↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/152

97.再び絡まれる

 レームスさん達メンバーは、治療薬や薬草や補給物資などを買い揃えた後でオレ達と合流するそうだ。

 合流して一台の大型馬車で向かうのは二時間後、メールプマインの街門で落ち合うことに決まった。


「サーモアンまでは馬車で三時間くらい走れば到着しますから、皆さんも物資を補充しておくと後の憂いは無いですよ」

「そんな近くになのか」

「ええ。道中何も無ければもっと短時間で到着出来ます」


 逆に言えば、何か起こるかもしれないのかな。


 レームスさんは手を振り、メンバー達とギルド前の雑踏の中に消えていった。


 アイテム袋に備わっている道具類を確認して、オレ達も待ち合わせまでに補充を済ますことにした。






 ガンクとイルマがぼやき合う。


「魔族ってどんなだろうな」

「分からぬ。情報が乏しすぎる」


 オレ達は魔物と戦ったことはあっても魔族という種類の敵との遭遇経験は無い。もちろんそれは他の冒険者も同じな筈だ。


 ギャンダンさんは魔族の識別について、「人との明確な区別は難しい」と話していた。人間と大して変わらない見た目なんだろうか。誰もが知らない魔族を、「襲って、向かって来る奴が魔族だ」なんて言うのだからいくらなんでも曖昧過ぎるよな。

 ギャンダンさんも目にした経験が無いから、「各自で判断しろ」ということなのかもしれない。





 ナノは露店の方に気を取られているようだ。

 ラウルトンさんと先にご飯を食べてしまったオレとイルマと違い空腹なんだろうな。香ばしい海鮮焼きの屋台に近付いて、どれにしようかと既に買い物を始めている様子だ。




「玄武のジュースは旨かったか?」


 後ろを振り向くと、思わずギョッとして身構えた。そこに居たのはドルマックだ。


 いやらしい微笑を貼り付けながらこちらを見ていた。そして続ける。


「なぁ、飲んだんだろ? 霊獣玄武の魔核分泌液を。

 ならお前らの血は大層美味い味になってる筈だよな。丁度いい。霊獣から飲むよりお前らからのが容易い」

「……テメー、どういう意味だ?」

「聞き捨てならんことを……。挑発にしてはタチが悪過ぎだ」


 ガンクとイルマがドルマックを睨み付ける。


 おちょくった顔のドルマックの横には無表情のソルノが控えていた。他に、巨漢の男と、男か女か区別の付かない中性的な容姿の青髪の奴がいた。白いコートを羽織っている。


 オレは、もしかしたら前に遺跡で見た時より不穏で強力な気配を醸しているコイツらドルマック組をより強く意識し警戒した。

 強くなればこそ分かる強さがあるのかもしれない、とそんなふうに感じられたのだ。


 ニヤニヤしながらドルマックが言う。


「なんだよ、そう怒んなくてもいいだろが。人間の血が滋養強壮に良い事もあるんだ。

 んん、知らんのか?」

「ドルマック、また貴方の悪い癖が出ていますよ。

 ガンク組はギルドマスターにも市長からもご指名が掛かる身分。諍えば我々の立場を下げる結果になるのでは?」


 ドルマックを注意するソルノだ。

 でも、その横で青髪の奴が舌舐めずりするように口を動かしていた。


 気味が悪い。しかもその口の中は歯も真っ赤に染まっていた。

 そして目の焦点は足元のオレを向き、「ねこ……。ねこ……」と、知恵遅れの子供のように繰り返し呟いている。それは次第に獲物を見る目に変わってきていて、本当に気味が悪い。ぞわぞわと背中に寒気が走るのだ。


 たまらずガンクを見上げると不遜な雰囲気を醸し出していた。ガンクと同じく身構えているイルマよりも、ガンクはより臨戦体勢に近い。


 それを受けてオレもいつでも飛び掛かかれるようにと心の準備を始めた。


 相変わらず危険な奴等だ。殺られる前に殺らないといけないな、と尻尾を立てて青髪の奴と向かい合った。




 ガンクがギラギラと目を見開き言う。


「相手になってやるぜドルマック。前までの俺だと思って舐めて掛かれば痛い目見るぞ。

 さぁ来いよ、血祭りに上げてやらぁ」

「やめろガンク!」


 イルマが周囲を見渡しながら制止する素振りだけ見せている。


 だって、「血を飲ませろ」とか明らかに異常な文句で喧嘩を売ってきたんだ。買わない方がどうかしているよ。


 同じくにわかにざわめきつつある周りを窺っているのはソルノだ。「ふぅ。そちらがやる気なら構わないのですが」と、ワカメ状の髪の毛を揺らしている。


 オレは四肢に力を込めていった。






 そんな一触即発の状況に割って入って来たのはアーネット隊長だった。


 後ろからガンクとイルマの間に挟まり、「お前ら殺気立ってんな。いいな、戦の前のひと喧嘩か?」と両方の肩を掴んで現れたのだ。


「放せよアーネット隊長!

 コイツらの方から喧嘩吹っ掛けて来たんだよ」

「警備隊の目の前で揉め事とは頂けんぞ。

 相手は随分と格上と見えるが、受けてしまっても大丈夫なのか?」


 アーネット隊長を眺めながら、ソルノが極端に気配を和らげた。どうやら彼は戦う意志を無くした様子だ。


 オレは上を見上げて、どうしたらいいのか悩んだ。


 オレの目の前では青髪の奴が赤に染まった牙を剥き出したままにしているし、とはいえガンクはさておきイルマも戦意を引っ込めてしまった様子だ。


 ドルマックの方は最早興味自体が薄れたとばかりに、「白けちまったぜ」と肩を竦めている。




「みんなお待たせ。お昼のおかず買ってもらっちゃったよ。

 それでさーあ、聞いてよ。この人がアタシのこと一目惚れしちゃったんだってさ!」


 今のこの状況に無知なナノが無邪気な声を発しながら戻ってきた。

 横の男に腕を絡めちゃっているけど、何しているんだよ。相当な甘い台詞でも言われたのか、ナノは頬が軽く上気しているし。


 笑顔のナノが明るい声を出している。


「ありがとね、サクスティー」

「君の笑顔は薔薇かい?

 気にしないでハニー。君を愛してるボクは、美しい君の笑顔が見られただけで幸せだよ」

「やだ照れるからやめてー」

「何度も言うよ。愛してる。君はボクの女神さ」


 ナノがそのまま横に男を連れてきた。腕に袋を提げながらとても上機嫌になっているな。


 というか、ナノの横の爽やかなイケメン野郎はドルマックの仲間だぞ。

 オレは見たことがある。前に第二カレンド遺跡で女を抱き抱えていた奴で間違いない。サクスティーという名前なのか。


 そのサクスティーは、一日一善の良い行いでも終えた後のようなスッキリした表情で、うっとりとナノを見詰めていた。歯の浮くような台詞といい、気持ち悪い男だ。


 ナノがガンク達の状況を眺め、記憶を手繰り寄せながらやがて顔をしかめた。


「げっ、アンタってあの時の布頭!?」

「ドルマックだ。ねーちゃんも久し振りだな。

 おいサクスティー、女を見れば見境無く馴れ合おうとするな」

「嫌だな、キチンと区別は付けてるよ。

 美しい女性には好意を示しておかないと。これからの二人の進展の為にね」


 サクスティーはナノにウインクをした。

 ナノの方はというと、そのサクスティーに先程までの態度とは一転して胡散臭い者を見る目に変わっている。


「サクスティー?

 もしかしてアンタ、ドルマックの仲間なの?」

「そうだよ、マイハニー」

「ひえぇ、損した。

 やだ、アタシのトキメキ返してよ!」

「いいかい。二人を別つ障害が有るほど、そのトキメキは翼を広げる。愛の翼はどんな障害も越えてやがて二人を結ぶのさ」


 近寄るサクスティーを、胡乱な目で見据え、しっしっと追い払うナノ。

 でも彼から買ってもらった海鮮焼きが入った袋は渡さないようだ。




 アーネット隊長を見付けて都市警備隊の隊員達もぞろぞろと集まりだしていた。彼らはオレ達を物珍しいものでも見るように観察しながら事の成り行きを見届けるつもりらしい。



 ドルマックはため息をついた。


「なんだよ、この状況は。

 本意じゃないな。退くとするか」

「また逃げるのかよ? ドルマックさんは逃げるのがお得意か、弱気だねー」


 ガンクがドルマックを小馬鹿にすると、ソルノは無表情を貫いたまま声色だけゾッとする低音で言い放った。


「勇気を見せることと死に急ぐことは相容れないようにしませんと。死期は早まるでしょう……」

「アァ?」


 今にも飛び掛かりそうなガンクを押さえ付けながらアーネット隊長が言う。


「止めとけガンク、血気逸るのはサーモアンに着いてからにしろ」

「放せババア!」


 アーネット隊長に殴られているガンクを笑いながら、ドルマックは青髪の奴の肩に手を掛け踵を返した。


「ふん。行くぞ」

「そうしましょう。

 また皆さん向こうで会いましたらよろしく。

ほら、サクスティーも投げキッスはお止めなさい」


 ソルノに言われたサクスティーはそれでも名残惜しそうに唇に指を付けて気持ち悪い空気砲を放ち続けていた。


 なんて気持ち悪い攻撃なんだ。


「暫しのお別れだね、マイハニー。ああ、愛しのマイヴィーナス」

「乙女の純情を弄ぶ男なんか大っ嫌いだから。二度とアタシに近付くなっ」


 サクスティーの投げキッスの空気砲をイルマを盾にして身を防いでいるナノ。オレは気持ち悪い攻撃に晒されているイルマが可哀想に思えてならなくなった。






 ガンクをボコボコにし終えたアーネット隊長は盛大なため息をついた。


「お前らホント、行く先々でな……。

 トラブルメイカーも程ほどにせんと、いい加減逮捕しちゃうぞ?」

「そうよ逮捕しちゃってよ、アーネットさん。サクスティーは絶対異常者だよ、放っておいたらストーカーになるよアレは。

 それにアイツら正真正銘の人殺しの悪者なんだから!」


 気持ちが昂ったナノを一旦落ち着かせてアーネット隊長が息を漏らした。


「“渦裂き”か……。

 あれ程の奴等にまで目を付けられてんのな。確かにお前ら只者じゃないよ」

「む、ドルマックのこと知っておるのか?」


 戦場に行く前から早くも疲れた表情を見せて訊いたイルマにアーネット隊長は答える。


「”渦裂きのドルマック“を知らん方が可笑しいだろ。

 北部ではどうか知らんがアーバイン王国南部では今一番有名な冒険者組だろうな。

 ”反魂師ソルノ“、”空槌のワンスタン“、“星剣士サクスティー”に”吸血鬼ジル“」

「色んな通り名を持った奴らなんだね。何か悔しい」

「チッ、小癪な」


 ちょっとそういうの格好いいな、とオレも思う。




 それよりも、とアーネット隊長が話を変えた。


「お前らの敵は”渦裂き“じゃないだろ」

「それはそうね」


 アーネット隊長は都市警備隊の御用達の道具店にこれから向かうらしい。その店へ誘われたオレ達。彼女達都市警備隊に付いていけば、隊員限定の特別価格で装備を整えられるそうだ。


 そうだよな、今はドルマックと争うよりも魔族軍を追い払わないとだな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。