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96.作戦会議

 第二番街に入りギルドのある方面へと急ぐ。

ガンク達はギルドで上手く依頼を選択出来ているのか不安になりながら走っていく。


 露店が並ぶギルド前の通りを抜ければその先にギルドの建物がある。人で賑わっている中を掻き分けて進んでいく。





 到着したギルドは大混雑の様相だった。まるでお祭り騒ぎになっている。どういうことだろう?


 依頼書が張り出されている掲示板の周りにはガンクとナノの姿は無かった。というより珍しく人気が無い。

 多くの人が入口近くで手を上げたり指差したりして喧騒の最中だ。





 どこいったんだ、ガンクとナノ。


 イルマと二人して、しばらく掲示板の前をキョロキョロと目を動かし体を向けたりしていると、背後から声が届いた。


「ねこ連れ……。

 貴方はガンク組のイルマですか?」


 声がした後ろを振り向く。


 ひょろ長い男が無表情で佇んでいた。

 誰だ? どこかで見た気がするけれど思い出せない。

 どことなく彼から漂う冷気に足元から寒気が走った。


「そうだが。

 失礼だが、誰だ?」

「第二カレンド遺跡の地下五階層でお目に掛かって以来です。

 私、ドルマック組のソルノと申します」


 あっ、こいつドルマックの仲間の奴だ。

 身構えたイルマに、垂れたワカメみたいな毛髪の奥で薄ら笑いを浮かべるソルノ。


「うふふ。随分成り上がりましたね。驚きましたよ。

構えを解いて、無遠慮で結構です。私は争う相手にありません」

「何用だ?」

「ギルドマスターとメールプマインの市長様がお呼びです。部屋番号は十九。

 皆様集まっておいでですのでお急ぎなさるよう……」


 ソルノはそう言い踵を返し去っていった。宙に浮かぶように音も立てずに。

 幽霊みたいな奴だな。





 指定された十九番の部屋へ向かい、その扉を開く。中は会議室のようだ。数十人集まって熱気が扉の内側から漏れてきた。



 イルマの姿を捉えたナノが手を振っているようだ。


「あっ、イルマ! こっちこっち」

「何がどうなっているのだ?」


 部屋を見渡すと、前面には壁一面の白板が据え付けられていた。その白板の右横に数人の男女が並んで椅子に腰掛けている。

 その後ろ側に白板と向き合うように数列の机に陣取っているのは左からガンク達、都市警備隊の隊服姿の面々、それに他の冒険者達と、相変わらず布を頭に巻いているドルマックにその仲間達が着席していた。アーネット隊長の姿もあった。


 オレとイルマはガンク達の後ろの席に腰を下ろした。


「何してたのよ、遅いじゃない。うわっ!? 酒臭っ」

「飲んでたのかよ」


 イルマがガンクとナノに事情説明しようとするけれど、白板横の椅子から立ち上がった筋肉もりもりの恰幅の良い男に、「始めるから黙れ」と注意された。

頭から爪先までの全身に虎皮の装備を施して格好イイのかダサイのか微妙な印象だ。


 いや、カッコ悪いな。


「これで全員揃ったな。

 改めて名乗る。オレは当ギルドでマスターを務めているギャンダンだ。

 オーシャル海にてミョウビシの船が襲われた事件は皆周知だな? しかし巷では情報が錯綜している。

まずは情報の統一を図ると共に真実を伝える」


 ギルドマスターだったのか!

 そういえば強そうだ。うん、カッコ悪くないぞ。


 それにしても、ギャンダンさんが告げた話にこの場にいた面々は皆驚愕の表情になっている。オレとイルマを除いて。

 それは何故ならば、ラウルトンさんが予測していた読みと同様の内容をギャンダンさんが話していたからだ。

 さすがラウルトンさんだ、と心の中で彼を褒めた。


「驚くのも無理は無い。

 魔族が攻めて来るなんてのはいつ以来か知らん。帝国側が魔族軍の侵攻を阻んでくれているお陰で平和が保たれているのだ。

 しかし魔族の罠に嵌まり、まんまと騙されている輩が多い。

 間違うなよ、敵は帝国ではない。魔族軍だ。

 これから作戦会議を開く。その前に市長殿から話がある。

 いいか?」


 ギャンダンさんが全員を見渡す。

 意見が出ない事が分かると彼は、「市長殿、お願いします」と頭を下げて下がった。


 代わって前に出て来たのは冴えない雰囲気の白髪頭のお爺ちゃんだ。庭で盆栽を手入れしている姿の方が 似合っていそうな温和な見た目をしている。


「ギャンダンさん、ありがとう。

 はい、私は市長のモルットです。

 日々安寧に過ごしていられること、それは悦びです。それを脅かし奪おうとする者は淘汰されるべきです」


 メールプマイン市長のモルットさんがつらつらと長めの話を重ねていった。

 要するに、悪い魔族達が侵略しようとして来ているけれど、アーバインの王都から王国の国防警備軍が駆け付けてくるのはまだ先もしくは未定だから、オレ達冒険者とメールプマインの都市警備隊でなんとか魔族軍の侵攻を食い止めてほしい、ということだ。


「……ですので、力を合わせ、魔族の軍団を蹴散らし市民の為平和の為ご協力頂きたい。よろしくお願いします」


 モルットさんは恭しく頭を下げて着席した。






 そして本格的な作戦会議が始まった。


 今回は緊急事態でギルドからの特別招集になるという。ギルド入口でお祭りみたいに人が集っていたのはそのせいだ。職員が冒険者に呼び掛け招集を行っているのだ。


 そして市長権限で特例の都市維持対策税というところから報酬金を出してくれるという。

 しかもそれは結構イイ額の。


 作戦会議に参加したオレ達ガンク組は、今回の統括リーダーを務めるギャンダンさん直属の実行部隊へ任命を受けて作戦に組み込まれている。


 それはギルドから霊獣玄武を倒したパーティとして、さらに市長へ直々にラウルトンさんから推薦されて大抜擢といった具合だ。

 オレとイルマが会議室に到着するまで会議の開始を待っててもらえるほどの大躍進なのだ。


 ソルノがイルマとオレに言った台詞はそのせいか、と思い出した。





 会議室に集まっている他の知った顔では、ドワーフのレームスさんもこの場にいた。

 話を聞いてみると、彼は都市警備隊とは別のメールプマインの治安部隊の非常勤みたいな仕事をしているらしい。ドウォルフとガンマリヤとメールプマインの三つの街を回って魔物を討伐したり悪事を働く者を捕らえたりしているそうだ。





 ギャンダンさんが睨みを利かせながら言う。


「……以上が今回の魔族軍討伐作戦だ。今の説明で全員理解したな?

 ちゃんと大筋は見えたな?

 質問がある奴は早めに言えよ。今なら聞いてやるぞ?」

「敵の戦力はおよそどれくらいですか?」


 ドルマック組の後ろに陣取っている一人が尋ねた。ギャンダンさんは、「正確な数は把握出来ていない。最大数百から数千を覚悟しろ」と答えた。


 多くないかな?

 多勢に無勢な気がするけど大丈夫かな。


 イルマが手を上げた。


「現在分かる範囲でいい、敵の状況は?」

「今朝、サカネとサーモアンで魔族の斥候と見られる者を捕縛している。サーモアンの方では街の治安部隊が大打撃を受けている。

 さらに、ミョウビシでは双方の軍船の衝突があり、迎撃には成功しているが甚大な被害を受けている状況だ。

 それらは全て様子見部隊と見られるものだ。朝方、敵本体の沖への集積を確認している」


 ギャンダンさんの告げる話に重い空気が流れる。


 オレは彼の虎装備が気になって仕方無いけれど、誰もがそこはスルーしているようだ。



 ギャンダンさんの作戦によると、南部の沿岸地区に移動してオーシャル海に集合し始めている魔族軍を叩くという至極単純なものだ。実に解りやすい。


 ただし、戦場は海の上だ。いつもと勝手が違うから気を付けなきゃな。


 沿岸の三つの街、港町サカネ、魚宿場町サーモアン、造船街ミョウビシにそれぞれ戦力を振り分け個別で防衛に当たるというものだけど、全員で魔族軍の船団をやっつけた方が早いと思うんだけどな。


 オレ達ガンク組はレームスさん他数人と魚宿場町サーモアンに移動して、魔族の軍団を迎え撃つことに決まった。


 サカネにはアーネット隊長がいる都市警備隊の上位部隊、ミョウビシにはドルマックを筆頭とした冒険者部隊が防衛と迎撃を務める。


 ギャンダンさんはミョウビシに向かうという。

 そしてそれぞれの街には他にも志願兵である冒険者を募っているからその数は結構な人数に膨らむ見込みだ。


「準備が整い次第出立しろ!

 開戦は明朝前後になるだろう。足は各街で用意がある。各自の判断で動くことを許可するが、全員全霊、死んでも魔族一匹これ以上この地を踏ませるな!」

「おうっ!!」


 破裂するような声と共に散り散りに別れて会議室から散会した。

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