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虐げられた令嬢は魔女になり、誰にも奪われない領域を作る〜義妹に全てを奪われた伯爵令嬢、奴隷たちと帰る場所を創る〜  作者: 薄氷薄明


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第11話 「エマの基準とレンタルの終了」

 夜、夕食の時に珍しいことが起きた。


 ライリーが食後に言った。


「今日の依頼、二件ともかなり特殊でしたよね。エマさんは、あの值段でよかったんですか」


「妊婦の視力低下薬は相応だと思います。人形も適正です」


「妊婦の件、あの値段設定は相場より安かったように思いますが」


「余裕がなさそうだったので」


 ライリーは少し間を置いた。


「……エマさん、値段の決め方、聞いてもいいですか」


「取れる人から多く取り、そうでない人からは取れるだけ。その差引きでプラスになれば店が回る、という考え方です」


「帳簿上では成立していますが……」


「何か問題ですか」


「問題ではないんですが、変わった考え方だなと思って」


 ロンが低い声で言った。


「俺は良い考え方だと思う」


「ロンさんは真面目ですから」


「ライリーさんは正直な人なんですよ」とハインが笑った。「褒めているのに、変わった考え方と言ってしまう」


「褒めていますよ。ただ……」ライリーは少し考えてから言った。「エマさんが困っている人に甘いのは分かった。それが素直に言えないのが、私の悪いところです」


 場がわずかに柔らかくなった。


 エマは少し驚いた。ライリーが素直に自分の欠点を言った。この飄々とした男が。


(……面白いな、この人たちは)


 エマはそう思った。人間を信用できないと言いながら、毎日この四人と食事をして、笑うことが増えている。それが自分でも少し不思議だったが、悪い気はしなかった。



 ***



 その翌週、エマの店にまた変わった依頼が舞い込んだ。


 今度は、娼館の女主人だった。四十代で、堂々とした体躯の女性が、堂々と扉を開けて入ってきた。


「魔女さんですか。聞いてほしいことがあって」


 エマはうなずいた。接客に出ていたハインが、さりげなく奥に下がった。


「うちの子たちが、客からひどい扱いをされることがある。傷薬は常に必要で、化粧も痕を隠すために必要で。あなたの店がいい品を出すと聞いた」


「傷薬は定番でそろえています。化粧品は……今も作っていますが、傷を隠す目的であれば、今あるものより効果的なものを別途作れます」


「高い?」


「傷を隠す目的の化粧品は、素材にコストがかかります。ただ……」エマは少し考えてから言った。「まとめて買っていただけるなら、割引します」


「それは助かる」


 女主人は満足そうだった。帰り際に、少し低い声で言った。


「魔女さん、あなたを怖い人だと聞いていたけど」


「私が怖い?」


「銀星の魔女は近寄りがたいと。でも……話してみれば、普通の人じゃない」


「そうですか」


「良い意味よ」と女主人は笑った。「うちの子たちに、良い品を届けてね」


 女主人が出ていったあと、奥から顔を出したハインが言った。


「すごかったですね、あの方」


「あそこの女主人ですね。悪い人じゃない」


「エマさんは、どんな人にでも普通に接しますね」


「普通に接することの何が問題ですか」


「問題じゃないです。……なんか、すごいなと思って」


 ハインが少し照れたように言う。エマは少し首を傾けた。


(すごいこと、かな。私にとっては当然なんだけれど)


 貴族の使用人が来ようと、騎士団員が来ようと、商人が来ようと、娼婦が来ようと。エマにとって、それは全員「客」だった。属性で人を扱い分けることに、エマは意味を見出せなかった。


 それは、幼い頃に身につけた感覚だった。どういう状況でも生き抜くための、エマなりの知恵だった。



 ***



 三ヶ月が経つ頃には、奴隷のレンタル期間が終わった。


 エマはアルドスに行き、ブロンソンと向き合った。


「期間が終わりですが、いかがですか」


「購入の手続きをしたいです。四人全員」


 ブロンソンが少し目を細めた。


「四人全員を、ですか」


「はい。条件を確認してから決めようと思っていましたが、それぞれが仕事をきちんとしてくれて、不満はありません。それに……」


 エマは少し言葉を選んだ。


「十年勤めてくれたら、解放します。そこも含めて、購入契約に入れていただけますか」


 ブロンソンが少し表情を変えた。おそらく、驚いたのだと思う。


「……十年後の解放を購入契約に含めるのは、珍しい要求ですが」


「奴隷を一生縛るつもりはないです。十年一緒にいてくれたら、その後は自由にしてほしい」


 ブロンソンはしばらく黙った後、ゆっくりと頷いた。


「分かりました。そういう内容で契約書を作ります」


 その夜、エマは四人を食堂に集め、購入の件と十年後の解放を告げた。


 ライリーが少し考えるような間を置いた後に言った。


「……十年後に解放、とのことですが、私はその後もここにいたいと思っています」


「え?」


「奴隷として雇っていただければ。どうせ行くところもないですし、ここが性に合っています」


 エマはきょとんとした顔をした。


(解放すると言ったのに、いたいと言う……)


 ロンも、ラドスティンも、ハインも、口ぶりこそ違えど、同じような意思を示した。


 エマはしばらく黙った。そして、少し不思議そうに言った。


「……十年後に考えましょう。今は今のことをやります」


 それだけ言って、エマは食器を片付け始めた。


(どうして……みんな、いたいと思うんだろう)


 分からなかった。分からなかったが、胸の中がほんの少し、温かかった。

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― 新着の感想 ―
錬金術ジャンルを検索して見つけました。 たんたんと話が進んでいくのは私は好きです。 ただ気になったのが、9話の内容が10話と11話に同じく掲載されているように見えます。 サブタイトル的には10話に相…
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