない調理器具や料理法も多々あったのだが、これはさほど問題ではない。

 器具はユウヤが『造型』で作ればいいし、料理法は教えればいいだけの話だ。

 まず、使える食材が違う。一番困るのは、ここインぺリアは内陸にあるため、新鮮な魚介を使ったレシピは役に立たないということだ。前世と違って、内陸まで新鮮な魚介を運ぶルートがない。

 正確には、ユウヤや妻たちが食べる分には、その気になれば『飛行』や『転移』を使うなどすれば何とでもなるのだが、流石に、多数の客が想定される店の仕入れを毎日皇帝陛下自身が行うわけにもいかない。

 それに、肉や野菜、調味料についても、前世と今では種類が違う。前世で当たり前に売っている野菜がなかったり、逆に前世にはない魔獣の肉や野菜があったりする。極端に言えば、前世と同じ素材でも、味や食感が全く違う、などということもざらにであった。

 更には、値段の問題もあった。街の食文化を底上げするのであれば、料理の値段は平民が出せる範囲に抑えなければならない。

 しかしながら、この世界で平民としてまともに暮らしたことがないユウヤは、当然ながらこの世界の素材の相場など知る由もない。

 従って、急遽ジュスティーヌに用意してもらった食材の相場の表とにらめっこしたり、こっそり市場に繰り出して価格を調べたりする必要があった。

 

 もちろんユウヤの本業は皇帝であるため、午前中はそちらの公務がある。

 そんなわけで、このところのユウヤは午前に公務、午後からひたすら料理の試作を繰り返す羽目になったのだった。

 当然、試食をする者も必要である。種族によってそれぞれ味の好みもあるため、最初はユウヤとその日の担当皇后が試食をしていたのではあるが、皇后の胃袋には当然限界がある。大喰ら……いや並外れた健啖家のクァンメイやファニーは別だが。

 (大柄で、訓練で体を動かすことが多いクァンメイはともかく、ファニーが食ったものは一体どこに……)

 と思うユウヤ。

 そのため、ここのところ皇后だけではなく、試食の手伝いをする侍女たちも、自分の腹周りをそっと見ることが多くなっていた。

 そんなことがありながらも、少しずつレシピを書いた紙が束になっていく。

 そしてある日、ユウヤはひとりごちた。

 「とりあえず、こんなもんか……長かった……自分で自分を誉めてやりたい。これで、やっとのんびりできる……」

 感慨深げに、分厚くなったレシピを両手に捧げ持つユウヤを見て、アンジェラが首を捻る。

 「長いことお疲れさま。随分と大量にレシピを作ったところで腰を折るようだけど、出店は一店舗だけなのよね? こんなに多くのレシピ、本当に必要なの?」

 「普通ならもっと少なくていいんだろうけどな。このインぺリア、六種族全てが住んでるわけだろ? 種族ごとのメニューが必要なんだよ」

 「え? ユウヤの世界の料理を出すんじゃないの? ……そういえば、試食ではうちの国の郷土料理が多かったような……」

 「客寄せには、故郷の料理が必要だろ? それに前世の料理を加えたら、これだけ大量のメニューになったってわけだ。俺としては、最初はともかく、ゆくゆくは常連客に他国とか前世のメニューも試してみるようになってほしい所だな」

 「そうね、ユウヤがこれだけ頑張ってくれたんだし、どれも美味しかったし……他国の料理は食べてないけど。ところで、お知らせがあるのだけど」

 「お知らせ?」

 「そのレシピを伝える相手、つまり新しい店の料理人達が揃ったわよ。今日から鍛えてちょうだい。後は……」

 「まだ何かあるのか?」

 「お店と支所の建物の場所の選定が終わったから、建設をお願い。後、ジュスティーヌが面会したいって言ってるわ。農業区域の大まかな設計が終わったから、報告をしたいらしいわよ。地区の木の伐採と整地、早く取り掛かってほしいみたい」

 思わず椅子からずり落ちた、ユウヤであった。

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