44 壊れた瞬間。
今日の部活は午後練習だったから、圭一先輩と登校した。
一年生組にも誘われていたが、「行く前に寄るところがあるから。」と断った。
圭一先輩にどうしても聞きたいことがあったからだ。
けれど……結局、言い出せずに部室についてしまった。
着いたと言えば着いた。部室の前に。
いつも閉まっている扉が開いていて、中からは何があったのか抗論が聞こえてきたから、思わず立ち止まってしまったのだ。
二人して顔を見合わせ、恐る恐る中を覗くと、琢磨先輩が梓先輩に無理やりキスするのが見えた。
それが離れた瞬間、琢磨先輩の頬をを梓先輩が殴った。平手打ちではなく、グーで。
「もう、知らない!」
梓先輩はそう叫ぶと、廊下を走り抜けていった。
慌てた様子の琢磨先輩も続いたが、二人とも私達二人には気がついていないようだった。
「すごい場面に出くわしちゃったな……。」
「そう……ですね。」
「……ねぇ、優李ちゃん。僕の思い過ごしじゃあなかったらさ、言いたいことあるんじゃない?
さっきから、言おうとして止めてるでしょ?」
先輩が、顔をのぞき込むように尋ねてきた。
「まぁ……ありますけど。」
私は目線をそらした。
「言い出しにくいこと?」
「はい…。でも……今二人きりだし…
何時までも一人で考えているのはもう嫌なので言います。」
私は先輩の目をしっかりと見つめて、こう訪ねた。
「先輩、私のこと……好きではないですよね。」
「……どういう?」
「恋愛対象で好きなわけでは無いですよね?
だって……圭一先輩の好きな人は咲先輩なんだから。」
「!!どうして…」
「どうして分かったのかってことですか?
……分かっちゃったんです。ずっと見てたから。
一目惚れ……だったんですよ?」
先輩はうつむいて、何か考えているようだった。
どうせ私達二人は終わりだ。それなら、洗いざらい全て言ってしまおうと思った。
「咲先輩に片想いしているのも知った上で告白したんです。
先輩はこの告白を断らないだろうと知った上で。」
そう、はっきり言って汚いまねをしたと思う。
圭一先輩に本当に好きになってもらえる可能性は一ミリほどしかないと思っていた。
でも、圭一先輩は片想いの苦しさを知っているし、
だからこそ告白を受けて、私のことを好きになってくれようとすることも、予想がついた。圭一先輩はそういう人だから。
……だからこそ、一ミリほどの望みに賭けてみたかったのだ。
「……ごめん。ごめんな。
おまえのことを好きになってやれたらって何度も思ったよ。
でもな、やっぱり妹以上には見れなかったんだ。」
ごめんと謝る先輩に、私はぶんぶんと首を振った。それはもう、もげそうなぐらいに。
「謝らなくていいです。いい夢見させてもらいましたし。」
少しだけ笑って見せた。
まぁ、咲先輩と両想いだってことは、私からは教えませんけど。
義務もありませんし。これぐらいのことは、許してくださいよ?
こんなことを頭の中で考えているぐらいだから、きっとまだ、少しだけ余裕が残っているのだろう。
……それなら。
「先輩、大好きでした。」
あ、だめだ。涙が溢れ出してしまう。そう悟った瞬間、私は走り出していた。
せっかく笑ったのに、泣き顔を見られたら台無しだ。
もう、上手く笑える自信がなかった。
先輩は、呼び止めもしなかったし、追いかけても来なかった。




