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安直勇者 ~俺はなんでも安直に解決できる勇者様~  作者: 差肥塚 祝


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人質たる王

 「もっともらしいことを言うが、証明できるわけでもあるまい……危険は排除しておくに如くはなし」

 刃をユウヤに向け、一歩また一歩とにじり寄ってくるオブライエン卿だが、

 「止めよ、オブライエン卿」

 少し高い、幼くはあるがハッキリと響く、凛とした声が響いた。

 「陛下……恐れながら、私はマジャル王国の者。陛下に命令される筋合いはございません」

 と拒否するオブライエン卿に、今度はマクマホン卿が激高する。

 「我が王に対し、無礼な!」

 と、再度剣を抜き放った。しかし、声の主は慌てるでもなく続ける。

 「良いから一旦剣を引け。オブライエン卿、確かに其方は私の配下ではないが、ここは朕の顔を立ててくれ。今は藁の一本でもすがらねばならぬ時なのだ……それはわかっているだろう」

 奥の帳から、声の主らしい、豪華な服装に身を包んだ人物が姿を現した。凛としたたたずまいではあるが、声や背の低さ、顔の幼さからすると、年のころは10歳を少し超えたくらいであろうか。先程の言葉やその豪華な服装は、その人物が王であることを明確に示していた。過酷な状況のせいか、少しやつれて見えるのが痛々しい。

 (父王が処刑されて、王とは名ばかりの部隊長みたいな扱いをされてるみたいだしな……気の毒に)

 幼王に制せられたオブライエン卿とマクマホン卿は渋々といった様子で、ようやく剣を鞘に納める。

 「そこの者、朕はセックネール2世、ここロングフォード王国の王である。その赤い目、浅黒い肌に刺青……もしかして、噂に聞いた魔人族ではないか? 東の大陸に住む、我らをはるかに超える魔法の力を持つ民だと聞いたことがある。他にも竜を手なずける民族などもいると聞く。我らでは奴らに抗すること能わなかったが、其方等ならその限りではないかもしれぬ。とりあえず、話をしてみたいと、朕は思うのだ」



 

 ユウヤは座を与えられた。とは言っても椅子もテーブルもなく、地面に敷かれた絨毯に

皆で車座になって座っているだけだが。

 次いで、車座に座っている10人程度を紹介される。オブライエン卿以外はロングフォード王国の重鎮で、マクマホン卿は大将軍、つまり軍のトップとのことであった。

 「それで、東の大陸、ヘキサゴニア帝国と言ったか? 其方等は奴らに対抗できそうなのか?」

 「メルキット=ハン国の兵力が分からない今の時点では、何とも言えませんね」

 「そうか……」

 セックネール2世はあからさまに落胆した表情になる。

 「ただし、先程陛下がおっしゃったとおり、人間族にはない能力を持った種族もおりますし、兵力も少なくはありません。首脳陣で降伏を考えている者などいないのです。私がここに来たのは、如何にメルキット=ハン国を叩くか、それを探るための情報収集のためです」

 正確には竜を手なずける民族ではなく、竜に変身できる種族なのだが、あえて訂正はしなかった。

 「ふむ、それで……情報収集の成果は如何に?」

 「ある程度の収穫はありましたし、対応策もうっすらとは考えています。ただ、まだまだ十分とは言えません。ここに来て、わざわざ姿を表したのも、ここにいる皆様から情報を得たいと考えたからです」

 「……いいだろう。何が聞きたい?」

 「まず、奴らの強さの理由と、奴らの兵力ですね」

 「マクマホン、頼む」

 セックネール2世に促されてマクマホン卿が説明を始めたが、メルキット=ハン国の強さの秘訣は、町の酒場で聞いたものとユウヤの推測を裏打ちするものであった。確かに、騎兵の突撃は逃げられるうえに弓で絶えず反撃される、こちらの騎兵が崩れたら逆に向こうの騎馬がこちらの歩兵を巧みに避けて弓兵に突撃する、おまけに魔法も効かないというのでは、即応することは難しいだろう。しかし、ユウヤが気になったのはそこではない。

 「総兵力、二十万? 幾らなんでも、水増ししているのでは?」 

 「残念だが、そうとも言い切れない。確かに、今ここにいるのは二万程度だが、我らが破れた戦の際には三倍程度の兵数がいた。加えて、現在トクタミシュの五人の息子がそれぞれ三万程度の軍勢を率いて、周辺各国を攻略している。これがトクタミシュから聞いただけなら疑う余地もあるが、我が国が元々各国に放っている密偵からの情報とも合致している。二十万とは言わずとも、それに近い兵力はあるだろう」

 「……それは、妙ですね。一般的に遊牧民族というものは、少数の部族単位で独立して生活するものだと聞いたことがあります。現にトクタミシュも、辺境の小部族の出身と聞いたことがありますが……どうやって短期間で、それほどの兵力を蓄えたのでしょうか?」

 「そのことか。まず、メルキット=ハン国の軍は、大きく三つに分類される」

 「そういえばこの陣のテント、三重の同心円状に配置されていましたが、何か関係が?」

 「気づいていたか。まず、中心にあるのがトクタミシュとその家族、及びその親族となる諸部族から成る軍だ。数としては少ないが、メルキット=ハン国の中核をなす」

 「血縁関係だから、まとまりやすかったと。忠誠も期待できそうですし」

「そんなに単純な話ではない。遊牧民族というものはその名のとおり、遊牧で生計を成している。あまり部族が大きくなると、家畜が居留地の草を食いつくしてしまうからな。故に、部族が大きくなると、部族長の息子は一部の者を連れて独立する。そんな彼らが一つにまとまるというのは、通常では考えにくいのだ。ところがトクタミシュという一人の異常者が、それを覆してしまった」

 「異常者……覆したとは、どうやって?」

 「これはトクタミシュが酒宴で自慢げに語っていたことだが……奴は元々、部族長の息子だった。この父親は武力に優れ、周辺でも勇者として信用の厚い男だったらしい。トクタミシュは若いうちから部族内だけではなく周辺の部族からも武に優れる取り巻きを集め、馬上弓の訓練を繰り返していた。周辺の民族への備えだ、と言ってな」

 「それで?」

 「ある時、父親が病で臥せった。多少体調を崩した程度だったらしいが……突如トクタミシュは行動に移したのだ。まず奴は取り巻き達に、トクタミシュ自身の馬を射るように命じた。ただでさえ馬は遊牧民族にとって宝物であるうえに、部族長の息子の馬だ。逡巡する者もいたのだが、そいつらは馬ごと射殺された」

 「……」

 「次に、トクタミシュは自分の愛妾を射させた。逡巡するものは、やはり殺された。そして最後に、自分の父親を射させた。もはや、逡巡する者は射なかったらしい。いや、残っていなかったというべきか」

 「……まさに、異常者ですね」

 「仕上げは周辺の血縁がある部族だ。取り巻きを引き連れて、脅して回ったらしい。ご丁寧に、自分の父親の首を持ってな。名高い勇者の首を抱えたトクタミシュの背後には弓をつがえた多数の取り巻き、増してやその中に自分の部族の若者までいるとなれば、抗う部族は殆どいなかったそうだ。拒否した部族も、今は一人もこの世にいないと笑っていたぞ」

 「……そいつらが、メルキット=ハン国の主力、ですか」

「ああ。ただ、こいつらはメルキット=ハン国でも一番優遇されている。鞭と飴と言ったところだ」

 「第二の軍は?」

 「遊牧民族のうち、トクタミシュとは血縁がない、あっても遠縁の部族だ。数としては一番多く、主力とも言える。遊牧民族だけあって、馬上弓も得意だ。数が多いといっても部族あたりの人数は知れてるから、メルキット=ハン国の大軍の前に結束する暇もなく、次々と軍門に下ったそうだ。最初の何部族かを鏖にしたのが効いたと言い放っていたぞ」

 「で、第三の軍が……」

 マクマホン卿は悔し気に表情を歪める。

 「……我らだ。つまり、定住民族で、奴らに降った国の軍だ。先の二軍とは、待遇に差をつけられていることもあり、忠誠心は低い」

 「どんな差が?」

 「国が傾くほど莫大な税が課される。奴らにとって我らなど、収奪する富を生むだけの存在にすぎないのだ」

 「近くの城下町に全く活気がなかったのは、そのせいですか。加えて、こうして軍役も課される、と」

 「軍役と言っても、主力である騎馬軍に編入されることはない。馬上弓を扱えぬ騎兵などいらぬそうだ。我らを軍に加えるのは、戦力としてではない」

 「戦力じゃ……ない?」

 「我らの役割は二つ。人質と、囮だ」

 「人質と、囮……」

 「そうだ。形式上一軍ではあるが、要は我らの母国に反逆されぬための囮なのだよ。だからこそ、こんなテントなどに王がおわすのだ。ご母堂である皇太后陛下を始めとした他の王族の方々と引き離されてな。しかも、戦闘で囮が必要な場合は、我ら第三軍が動員されるのだ」

 そう話すマクマホン卿は、憤怒そのものの表情であった。

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