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虐げられた令嬢は魔女になり、誰にも奪われない領域を作る〜義妹に全てを奪われた伯爵令嬢、奴隷たちと帰る場所を創る〜  作者: 薄氷薄明


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第19話 「建築本とみんなの夢」

 翌日から、店が終わった夜は建築の本の読書会が始まった。


 ライリーが王立図書館で借りてきた本が三冊、書店で購入した入門書が二冊、それとエマが伯爵家の本棚で読んだうろ覚えの知識を書き出したメモが一枚。それが最初のテキストだった。


「石造りの基礎は、地面を十分に固めてから石を置かないといけない。この工程を省くと後々傾く」


 ロンが真面目な顔で読み上げる。


「土台の話ですね。それはやっぱり専門の人に頼んだ方が……」


「アルドスから建築に詳しい方を借りる予定ですから、基礎の部分は一緒にやってもらいましょう」


 ライリーがそう言って、自分のメモを見た。


「リアムさんに聞いたところ、建築経験のある方が何人かいるそうです。特に熊獣人のグスタさんという方は、以前大工仕事をしていた経験があるとのことで、リアムさんが特に勧めてくれました」


「熊獣人、ですか」


「ええ。力もありますし、経験もある。頼もしいと思います」


 エマは頷いた。


「それと、採取の方も並行して動かないといけませんね。店を拡張するなら、その分の在庫を増やさないといけない。特に薬草の大量保管のためのスペースを作るつもりなので、それが完成するまでにある程度ストックを増やしておきたいです」


「採取……」


 ロンが少し難しい顔をした。


「大量に、とのことであれば、カルヤライでは足りません。ルズマイスへ行くことになりますか」


「そうなります。それも一日では足りないから、一泊二日で行きたいと思っています」


 全員が少し静かになった。ルズマイスへの一泊二日は、以前とは規模が違う。


「今回は採取量が多くなるので、人手も増やしたいです。アルドスからレンタルで人を借りることを考えています」


「それは良い案ですね」とライリーが言った。「採取に慣れた方がいれば、安全面でも心強い」


 ハインが手を挙げた。


「私も行けますか? 前回はお留守番だったので」


「もちろん。今回は全員で行きます」


「全員で!」


 ハインが目を輝かせた。ロンとラドスティンはそれぞれ頷き、ライリーは「帳簿の管理は私がいなくても大丈夫なように整理しておきます」と言った。


 エマは全員の顔を見回した。


(これが、チームということなんだろうな)


 一人でルズマイスに行くことを考えたら、心許なさがある。でも全員で行くと決まると、不思議と気持ちが軽くなった。信用できるかどうかより前に、頼もしいと感じる感覚が、エマの中に確かにあった。



 ***


 

 一週間後、ライリーが手続きの報告を持ってきた。


「隣の空き地の所有者が確認できました。長年放置されていた土地で、所有者は五番街の外に居住している老夫婦とのことです。売却を検討しているとのことで、適正価格での交渉が可能かと」


「値段は?」


「土地の広さと王都の地価から考えると、金貨二十枚前後が相場です。ただし、こちらから先方に接触して話し合い次第では変わります」


「交渉はライリーさんにお願いしていいですか。条件は、相場内なら構いません。ただし相手が困っているようであれば、少し上乗せしてもいいです」


 ライリーが少し間を置いた。


「……上乗せ?」


「老夫婦が長年放置して困っていた土地を買うわけですから、相手にとって良い結果になる方がいいでしょう。それに、こちらの予算はある程度余裕があります」


「……分かりました。エマさんらしい判断です」


 ライリーは苦笑交じりに言ったが、その目が少し温かかった。


「あと、建築許可の申請はリアムさんが五番街の地区担当を知っているとのことで、紹介してもらいました。通常より早く手続きが進む見込みです」


「リアムさんには感謝しないといけませんね」


「ええ。常連の特権でしょうか」


「次に来たら、いいものを一つ引きしておきましょう」


「……それが、エマさんの感謝の表し方なんですね」


「ライリーさん、変ですか?」


「変ではないです。ただ……あなたらしいと思って」


 エマは少し首を傾けた。「あなたらしい」という言葉が、最近増えてきた。最初の頃はライリーが「変わった方ですね」と言っていたが、最近はそれが「あなたらしい」に変わっている。少しだけ言い方が柔らかくなっていることに、エマはうっすら気づいていた。



 ***


 

 その夜、エマは寝る前に少しだけ考えた。


 拡張した店がどんな形になるか。もっと大きな作業場があれば、今より多くの種類の薬を同時に作れる。仕入れた素材の保管場所が増えれば、大量採取のタイミングに迷わなくて済む。それぞれが少し広い部屋で生活できれば、今より快適になる。


(みんなが、もう少しゆっくりできる場所を)


 最初はそう考えていたはずが、今はそれが一番先に思い浮かぶようになっていた。自分の作業場が広がることより、みんなが過ごしやすくなることの方が、エマには大事に思えた。


 それが少し不思議で、少し当たり前のことのようにも思えた。

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