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虐げられた令嬢は魔女になり、誰にも奪われない領域を作る〜義妹に全てを奪われた伯爵令嬢、奴隷たちと帰る場所を創る〜  作者: 薄氷薄明


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第33話 「帝国の影と大型魔獣」

 春が来る頃、王都に不穏な空気が漂い始めた。


 最初は小さなことから気づいた。ギルドに来る依頼の種類が変わった。通常の素材採取や魔物討伐が減り、偵察や情報伝達に関わる依頼が増えた。騎士団の装備が新しくなったという噂も耳に入った。王都の外から来る行商人が、例年より少ない。


(シュターデン帝国の影響か)


 確信は持てない。しかしこの大陸でロドワール王国が最も警戒すべき国は帝国だ。

 ラドスティンが奴隷にされた七年前の戦争、それも帝国との戦いだった。


 はっきりした証拠がないまま、日々は続いていた。



***




 転換点になったのは、ある夕方のことだった。


 店の片付けをしていると、外で大きな音がした。建物が揺れるような衝撃と、叫び声。


 ロンとラドスティンが先に飛び出した。エマも続いた。


 通りの向こう、五番街と六番街の境目の広場に、魔物のようなものがいた。

 屋台ほどの大きさ、複数の魔物を継ぎはぎしたような体。


 周辺の住人が逃げ惑い、衛兵は遠巻きにしている。


「……何あれ。魔物?なぜこんな場所に?」


 エマは思わず呟いた。


 このサイズの魔物はルズマイスのような深い森にしか生息しない。

 王都の住宅街に現れるのは、常識的にあり得ない。




 ロンとラドスティンが剣を抜いたと同時、エマに魔物からの攻撃が放たれた。



「エマさん、——」


 ロンが咄嗟にエマを抱き抱え、向けられた魔物からの攻撃を躱した。


 ラドスティンは魔物を自身に引きつけるように切り掛かった。ラドスティンの攻撃を受けて体液を流しながらも、その魔物はまだ存在していた。

そしてブレスのような攻撃をさらに放った。


 エマはラドスティンに抱き抱えられたまま、魔物の周辺の建物や衛兵たちに防御魔法を放ち、被害は出なかった。


 ロンはエマをそっと下ろした。


「エマさんは、魔物の周囲に障壁をお願いできますか?」


「もちろんです」


 その言葉を聞き届けた後、ロンもラドスティンの元へ走りそのまま二人で魔物を攻撃を繰り返した。


 複数回の斬撃と魔物からの攻撃の後、魔物の動きが止まりその体が倒れると同時に崩れていった。


 周囲が静まり返った。



「……助かりました」


 衛兵の一人がエマたちに声をかけた。


「こういう魔物が王都に現れるのは、初めてですか」


「先月も一件ありました。場所は別の通りで。ギルドのA級冒険者が対応しましたが……不自然な点が多いです」


 エマは帰り道ずっと考えた。


 王都近くに大型魔物が一体だけ出現するのは不自然、魔素の流れが乱れて現れたなら、魔物が何体か沸くものだ。

 自然現象ではないなら——誰かが意図してそうしている可能性がある。



***



 その夜遅く、ヴィアンが来た。普段は昼に来る王弟が夜に訪ねてくるのは初めてだった。


「遅い時間にすみません。少し、話したいことがあって」


 相談スペースに移って、向かい合った。


「魔物のこと、聞きました、エマさんたちが倒したと」


「ギルドへの申請が間に合わなかったので、後から報告を出します」


「それは問題ありません。……実は、調査の結果、魔物を誰かが召喚させた痕跡が今回は残っていました」


「……召喚ですか」


「誰が、何のためにやっているかは、まだ調査中です。ただ——」


 ヴィアンは少し間を置いた。


「帝国には気をつけてください」


 エマは少し黙った。


「もう一つ、別件で」ヴィアンは続けた。


「エマさんのことを探っている人間が、少数ですがいます。誰なのかを調べようとしている貴族が」


 エマの手が止まった。


「……どういう人間ですか」


「はっきりとは言えません。ただ、エマさんには心当たりがあると思って、伝えておこうと」


 ヴィアンはそこで止めた。直接は言わなかった。だがエマには伝わった。


(私の出自を……調べている人間がいる)


「……分かりました。教えてくれてありがとうございます」


「……何か、考えていることがあれば……後ろ盾になることもできます。必要なら」


 ヴィアンが静かに言った。


 エマは少しの間、ヴィアンを見た。


「……少し、考えさせてください」


 ヴィアンが頷いた。



 その夜、エマは一人で作業場に籠もった。


 窓の外の星を見ながら、ずっと考えていた。


(あんまり時間はないなぁ)


 この王都にいつまでも留まることは、できない気がしていた。

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