第30話 「冬の商品」
季節が移り、王都に冬が来た。
ロドワール王国の冬は厳しい。石造りの建物は夜になると底冷えがする。市場に出回る薬草の種類が減り、薬師への依頼は風邪薬と滋養強壮が増える。
エマはこの季節に向けて、ずっと前から準備していたものがあった。
「自動薪割り器、完成しました」
エマが食堂に持ち込んだのは、小さな台の上に刃が乗った道具だ。台の端に石が一つついていて、それを叩くと刃が自動で降りる仕組みになっている。薪を置いて叩くだけで、力を使わずに薪が割れる。
「これ、どうやって」とハインが目を丸くした。
「術式を刃に刻みました。力のない方でも、老人でも使えます」
「すごい……これ、冬の前に出せますよ」
もう一つはエマが「ずっと暖かい石」と呼んでいるものだ。拳ほどの大きさの石に、熱を一定に保つ術式を刻んである。布に包んで抱えると、六時間ほど暖かさが続く。寝床に置いたり、外出時に懐に入れたりと使い方は自由だ。
***
販売を始めると、すぐに大きな反響があった。
自動薪割り器は開店三日で完売した。特に一人暮らしの老人や、力仕事が難しい女性から大きな反応があった。「これがあれば冬が楽になる」という声が多かった。
ずっと暖かい石も、毎日作っても追いつかないほど売れた。
「エマさん、また完売です」
ハインが言う。
「今日中にもう十個作ります」
「昨日も十個作りましたよ」
「明後日にはまた作れます」
「エマさんの体力はどうなっているんですか」
「問題ありません」
「問題あります」
ライリーが帳簿を置いて言った。
「一日に作れる上限を決めましょう。売り切れたら翌日まで待ってもらう形にします」
「お客様が」
「エマさんが倒れたら誰も困ります。待ちます、お客様も」
エマは少し考えて、頷いた。
「分かりました。ライリーさんの判断に従います」
「……素直に聞いてくれると拍子抜けします」
「正しいことを言われたら従います」
「少しくらい反論してもいいんですよ」
ハインが笑いをこらえた。ロンが小さく咳払いをした。
***
ライリーが管理を入れると、エマの睡眠時間が安定した。
睡眠が取れると、逆に仕事の質が上がることをエマは実感した。調合の精度が上がり、ミスが減り、作業時間も短縮された。
(ライリーさんが言っていた通りだ)
素直に認める。自分の判断が全て正しいとは思っていない。信用できると判断した人間の言葉は聞く。その判断基準が他の人と違うだけで。
ある夜の食後、ライリーがぽつりと言った。
「エマさんって、信頼と信用を分けて考えていますよね」
「どういうことですか」
「人を信用しているからその人の言うことを聞く、ではなくて。そのことが正しいかどうかで判断しているでしょう」
「……近いです。人を信用するかどうかと、その人の言っていることが正しいかどうかは、別の軸で考えています」
「なるほど」
ライリーは少し間を置いてから、続けた。
「私は……冤罪で奴隷になった時、全部嫌いになりました。関わった人間全員を。今も、その傾向はあります。エマさんみたいに切り分けられない」
「ライリーさんがここにいるのは、私を嫌いではないということですか」
「当たり前じゃないですか」
ライリーが少し語気を強めた。照れを隠しているのが分かった。エマは少し笑った。




