第二話 「風の召喚少年団」結成2
時は戻り
夕暮れのリーフェの里に、カイルとエレナはようやく戻ってきた。
シルフェリアの里でのお菓子とお茶の時間が長引いたせいで、帰りは少し遅くなってしまった。
カイルは勇者の剣を腰に、おなべのフタ盾を左腕に、皮の帽子を目深にかぶったまま。
肩にはルビィが丸くなって眠り、ファングが忠実に横を歩いている。
村の入り口近くの広場を抜けようとしたとき——
「へへっ、またハーフリングがリーフェに顔出してんじゃねえか」
聞き覚えのある、意地の悪い声が響いた。
三人組が道を塞ぐように立っていた。
長老の孫・バルタ・グランド(14歳・男)
ディルク・ハント(14歳・男)
ジェイ・モリス(13歳・男)
三人とも冒険者に関する祝福は一切持っていない、ただの村のガキ大将たちだ。
バルタは長老の孫という立場を笠に着て、いつも村の子供たちを威張っている。
「ほら見ろよ、エレナ。耳が長くて肌が白いハーフリングが、わざわざ人間の村に遊びに来てんのか?
お前みたいな中途半端なのは、シルフェリアに帰ってろよ。
リーフェの里は人間の里だぜ?」
ディルクとジェイがニヤニヤしながら同調する。
「そうだよ、ハーフリング。
召喚獣連れて威張ってんじゃねえよ。
お前の母親はエルフでしょ? 人間の血が薄いから弱っちいんだろ」
エレナの肩が小さく震えた。
彼女はカイルの旅人の服の裾を、ぎゅっと握りしめたままうつむいた。
カイルの顔が一瞬で真っ赤になった。
「……お前ら、ふざけんな」
声が低く、怒りに震えていた。
「エレナはエレナだ。ハーフリングなんて呼び方、絶対に許さねえ。
それに……エレナは俺の大事な友達だ」
三人組が嘲笑う。
「はっ、なんだよカイル。お前も召喚士気取りで偉そうに——」
その瞬間、カイルは迷わず叫んだ。
「ファング! 行け!」
**ハウンドドック(ファング)**が黒い影となって飛び出した。
G〈初級〉とは思えない低く鋭い唸り声を上げ、三人組の足元に牙を光らせて突進する。
ファングは本気で噛みつく気はなかった。ただ威嚇するだけ。
それでも、亡き猟犬時代の迫力は十分すぎた。
「うわあああっ!?」
「犬が! 魔獣が来たぞ!」
「長老の孫だからって関係ねえ! 追え!」
三人組は悲鳴を上げて尻尾を巻いて逃げ散った。
バルタだけが振り返りながら「覚えてろよ、カイル!」と捨て台詞を吐いたが、声は完全に震えていた。
ファングはすぐにカイルの足元に戻り、尻尾を振って「やったぞ」と自慢げに鼻を鳴らした。
エレナは涙目になりながら、カイルの顔を見上げた。
「……カイルお兄ちゃん、ありがとう……
いつも……守ってくれて……」
カイルは照れくさそうに頭を掻いた。
「いいよ。エレナが泣くの、俺嫌いだから。
さあ、行こうぜ。もうすぐ暗くなる」
二人はクレスの道場がある広場の方へ歩き出した。
アルベイン流剣術道場は、ただの剣術の稽古場ではない。
村の子供たちに読み書きや簡単な算術も教える、寺子屋のような役割も果たしていた。
父バルドも昔ここで習ったという。
しかし今日は留守だった。
クレスはチェスターと一緒に「ちょっと強いモンスター探し」と称して森へ遊びに出かけているらしい。
道場の前には子供たちの下駄が何足か並んでいた。
「ルーク、迎えに来たぞー!」
カイルが声をかけると、道場の中から元気な声が返ってきた。
「カイル兄ちゃん!」
9歳の五男・ルーク・ランチェスターが、読み書きの木板を抱えたまま飛び出してきた。
カイルを見るなり満面の笑みで駆け寄り、
「今日もファングとルビィ連れてたの!? エレナ姉ちゃんもいる! やったー!」
ルークはエレナのことも大好きで、すぐにエレナの手を握って嬉しそうに跳ねた。
カイルは弟の頭を軽く撫で、
「よし、ルーク。エレナを家まで一緒に送ってやるぞ。
母さんが待ってるだろうし、暗くなる前に帰ろう」
三人(+召喚獣二匹)は、ゆっくりと村の道を歩き始めた。
エレナの家は村の西側。
道中、ルークが今日道場で習った文字を自慢げに話したり、
ファングがルークの後ろをちょこちょこついて歩いたり、
ルビィがエレナの肩に乗り換わって「ルビィ~♪」と甘える姿が、夕陽に照らされていた。
エレナの家が見えてきたとき、
彼女はもう一度、小さな声で呟いた。
「……カイルお兄ちゃん、今日も……本当にありがとう」
カイルはニコッと笑って、
「また明日、冒険者ごっこしようぜ。
今度はクレスたちも誘って、もっと遠くまで行ってみよう」
家路につくカイルとルークの背中を、
エレナは涙が乾いた目で、じっと見送っていた。
ランチェスター家
父:バルド・ランチェスター(48歳) 村の畑仕事と狩猟を主に担う頑固親父。
母:リリア・ランチェスター(46歳) 家事全般と村の小さな宿屋を手伝う優しい母。
長男:ガルド・ランチェスター(21歳) 村で父の仕事を継いでいる真面目な青年。
次男:レオン・ランチェスター(19歳) Eランク冒険者(戦士)。
近くの街「ウィンドリーフの街」の冒険者ギルド支所でパーティーを組んで活動中。
祝福は「戦士+剛力の技能」のごく普通のもの。
時々里に帰ってきては「兄ちゃん、街の話聞かせて!」とカイルにせがまれる弟たちを相手に酒を飲む。
長女:ミラ・ランチェスター(18歳) 村の織物職人見習い。優しく面倒見が良く、カイルとルークの「冒険者ごっこ」の相手をしてくれる。
三男:エリオ・ランチェスター(15歳) 村の若者組リーダー格。成人式を目前に控え、弓の練習に励む。
四男:カイル・ランチェスター(12歳) 本作主人公。
五男:ルーク・ランチェスター(9歳) カイルのすぐ下の弟。ルビィ(カーバンクル)を「仔犬みたい!」と呼んで追いかけ回す元気っ子。




