まん丸フォーンと呪詛
「おはようフォーン、起きられるか?」
「うん、ただ…」
「ただ?」
「お腹が…」
「お腹?」
フォーンの腹がまん丸になっている
そぅ、まん丸に。
「えっ……」
「あははっ」
「フォーン、それ、大丈夫なのか?」
「あははは、体には問題ないよ、昨日食べ過ぎちゃったでしょ?その時無意識に食い溜めのスキル使っちゃってたみたいで…はは、だからしばらくこのままかな…」
「お、おう。そうか、、まぁ丸くてもかわいいぞ。」
「ありがとー!」
「朝飯はどうする?やめとくか?」
「やめとこうかなぁ。食べれないことも無いんだけどね。ただ、この体の時に食べると元に戻るのが遅くなるんだ…」
「暫くは食うのやめた方が良さそうだな、、」
「うん……」
「とりあえず、旦那さんのドライフルーツの所に行くか。買っておけばまた今度食べれるからな」
「うん…… (うるうる)」
「ま、まぁ少しなら?食べてもいいんじゃないか?」
「だよねっ!!じゃあさっそく行こう!」
ことばの勢いとは対照的に体の動きはものすごぉく……ごめん。感情、伝わるんだったな。別に動きが遅くてもいいんだぞ?余計なこと言ってごめんな、えっと、お詫びに今日は1日ドライフルーツのお店探しをしようか、そうか、いいお店あるといいな、俺も楽しみだ。おう、そうだな。まずは昨日の旦那さんのドライフルーツの所に行くんだな、わかった。抱っこしてくか?よし、こうか?よかった、じゃあ行くか
曖昧なはずの伝わる感情だけで会話が出来てしまった…必死にやれば何でも出来る…だっけか?そんな言葉あったよな?あれ?なかったっけ…?
「ドライフルーツの人来てる〜」
「早いな、こんな朝早くから来てるなんて…」
「おはようございます、早いですね」
「あぁ、おはよう。今日は特別さね、昨日帰ったら旦那が大怪我しててねぇ。それなのに ほっときゃ治る の一点張りで お前は街にいろ だもんねぇ、だから早く来て早く帰ろうと思ってね」
「(フォーン、ついて行ってもいいかな)」
「(ヒサノリの好きにすればいいよ)」
「(ドライフルーツのお店探し、今度になっちゃうな。ごめん)」
「(気にしないでよ〜)」
「(ありがとう)」
「(いいのいいの)」
「あの、今日の分、全部買わせて下さい」
「いいのかい?」
「はい、それで、差し出がましいお願いなのですが、一緒に村まで行ってもいいでしょうか?」
「一緒に?なんにもないとこだよ?」
「少しは治癒の魔法も使えますし、旦那さんのドライフルーツも好きですし、それに旦那さんに会ってみたいんです。こんなタイミングですが…本当は昨日言おうかとも思っていたのですが…」
「そうかい、じゃあ行こうか。別にこっちには断る理由なんてないんだしね」
「ありがとうございます。」
ドライフルーツの奥さんはマリネさんというそうだ。道中フォーンを紹介したら、こんなに丸々したうさぎは始めてみたと驚き、こんなに丸々と どういう進化をしたんだ と聞かれ、フォーンが泣いた頃に村が見えてきた。うん、よかった。
この村には特に門や柵などは無いようだ。
そのまま村に入りひとつの家の前へ、すると
ガラッ
?勝手に扉が開いた?
いや、違う。血の匂いと、これは…魔物…?いや、魔獣?何で家の中から?
「……なんで帰ってきた。……今日は街に居ろと言っただろ」
「ちゃんと全部売れてから帰ってきたんだから文句はないだろぅ?」
「……街に居ろと言ったんだ。」
「怪我人を放っておけるわけないからだよ」
「……明後日には治る」
「また傷が増えているじゃないかい」
「……気のせいだ」
「気のせいなもんかい」
「……」
「え、えっと、初めまして。ヒサノリと申します。治癒の魔法が使えるのと、旦那さんに会いたくてご一緒させて頂きました。こちらは従魔のフォーンです。ちゃんとしたフォレストラビットです。変な進化をした訳ではありません。ありのままの、フォレストラビット本来のすがたです。」
「……………俺の知っている奴はもっと細い」
あっ……
「(…… (ぐずっ)……ぅ…う…うわぁあああああん)」
「(き、気にするなフォーン!丸々太っててもフォーンはフォーンだ!ふわふわでかわいい所なんてまったく変わってないぞ!!いや、ほっぺなんて前よりふわふわだし もにもにしてて気持ちいぞ!それに顔もよりいっそう丸くなってかわいさ倍増だぞ!気にすることなんてひとつも無いんだからな!)」
「(バカああああああああああぁぁぁ)」
ダッ!
「フォ、フォーン!!」
「(うわあああああん バカあぁあああああ)」
「あ、あの!ちょっといってきます、追いかけないで下さい!!」
「おい!!だめだ!!」
やっぱり魔物が……?俺でも力になれるだろうか?
いやいや、それよりフォーン!!!
従魔契約をしてから、前よりフォーンの居場所がはっきりとわかるようになった。こんなに離れたのは初めてだがはっきりとフォーンの居場所がわかる。
……? フォーン以外にそこそこ強いなにかがいる。それがフォーンに近付いてる…?
でもフォーンは強いからあれくらいなら……いや、待て!!まずい!フォーンは今擬態したままだ、それにあの姿。今のフォーンの力は本来の姿からは数段劣る。それにあのなにかは気味が悪い。まずい まずい!!
『強化』 (脚力強化) (腹筋強化) (背筋強化) (体幹強化) (加速)『結界』『風圧相殺』
「(フォーン!!それ以上奥に行くな!なにかがいるんだ!危ないから戻ってきてくれ!フォーン!)」
「(ヒサノリ!!なんなのこれ?!気持ち悪いのがたくさんいるよ!!)」
「(フォーン!戻って来るんだ!!俺の場所はわかるだろ?!)」
「(わかる!わかるから向かってる!でもあいつら速いんだ!!)」
えっ?フォーンでも速い?
『気配察知』『探索』『索敵』
ほんとだった、うさぎや草食系は足が速い。フォーンの瞬発力は素のままだと俺でも着いていけない程だ。もちろん、今の姿での話だ。本来の姿のフォーンとは比べるのも烏滸がましいというものだ。
クソッ!森の中じゃ木が邪魔で『飛行』が使えない。しょうがない、森の上に出るか。
『飛行』
結界を張り一気にフォーンのいる場所まで飛ぶ。
気が邪魔で見えないが気配察知、探索、索敵でフォーンとなにかの間に降りる。
「ヒサノリ!それにさわっちゃだめ!!」
「えっ?」
ジリッ
熱っ!なんだ?!肌がジリジリ焼けてる……?
痛い、めちゃめちゃ痛い、が、止まっている訳にはいかない。なにかが近付いただけでこれなのだ。そいつは今、今度は俺を噛もうと構えながら走ってくるところだ。
『結界』
なんで最初から結界張ってなかったんだよ!!!
とりあえず、役に立つかは分からないが俺とフォーンに結界を張った
さっき受けた痛みが広がっていく。それが左手全てに行き渡った
ブワッ
オム様からもらったブレスレットが光と共に威圧や存在感のような何かを放った
するとあのなにかの嫌なかんじと、俺の受けた見えない傷?の痛みが引いた。
「(ヒサノリ!フォーン!大丈夫かぃ?!)」
「オム様!ありがとうございます!!フォーン、フォーンは?!無事か?!」
何かが俺の腹に勢いよく飛んでくる。まぁそれが何かはわかっているが。
「ヒサノリ〜!!よかったぁあああ」
「フォーン!怪我は無さそうだな!よかった!それに…痩せたな。」
「太ってたわけじゃないもん!!食い溜めのスキルっていったでしょ!!」
「すまんすまん、でも、よかったな。」
「うん!でも本気で走ったのなんて久しぶりだったな〜」
「そうか、食い溜めしておいて良かったのかもな」
「まぁ体が軽かったらもうちょっと早く走れたけどね」
やっぱり体、重かったんだな……ヒッ!ご、ごめんフォーン
まずいな、最近考えてる事がフォーンにダダ漏れだ
先程まで襲って来ていたなにかは茶色いオオカミだったようだ。あの時は何故か姿がよく分からず、ただ嫌なかんじがしていたが、今ははっきりと姿も見えるし分かる。
そのままオオカミ達は操り糸を切られた操り糸人形のようにパッタリと動きをやめ、倒れてしまっている。体が激しく上下しているので息があるのは確かだが、とても苦しそうだ。
今は嫌なかんじもしないし…敵対心や殺意も感じない…
「オム様、彼等に『回復』を掛けても良いでしょうか?」
「(ありがとう、ちょうど僕から頼もうと思っていたところだよ。大丈夫、彼等に害意はないよ。)」
『回復』『回復』『回復』『回復』『回復』『回復』…
茶色いオオカミは14匹もいた。『回復』で体は良くなった筈なんだが、誰も何も言わない。ただこちらをじっと見ているだけなのだ。…?まだどこか悪いのか…?
どうすればいいんだ…
「おい!お前ら大丈夫か?!」
叫び声に振り返ると、
息を切らしながら茶色い、傷だらけのオオカミが走ってきていた。俺とフォーンの近くで止まると少し光って旦那さんの姿になった。
「無事だったようだな、よかった。それと、どうやらうちの者たちが世話になったようだな。すまなかった。」
「あぁ、だから家の中から魔獣の匂いがしたのか。『治癒』『回復』それより仲間?は大丈夫なのか?『回復』は掛けたんだが起き上がってから動かないんだ、」
「あぁ、すまない、ありがとう。みんな、戻れたんだな。よかった、本当に…よかった…」
旦那さんの目に涙が浮かぶ
するとオオカミ達が光る
みんな変身出来たのか。
旦那さんがぽつりぽつりと話し始める。
何でも昔から旦那さん達の種族はオオカミの姿と人間の姿を併せ持つ種族だったそうだ。しかし、人間の言葉を上手く操れる者は極少数で殆どの者は人間の姿にはなれるものの言葉はオオカミ達のものだったそうだ。その事から、この森の奥で人間と関わらずに一族で暮らしていたそうだ。
そんな暮らしの中でも、時々人間と関わる事もあったそうだ。
森の反対側から迷い込んだ者、たまたま襲われているところを助けた行商人、未知の素材を求めて自ら森に入り死にかけた職人達、そういった者たちと少しづつ関わっていた。
そんな中、久しぶり人間の訪れた行商人から街が大量の魔物に襲われたこと、街を守る衛兵や冒険者、街の住人たちに多くの被害が出たこと、どうにか助かった人達も多くは大怪我、欠損したということを聞き、当時の長達は心を痛め、自分たちに何か出来ないかと考え、移植を研究し始めたそうだ。
危険が多いこの世界では欠損は珍しくないそうだ。なので一人でも多くの人の助けになればと始められたその研究だったが上手くはいかなかったそうだ。研究には死罪になる予定の囚人が使われていたそうだが、その者たちの念や呪詛が大きくなり少しづつ旦那さん達の種族を蝕んでいったそうだ。
ここ数年は呪詛の影響を多く受けていた者たちは正気を保つのが精一杯で、残りの者たちでどうにかこの森の魔物の数を調整していたそうだ。しかし、この森の魔物たちも呪詛の影響を受け、徐々に凶暴になっている為、残りの者たちだけでは凶暴化した魔物たちに対応しきれず、魔物たちの数が増えていっているそうだ。今現在も。
……今現在も?え、まずくないか?




