第三話 始動!風の召喚少年団!14
信仰と勇者
雨上がりのアルベイン道場。
修行の後の静かな午後だった。
クレスは道場の中央で木剣を構え、汗を拭きながら一人で素振りを続けていた。
シルバー・ストライクを腰に差したままの姿は、まだ子供の体躯でありながら、すでに「剣士」としての芯が通っていた。
アネットは道場の隅の柱にもたれ、クレスをじっと見つめていた。
白いローブの裾を指で握りしめ、心の中で何度も自分に言い聞かせていた。
(……違う。これは恋なんかじゃない……
クレスくんは、神様が与えてくださった勇者の資質を持った人……
私はただ、神官として、その勇気を敬っているだけ……)
クレスが木剣を振り下ろすたび、力強い呼気が道場に響く。
その姿は、アネットにとって神聖なものにさえ感じられた。
クレスがようやく動きを止め、息を整えながらアネットに気づいた。
「アネット? どうした? ぼーっとしてるぞ」
アネットは慌てて微笑んだが、頰が少し赤い。
「え、えっと……クレスくんの剣の動きが、とても……
神々しく見えて……」
クレスは照れくさそうに頭を掻いた。
「神々しいって……大げさだな。
俺、まだ父さんには全然敵わないよ」
アネットはそっと近づき、クレスが汗で濡れた前髪を指で直してあげた。
その仕草は優しく、まるで聖像に触れるかのようだった。
「クレスくんは……本当に、勇者みたいです。
危機のときに一番前に出て、みんなを守ろうとする……
私、神官として、そんなクレスくんを……
とても、尊く思います」
彼女は自分の胸に手を当て、目を伏せた。
(……これは信仰です。恋なんかじゃない……
クレスくんは、神様が私たちに与えてくださった希望……
ただの女の子の気持ちなんかじゃ、汚してはいけない……)
クレスは少し不思議そうな顔をしたが、
すぐに明るく笑った。
「アネットがそう言ってくれると、俺も頑張れるよ。
お前が後ろで支えてくれるから、俺は前に出られるんだ」
アネットの心臓が、どきりと鳴った。
(……やっぱり……この気持ちは……)
彼女は慌てて首を振り、
心の中で強く言い聞かせた。
(違う。これは恋ではない。
私は神官として、クレスくんの勇気を信仰しているだけ……
それ以上でも、それ以下でもない……)
アネットは穏やかな笑顔を作り、クレスに言った。
「はい……私は、いつでもクレスくんの傍らで、
皆さんの癒しとなれるよう、頑張ります」
クレスは満足げに頷き、再び木剣を構えた。
「頼むぜ、アネット。
お前がいるから、俺は勇者でいられる気がする」
その言葉に、アネットは胸の奥が熱くなるのを感じながら、
静かに聖印を握りしめた。
(……神様、どうか……
この気持ちが、恋でありませんように……)
道場に差し込む夕陽が、
二人の影を長く、しかし美しく並べて照らしていた。




