第二話 「風の召喚少年団」結成3
キラーアント狩り
翌朝、リーフェの里はいつもより少しだけ賑やかだった。
フォーチュン・ソード冒険者ギルド リーフェ支所
(といっても、村の外れにある小さな木造小屋。受付カウンターは1つだけ)
受付のおばちゃん(本名:マーサ、48歳)が、いつもの笑顔で5人の子供たちを見下ろした。
「おはよう、カイルくんたち! 今日も元気いっぱいね~。
クエストは『キラーアント狩り』で合ってるわよね?
巣穴が3つ確認されてるから、合計6匹を討伐してね。
キラーアントはG〈初級〉だけど、群れで来ると厄介よ。
特に注意してほしいのは——」
マーサおばちゃんは指を一本立てて、いつもの早口で注意事項を並べた。
「① 巣穴に近づきすぎないこと! 煙で追い出すのが一番安全。
② アネットちゃんの回復魔法は温存して。
③ カイルくんの召喚獣は長時間出すとMPがすぐなくなるから、交代で使ってね。
④ 絶対に無理はしないこと! 危なくなったらすぐに村に逃げて!」
クレスが木剣を肩に担ぎ、胸を張った。
「大丈夫です、おばちゃん! 俺がリーダーだから、みんなを守るよ!」
チェスターが冷静に頷く。
「煙玉は俺が作ってきた。ちゃんと3個あるぜ」
アネットが心配そうに手を合わせた。
「みんな、怪我しないように……私も気功で頑張るね」
エレナはカイルの横で小さく微笑み、
「カイルお兄ちゃん……今日も一緒にがんばろうね」
カイルは勇者の剣の柄を握りしめ、目をキラキラさせながら答えた。
「うん! ファングとルビィもいるし、絶対に勝てるよ!
……兄ちゃんみたいに、ちゃんとクエストを完遂するんだ!」
マーサおばちゃんはくすくす笑いながら、ギルドカード(子供用仮カード)にスタンプをポンと押した。
「はい、受注完了~。
報酬は金貨6枚+ギルドポイント6P+素材(蟻の顎)+幸運判定1回よ。
がんばってね、風の召喚少年団!」
「「「「「おおーっ!!」」」」」
5人は元気よく支所を飛び出した。
森の中は、朝の陽光が木漏れ日となって差し込んでいた。
一行は「キラーアントの巣」がある東の森を目指して歩いていた。
カイルが先頭でファングを連れ、エレナが隣を歩く。
クレスとチェスターが左右を警戒し、アネットが最後尾で周囲を見回している。
「ねえ、カイル」
クレスが木剣をくるくる回しながら話しかけた。
「昨日、エレナの里に行ったんだろ? 何か面白いことあったか?」
カイルは少し得意げに答えた。
「うん! エレナの叔母さん(リリアーナさん)が、すっごく綺麗なエルフの人でさ!
蜂蜜菓子がめちゃくちゃ美味しかった! ルビィもファングも大喜びだったよ」
エレナが頰を赤らめて小さく笑う。
「……カイルお兄ちゃんが、マイケルさんってB級冒険者さんに助けてもらった話、みんなに聞かせてあげたいな」
その時——
ファングが突然、低く唸った。
「グルルル……」
チェスターが素早く弓を構え、小声で言った。
「止まれ。……前方、茂みの中に3匹。ゴブリンだ」
クレスが木剣を抜いた。
「よし、戦闘準備! カイル、先制できるか!?」
カイルは即座に判断した。
「ファング、行け! ルビィも召喚!」
魔獣召喚!
黒い影が爆発し、ファングが先頭に飛び出す。
ルビィが「ルビィ~!」と可愛い声で現れ、額の宝石を輝かせた。
ゴブリン3匹が茂みから飛び出してきた瞬間、戦闘が始まった。
「ギギャアア! 人間のガキどもだ!」
クレスが覇気を一瞬だけ爆発させて突進。
「俺が前衛だ! みんな、援護頼む!」
チェスターが速射の弓を放つ。
「チェスター、右のやつ狙う!」
矢が1本、ゴブリンの肩に命中。
エレナが風の祝福で小さな風の刃を飛ばしながら叫ぶ。
「カイルお兄ちゃん、ファングを横から回り込ませて!」
カイルは勇者の剣を構え、おなべのフタ盾でガードしながらファングに指示を飛ばす。
「ファング、横から噛みつけ! ルビィ、みんなに回復の光!」
ルビィの宝石がピカッと光り、仲間全員に小さな回復が降り注ぐ。
ファングが一匹のゴブリンの足を噛み、引きずり倒す。
クレスが木剣でトドメを刺し、チェスターの矢がもう一匹の喉を射抜いた。
残り1匹が慌てて逃げようとした瞬間、エレナのシルフが風を操って足を止める。
「今だ、カイルお兄ちゃん!」
「うおおっ!」
カイルが勇者の剣を振り下ろし、最後のゴブリンを倒した。
戦闘終了。
クレスが息を弾ませながら笑った。
「ははっ、完璧だったぞ! カイルの召喚獣、ほんとに頼りになるな!」
チェスターが弓を下ろし、冷静に頷く。
「連携がよかった。……でも、まだ本番はこれからだぜ」
アネットが気功で軽くみんなの傷を癒しながら、
「みんな無事でよかった……。次はキラーアントね。気をつけよう?」
エレナがカイルの袖をそっと引いて、小さく微笑んだ。
「……カイルお兄ちゃん、かっこよかったよ」
カイルは照れくさそうに頭を掻いた。
「みんなのおかげだよ。さあ、巣に向かおう!」
キラーアントの巣に到着したのは、それから30分後のことだった。
地面に3つ並んだ大きな穴。
チェスターが煙玉を3個取り出し、ニヤリと笑った。
「よし、俺の出番だ。
みんな、少し離れててくれ」
チェスターが煙玉を次々と巣穴に投げ込む。
「煙玉、発動!」
白い煙がモクモクと上がり、巣の中からガサガサと音が聞こえてきた。
「出てきたぞ! 3匹だ!」
体長30~50cmの巨大な蟻——キラーアントが3匹、煙に追われて飛び出してきた。
クレスが叫ぶ。
「来い! 前衛は俺とファング! カイル、後ろから援護!」
ファングが一番大きな個体に飛びかかり、牙を突き立てる。
カイルがルビィに指示を飛ばす。
「ルビィ、回復の光をファングに! エレナ、風で動きを止めて!」
エレナが風の祝福を放ち、キラーアントの足をふわっと浮かせる。
アネットが神聖魔法を唱える。
「神聖魔法・小回復! みんな、頑張って!」
チェスターが速射の矢を連射。
「目玉を狙う!」
クレスが木剣でキラーアントの顎を叩き割り、
「これで終わりだ!」
最後の1匹がファングの牙で仕留められた瞬間、3匹すべてが倒れた。
カイルは息を切らしながら、みんなに笑顔を向けた。
「やった……! クエスト成功だ!」
ルビィが「ルビィ~♪」と嬉しそうに宝石を光らせる。
ファングは満足げに尻尾を振っていた。
ギルド支所に戻った5人は、マーサおばちゃんに討伐証を見せた。
おばちゃんが目を丸くして笑う。
「まあ! キラーアント6匹+道中のゴブリン3匹も倒してきたの!?
すごいわね、風の召喚少年団!」
報酬が手渡される。
金貨6枚(5人で山分け)、ギルドポイント6P、キラーアントの顎(素材)、そして幸運判定。
カイルが代表でサイコロ(1d100)を振る。
「……78!」
マーサおばちゃんがにこにこしながら、
「運試しガチャ1回分追加ね! 今日はみんな、ほんとに頑張ったわ。
次はもう少し大きいクエストに挑戦してみる?」
クレスが拳を握り、
「もちろん! 俺たち、もっと強くなるよ!」
カイルはルビィを肩に乗せ、ファングの頭を撫でながら、
心の中でそっと呟いた。
(兄ちゃん……今日も、ちょっとだけ冒険者に近づけたかな……)
夕陽がリーフェの里を優しく染め、
5人の少年少女と2匹の召喚獣は、今日も無事に家路についた。
リーフェの里
カイルたちが住む超辺境の小村(風の大クリスタルに最も近い森の奥)。
人口約150人程度の典型的な農村。冒険者ギルド支所はあるが、受付のおばちゃんが1人しかいない超ローカル。
特徴:畑仕事中心、ワイルドボアやフォレストウルフが時々出る。村人たちはカイルの祝福の凄さをほとんど知らず、「可愛い魔獣を呼べる子」としか思っていない。
隣の村「シルフェリアの里」
リーフェの里から徒歩約2時間(森を抜けた先)のやや大きい村。
人口約400人。エルフが全体の6割以上を占める混住村。
特徴:風の精霊が集まりやすいため、木々の家や風魔法を使った生活が一般的。エルフの子供たちと人間の子供たちが一緒に育つ穏やかな雰囲気。
リーフェの里の子供たち(カイルたち)は「シルフェリアまで冒険者ごっこ遠征」に行くのが最近の流行。エレナ・ミュラー(ハーフエルフ)の親戚もここに住んでいる。




