第28話 「魔女の店、拡大オープン」
拡大オープンの朝、エマは夜明け前から起きていた。
作業場で最後の準備をしながら、窓の外を見ると、まだ暗い空に星が残っている。宵の明星が最後に輝いていた。
(今日で、この店は少し変わる)
店の名前はまだ「魔女の店」のままだ。あれこれ呼び名は増えたが、エマ自身はいつでもここを「魔女の店」と思っていた。それで十分だった。
六時になると、全員が動き始めた。
ライリーが陳列の最終確認をして、ロンとラドスティンが店の外に出て通りを確認した。ハインが接客の準備をし、グスタが入口の看板を確認した。マオドとルクスは入口の飾り付けを担当した。二人が提案した薬草の小さな鉢植えが、扉の両脇に並んでいる。
「開店します」
エマが扉を開けた。
***
最初の客は、開店時刻の少し前から待っていたギルドマスターだった。
「エマちゃん、おめでとう!」
「ありがとうございます」
「随分大きくなったな。これも全部自分たちで建てたのか」
「そうです」
「……本当に驚いたよ。聞いてはいたが」
ギルドマスターが笑いながら店内を見回した。
「品揃えも増えたか」
「保管スペースが広くなったので、種類を増やせました。今日から、傷薬とポーションのセット販売を始めます。冒険者の方が一度に必要なものを揃えられるように。値段も単品より少し安くしています」
「それは助かる。うちのギルドにまとめて発注していいか」
「もちろんです。ライリーさんに詳細を」
「任せてください」とライリーがすかさず出てきた。
***
午前中だけで、予想の三倍の客が来た。
拡大オープンの話が前日から広まっていたらしく、常連に加えて新しい顔も多かった。広くなった店内を見て「入りやすくなった」「以前は混んでいて入れなかった」という声が多い。
相談スペースも早速活用された。カーテンで区切れる場所ができたことで、込み入った相談を持ち込む客が増えた。
「以前は、カウンターだと他の人に聞こえてしまうこともあって……」
若い女性の客が顔を赤くしながら言った。
「プライバシーが守れる場所が必要でしたね。今後はここを使ってください」
肌の悩みから始まった相談は、夫に「顔色が悪い」と言われることへの不安、睡眠が取れていないことへの悩みまで及んだ。エマはそれを全部聞いて、化粧品と一緒に睡眠の質を上げる薬草茶を勧めた。
「……こんなに話を聞いてもらえるとは思わなかった」
「何が必要かが分かれば、作りやすいので」
相談の時間はいただかない。薬の代金だけ。それがエマの方針だった。
***
昼前には石鹸と化粧水のセット販売が大好評になった。
薬草ベースで香りの良い石鹸と、保湿成分が高い化粧水をひとまとめにして、リボンで包んだものだ。前日から窓に飾っておいたところ、オープン前から問い合わせがあった。
「これ、贈り物にしたいんですが」
若い男性が言った。
「どなたへですか」
「母への誕生日に。実家が遠くて、なかなか帰れなくて」
エマは少し考えた。
「手紙を入れられる小箱を一緒に作りましょう。少し時間をいただければ」
「本当ですか!」
男性が嬉しそうに帰っていった後、マオドが少し呆然として言った。
「……エマさん、その場で決めたんですか」
「できますから」
「できることとやることは違いますよ。手数料は」
「材料費に少し上乗せしただけです」
「少し……」
「あのお客にはそれで十分です」
マオドが首を振った。何か言いたそうにしていたが、次の客の応対に向かっていった。
夕方になっても客が途切れなかった。ハインが途中で「在庫が足りなくなりそうです」と声をかけてきたが、エマは「明日また作ります」と言った。
閉店の時刻になってようやく扉を閉めた時、全員が少し疲れた顔をしていたが、それよりも充実した表情の方が勝っていた。
「……良かったですね」とハインが言った。
「良かったです」とエマが答えた。
それだけで十分だった。




