第三話 始動!風の召喚少年団!12
薄幸のエレナ・ミュラー
夕暮れのリーフェの里は、いつもより少し冷たかった。
エレナ・ミュラーは自分の家の裏手にある古い木の根元に座り、膝を抱えていた。
銀色の長い髪が肩に落ち、緑のリボンが風に揺れている。
左手の薬指には、カイルからもらったエメラルド・ウィンドリングが、淡く光っていた。
「……お父さん、また……」
今日も父は酒に溺れ、ほとんど口をきいてくれなかった。
母が亡くなって以来、父はますます酒に逃げ、エレナが少しでもお小遣いを貯めようとすると、すぐに奪っていく。
ハーフエルフであることを村の子供たちにからかわれ続け、
「ハーフリング」と呼ばれ、
孤独と寂しさが胸の奥に積もっていた。
エレナは指輪をそっと撫で、涙を堪えきれずに零した。
「カイルお兄ちゃん……
私……本当に、みんなの役に立ててるのかな……
ただ守ってもらってばかりで……」
声が震えた。
風の祝福も、シルフも、今は呼ぶ気力さえ出なかった。
ただ、木の根元で小さく縮こまっていた。
その時——
「エレナ?」
柔らかな声がした。
カイルが、ファングを連れて木の陰から顔を出した。
グランマントを羽織り、革の胸当てを着たまま、いつものように心配そうな顔をしている。
「どうしたの? こんなところで……泣いてる?」
エレナは慌てて顔を上げ、涙を拭おうとしたが、
もう遅かった。
カイルはすぐにエレナの隣に座り、そっと肩に手を置いた。
「エレナ……話して。
僕、聞くよ」
エレナは唇を震わせながら、
今まで誰にも言えなかったことを、ぽつり、ぽつりと零した。
「お父さん……お酒ばっかりで……
お金も、全部……
私、ハーフエルフだから、村の人にも……
いつも、守ってもらってばかりで……
カイルお兄ちゃんに迷惑かけて……
私、役に立ってるのかな……
ただ、そばにいたいだけなのに……」
涙が止まらなくなった。
カイルは黙ってエレナの話を最後まで聞き、
それから静かに、けれどはっきりと言った。
「エレナ。
君は、絶対に迷惑なんかじゃないよ」
カイルはエレナの左手をそっと握り、指輪に触れた。
「この指輪、君がいつも大事にしてくれてるの、知ってる。
君が風でみんなを助けてくれるとき、
君が笑ってくれるとき、
僕、すごく安心するんだ。
エレナがいなかったら、風の召喚少年団は……きっと、寂しいよ」
エレナが驚いたように顔を上げた。
カイルは照れくさそうに笑いながら、続けた。
「僕も、最初は君を助けただけだったけど……
今は、君がいてくれるから頑張れる。
君がそばにいてくれるだけで、僕は嬉しいんだ。
だから……泣かないで。
君は、ちゃんとみんなの役に立ってる。
僕の大事な……仲間だよ」
エレナの瞳から、また涙が溢れた。
でも、今度は違う涙だった。
「……カイルお兄ちゃん……」
エレナはカイルの胸に顔を埋め、小さな声で何度も繰り返した。
「ありがとう……
本当に、ありがとう……」
ファングがそっと二人の足元に寄り、
ルビィがエレナの肩に飛び乗って、額の宝石を優しく光らせた。
カイルはエレナの背中を、ぎこちなく、けれど温かく抱きしめた。
「いつでも、僕がいるから。
一人で抱え込まなくていいよ」
夕陽が二人の影を長く伸ばし、
風が優しく木々を揺らした。
薄幸のハーフエルフの少女は、
今日、初めて本当の「救い」を感じた。
カイルの温もりと、
指輪の淡い光と、
召喚獣たちの優しさに包まれて。




