23:33 #3
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その日からしばらくすると他のクラスでは、目を閉じてずぶ濡れだった不気味な姿の雛が順次生まれたが、息子のクラスは孵化の兆しもまったくないまま時が過ぎた。やがて他のクラスでは、一瞬だけかなりグロテスクだったことなど口に出来ないぐらい心温まる黄色い宝となった。一方で、唯一ミヨのいる息子のクラスでは教師も表立って打ち消せない微妙な噂が立ち始めた。そして今日、ついにどこぞのガキがどこかから仕入れていた酷く汚い言葉を投げつけたのだ。
「……おばけくんは何も言わなかったんだ。耳もふさがずにただ黙って早く休み時間が終わるのを待っていたんだ。ぼくは自分の席で俯いたまま何も言えなかった……」
息子は何度も小さな手で濡れる顔をぬぐった。小さな手だがいつかスライダーごとき簡単に投げられるようになるだろうと思った。
「結局たまごはみんなで校舎の裏に埋めることになったんだ」
鼻水もすごいことになっていた。
「つまりうちの冷蔵庫にあった卵をだな?」
悪いと思いながらも、言葉にして確かめた。きっと妻なら確かめはしなかったろうな、と私は思った。
「そうだよ。女の子たちは泣きながら手を合わせていたよ。うちのたまごにさ」
「お前ら、そのときよく笑わなかったな」私は一応笑うのを堪えた。
「ぼくは悲しい振りをしているだけだったけれど、おばけくんは俯いて根性をみせたんだ。笑うのを我慢している姿がちょっとカッコよかったよ」
最後に息子は少し笑った。
放課後彼らはまた教室で二人きりとなり、ここでも何も言わない彼に、感謝と謝罪の気持ちを込めて息子は一生誰にも語るまいとしていたある秘密を打ち明けた。するとミヨは友達の特別な打ち明け話し(自分に話してくれた気持ち)に見合うだけの自分の秘密を、まるでお礼やお返しの意味で、そしてまたどこか特別さを競うかのように語り返したようだ。生前に飼っていた黒いうさぎのことを……




