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虐げられた令嬢は魔女になり、誰にも奪われない領域を作る〜義妹に全てを奪われた伯爵令嬢、奴隷たちと帰る場所を創る〜  作者: 薄氷薄明


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第27話 「拡張工事、大詰め」

 建築が始まって一ヶ月半が経った。


 最初こそ「自分たちで建てましょう」とあっさり言ったエマに、ライリーだけが心配そうな顔をしていた。しかし今やそのライリー自身が毎朝進捗を確認し、材料の発注を自ら手配しているのだから、人間というものは慣れると変わるものだ。


「今日は西側の壁の仕上げです。グスタさんの見立てでは、あと一週間で骨格が完成するとのことです」


「順調ですね」


「順調です。ただ、棚の木材が足りなくなりました」


「何故ですか」


「ハインさんが棚の設計を変えたいと言い出して」


 ライリーが少し疲れたような顔で言った。エマが食堂を覗くと、ハインが建築の本と自分のメモを広げ、ものすごく真剣な顔で何か計算している。


「ハインさん、どうしました」


「あ、エマさん。薬草専用の棚なんですが、通気性と湿度管理を両立させるには引き出し式の仕切りがあった方がいいと思って……でも今の設計だと奥行きが足りなくて」


 ハインが熱心に説明する。その内容は確かに理にかなっていた。薬草の保管には環境管理が重要で、ハインが言うような構造にすれば、素材の劣化を防ぐことができる。


「それ、正しい判断です。追加の木材を発注しましょう」


「でも費用が」


「問題ありません。良いものを作るための追加費用です。出して当然です」


 ハインが少しほっとした顔になった。隣でグスタが穏やかに言った。


「複雑な引き出し部分は、俺が手伝います。家具仕事は大工とは少し違いますが、やったことはあります」


「ありがとうございます、グスタさん」


 グスタはルズマイスの採取以来、建築の中心として欠かせない存在になっていた。力仕事はもちろん、石材の配置や壁の強度の判断など、専門知識が何度も役立った。借りてよかったとエマは思っている。



***



 その翌週、追加の木材が届いた。


 ハインとグスタが連携して棚を作り、マオドが細かい仕上げを手伝った。ルクスは重い部材を運びながら、楽しそうに鼻歌を歌っている。ロンとラドスティンは壁の最終仕上げを担当し、ライリーは全体の記録と予算管理をしていた。


 エマは……できる限り手伝おうとしたが、三度ほど「エマさんはここをやらなくて大丈夫です」とグスタに穏やかに言われた。


「……私は邪魔ですか」


「邪魔ではないです。ただ精度が必要な部分は、慣れた人間がやった方が仕上がりが良くなります。エマさんは調合の仕事をしていてください。それが一番大事です」


 グスタの言い方に嫌みは一切ない。事実として、エマの得意は別のところにある。エマは素直に引いた。


 作業場に戻り、ポーションの調合をしながら、工事の音を聞いた。槌の音、木材を動かす音、誰かが何か言い合っている声。賑やかで、温かい音だ。


(みんな、それぞれの得意を持ち寄っている)


 グスタの職人知識、ロンの力仕事、ラドスティンの正確な手仕事、ハインの細かい調査と器用さ、マオドの丁寧な仕上げ、ルクスの体力と明るさ、ライリーの管理と先読み。それぞれが違うものを持ち寄って、一つのものを作り上げていく。


 それはポーションの調合に似ていた。一つの材料だけでは不完全で、それぞれの素材が役割を持って初めて、良い薬になる。



***



 完成したのは、それからさらに五日後のことだった。


 全員で出来上がった建物を眺める。以前の小さな店舗と居住スペースが、見違えるほど広くなっていた。一階の店舗部分は倍の広さになり、棚も増えた。店の奥には相談スペースが設けられ、カーテンで区切れるようになっている。


 二階の作業場は保管スペースが独立し、薬草専用の棚には引き出し式の仕切りが並んでいた。居住スペースはそれぞれの部屋に少しゆとりができた。食堂も広くなり、全員が余裕を持って座れる。


「……これ、俺たちで作ったんですよね」


 ルクスが信じられないような顔で言った。


「そうです」


「なんか、すごい。本当に、すごい」


「グスタさんがいなければできませんでした」


「そんなことは——」


 グスタが首を振った。


「みんながやったんです。私は指示しただけで」


「指示がなければ何もできませんでしたよ」とハインが言った。


「本当にありがとうございました」


 グスタが照れたように頭を掻いた。


 マオドが静かに言った。


「私とルクスは、もうすぐ返却の日が来てしまいますね」


 その言葉に、少し空気が止まった。


「拡大オープンを見てから返すつもりです。少しだけ延長してもらっています」とエマが言った。「一緒に開店を見てほしかったので」


 マオドが少し目を見開いた。ルクスが明るい声で言った。


「やった!じゃあ、もう少しいられるんですね!」


「はい。よろしくお願いします」


 マオドが小さく頷いた。

 その目が少し潤んでいるように見えたが、エマはそれを指摘しなかった。

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