第36話 「ラドの上官を探して」
翌日、エマはアルドスを訪ねた。
応接室でブロンソンとリアムの二人に向き合い、ラドスティンの話をした。戦争奴隷になった元仲間のジェラルドという人物が、以前ラドスティンがいたエアニー奴隷商に残っている可能性があること。
「……エアニー奴隷商ですか」
ブロンソンが少し顔を引き締めた。
「エアニーは、同業者の中ではあまり評判が良くない。奴隷の扱いが……」
ブロンソンは言葉を選んだが、エマには伝わった。
「急ぎますか」とリアムが言った。
「できれば早い方がいいです」
「分かりました。奴隷商の伝手を使って問い合わせてみます。ただ、時間がかかるかもしれません」
「お願いします」
一週間後、連絡が来た。
リアムが店に来て、少し難しい顔で言った。
「ジェラルドさんの話、確認が取れました。エアニーにまだいます」
エマは少し息を吐いた。
「ただ……かなり長く過酷な環境にいたようで、体調が思わしくないとのことです。すぐに移動できる状態ではないかもしれません」
「アルドスで引き取ってもらうことは可能ですか。体調が回復するまで、ここで面倒を見てもらって」
「ブロンソンさんにはすでに話しました。可能です。回復までに時間がかかるると思います。購入費用についてはエアニーの言い値になりますが……」
「払います」
エマはそう言ってから、少し考えた。
「ただ、この件はラドスティンさんに内緒でお願いしたいんです。まだ確定していない状態でラドスティンさんに期待させたくなくて」
「……分かりました」
エアニーとの交渉が始まった。
価格はブロンソンが予想していた通り、かなり高かった。戦争奴隷で体が大きく、元兵士という経歴があるためだ。エマは交渉を全てブロンソンに任せた。
交渉が決着して、ジェラルドがアルドスに移送されるまでに一ヶ月かかった。
その間も、エマはラドスティンに何も言わなかった。ただ、採取の帰り道に「ラドスティンさんはどんな人だったんですか」と聞いたことがあった。
「……ジェラルドか」
「はい」
「真っ当な人間だった。兵士の中では珍しく、私欲がなかった。負けた後、俺たちが売られる時、何度も抵抗して……最後は縛られて引き離された」
ラドスティンの声は平坦だったが、その言葉の重さは分かった。
「……それが七年前ですか」
「七年前だ」
沈黙があった。エマは何も言わなかった。ただ、隣を歩いた。
一ヶ月後の朝、エマはラドスティンを呼んだ。
「一緒に来てほしいところがあります」
アルドスに着くと、リアムが部屋の扉の前で待っていた。
「準備ができています」
ラドスティンが少し首を傾けた。エマが扉を開けた。
部屋の中に、一人の男性がいた。三十代後半か四十代か。痩せていて、顔色が悪い。ただ、その目がラドスティンを見た瞬間に、大きく見開いた。
「……ラドスティン?」
ラドスティンが固まった。
「……ジェラルド」
長い沈黙があった。ラドスティンが一歩踏み出した。ジェラルドが手を伸ばした。七年ぶりの再会だった。
エマはそっと部屋を出た。扉を閉めた廊下で、リアムが少し目を赤くしていた。
***
「……エマさん、良かったですね」
「良かったです」
エマは短く言った。
それだけで十分だった。
「ところで魔女さん。領域を宣言するというのは本当ですか」
「情報が早いですね」
「商売人は情報が命ですよ。魔女さんが領域を宣言するなら、開拓にうちの奴隷を使わないですか?魔女さんの領域で過ごせるのなら、うちの子たちも安全ですし……何より魔女さんがこの王都から出る時に王都店も移転しようと思っているんです」
「開拓するのにレンタルはお願いしようと思っていましたが……王都店を移転するんですか」
「最近この国はきな臭い。魔女さんが出て行くならそれに乗っかろうと思うものは少なくないと思いますよ」
エマは自分が何かのきっかけになるとは思っていなかった。
曖昧に笑ってお店を後にした。




