45 涙。
下を向き、涙がこぼれ落ちないように手で覆い、廊下を走り抜ける。
部活はどうするんだとか、忙しい時期なのに大丈夫なのか?なんていう、冷静な判断をする頭は残っていなかった。
「!!」
いきなり何かにぶつかった感じがした。言っておくが、ここに壁はない。そして感触は柔らかい。
「す、すみませっ……」
人にぶつかったという事実にやっと気がついた私は、何とか謝罪を述べた。
勢いで顔もあげようとしたが、顔が上がらない。
「あれ?ユウリィじゃない?」
この声は、と周りの声をしっかりと聞いてみると、どうやら一年生組七人ということが分かった。
但し、私に気がついたのは、男子よりも少し後ろを歩いていた女子二人、それと優壱だけだった。
残りの男子は何やら話に夢中のようだった。
そして、上履きの名前のおかげで、どうやら優壱の胸に飛び込んだらしいということが分かった。
そして今、優壱に頭を押さえつけられているらしいことも。
察しのいい優壱に感謝だ。だって、涙は止まっていないのだから、顔あげたらバレてしまう。
泣き顔を見られるのは嫌だった。
今すぐ顔をあげたいが、どうしようもない。
「どうしたの?」
女子二人が近づいてくるのが分かった。
こっちに来ないで!何て言えるはずがない。
すると、優壱が私の表情を隠すようにして、私を抱きしめた。
「あぁ、そっか。優李は急用か。あっ!オレも用事あったっけな。」
優壱はそういうと、私を抱き締めながら方向転換して、女子二人よりも後ろへ歩いていく。
「大丈夫、そんなに暴れなくても放してやるよ。」
私は暴れていないのに……。抱き締めていることを、自分だけのせいにしてくれた……?
不思議そうな顔の二人からある程度離れると、手をほどいてくれた。
「ほら、言ってこい。」
その声は、今まで聞いたことのないくらい優しかった。
「優李……?」
千津の声が聞こえたけど、振り向けなかった。
今振り向けば、優壱の行為がムダになる、ということだけが頭にあった。
走りながら、むきになって何度も何度も拭ったが、やっぱり[それ]は簡単に止まってくれはしなかったのだった。




