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 電話の相手を丁寧に励ましてから、普段よりも早めに切り上げた妻が私たちのいる縁側へ顔をだし夜の空を見上げて誘う。

「ねぇ、折角だからみんなで宇宙船でも見にいかない?」


「今から?」

 今しがた泣き腫らした顔を風呂場で洗っていた息子は驚きとうれしさに立ち上がった。あれほど泣いていたのに、何によらず子供の回復力はすごい。腫れた顔はすっかりもとに戻っている。きっと妻は気がついてはいまい。

「そう、今からよ」息子のつむじに母親は二度キスした。

「さすがに遅すぎませんか? もう寝かしつけろよ」

「どう、とうちゃんの説明で納得できた?」息子を抱き上げクルクル回ったりした。

「うん」

 説明などなにもしていない。自分の罪や卑怯を誰かに告白できたことですっきりしただけだ。

「本当~、やるわね、パパ。で、なんて言ったの?」

「内緒だよな」息子と目が合った。

「ふ~ん。じゃぁ、まずは寝間着を着替えてきて」母親は小さなお尻を叩いて急かす。

「明日の学校どうすんだよ」

「家庭の問題により遅刻ってことで」今から出かけることに妻はいたって本気みたいだ。

「電話でなんかあったのか?」

「そんなことは毎晩ありますよ。でもいずれにしろあんたは明日もちゃんと仕事に行ってね」

「そっちこそちゃんとパートに行けよ」

「わたしは夫婦間の問題により欠勤させていただきます」妻は小首を傾げて微笑んだ。


 そのようにして私たちは夜中の十二時半近くに、車に乗って宇宙船を見に出かけることとなったのだが、寝間着を着替えるまで<S88―VE500系(というらしい高速艇)>の宇宙船を操縦していた息子は、家から歩いて5分ほどの駐車場へ着くと、どれほど久しぶりだった妻の背中ですでに首をそらせ、きれいに澄んだ涎も垂らしてそこら辺の太陽系を彷徨っていた。

「そっちに似て良かったよ」

 だらしない寝顔を晒してはいるが、まずまずだろう。

 妻は一般的に言えばなかなかの美人だ。よって私の両親が私には抱けなかった部分での希望を私は息子に抱ける。

「でも、実はあなたによく似ているわ。ここ最近はとくに思うわよ。この子の将来の一家が丸ごと苦労しそうでかわいそうって言うか笑える気もするけれど、わたしはうれしい」

小さな体を後部シートのベルトへ装着し終わった妻が、さすがに重かったらしい腰を伸ばして笑った。

 そして自ら運転席に座り、音のしない静かなエンジンをかけて海辺にある空港を目指した。深夜の道は、魚のいない川のようにいたって空いていた。私たちは小一時間ほどで空港の西側にある海浜公園の駐車場に着き車を停めた。私たちは夫婦で車外へ出ると、車止めブロックの直ぐ後ろにある膝丈の植え込みを無理やり跨ぎ、すぐそこの海に面した遊歩道まで行った。寝ている息子を車内に残しているので、車から離れるのはそこらが限界だった。足元の護岸を打つ静かな波の音と、それなりに香る潮の匂は、私たちの余りに不意だったこの深夜の質量を格段に押し上げた。


 ……精製された「ケロシン」をガブ飲みするジェットエンジンだった昔は、厚い雪雲であっても空ごと捲れてしまうくらいの爆音を轟かせ、しかも機影から遅れて聞こえてくるらしい。そんな「音の時差」を私も体感してみたかった。

私たちは至ってサイレントな飛行機をときどき見上げながら、基本的には翼を持たないそいつらが現れるのを待った。妻と二人で……


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