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85.メールプマイン第一番街

 海賊の港で獲得した財宝を換金するために、アーネット隊長の紹介で換金所を案内してもらっている。


 紹介といっても、アーネット隊長の個人名義の預金や貸付等の取引している換金所だ。


 でも訪れた換金所を「他所でやってくれ」と断られ、もう一つの所でも断られてしまった。


 今訪れていた場所はメールプマイン第三番街都市警備隊の運営資金を管理出来るような、第三番街で一番大きい場所らしいのだけれど。





 ごますりする手を止めないで換金所の中年の男が言う。


「すんませんな。こんな大きな額は、ウチのような小汚ねぇ換金所じゃあどうにもなりませんよ」


 恐縮した素振りから一転して開き直ってしまったぞ。


 アーネット隊長がテーブルを激しく打った。


「アァ? お前んとこもかよ、どいつもこいつも女々しい商売してんじゃねぇよ!」

「申し訳ございませんね、隊長様。第三番区域じゃどこの換金所も無理というもんですって。

 この私が責任持って、第一番街の換金所をご紹介致しますものですから。

 それで今後ともどうぞご贔屓にお願いしますよ」


 アーネット隊長が換金所の男の首根っこを掴み、投げ捨てた。


「クソがっ、どこも使えねー換金所だぜ」


 換金所を出ると、アーネット隊長は店先に唾を吐いた。後ろでさっきの男とは別の所員さんがこちらに何度も頭を下げている。





 オレ達が手に持っている財宝のうち、各個人でおよそ金貨の枚数は百枚ずつある。


 アーバイン王国の通貨の単位では、金貨一枚一万デル。銀貨は千に銅貨は百デルだ。その下に鉄銭十デルに鉄銭の中央に穴が開いた穴銭が一デルだ。


 だから、アーネット隊長を含めて計五人で五百万デルを持ち歩く超大金持ちの御一行なのだ。もちろん、金貨以外に銀貨も銅貨も海賊の港で入手したから、貨幣抱けでもとんでもない額を手に入れてしまったのた。




 ただし。


 問題なのは手に入れたそれらをそのまま使うことが出来ないという、決定的な難点があったのだ。


 オレ達が入手したこの金貨類はかなり昔の貨幣で現在は流通しておらず、現在の市場を流れている貨幣に換金しなければ、何一つ物を買うことも食べることも出来ないのだ。


 さらに言えば、金貨類の他に様々なお宝も手に入れたから、それはもう、本当に超、超、超大金持ち状態になってしまっているのだ。





 換金所を離れると、再びガンク達は挙動不審になり始めた。


 ガンクは、腕に巻いたアイテム袋を手で押さえ付けている。そして周囲をしきりに見渡しながら警戒し続けている調子だ。


「おいおいおいおい、頼むよアーネット隊長。声を荒げないでおくれよ」

「そうよ、お願いだから目立つのはよしてよ」


 ナノも巨額のお金が収まったアイテム袋を青いローブの中に隠すように抱き込んでしまっている。常に内股で、おしっこを我慢しているような怪しい体勢になりながら。


 堂々としているアーネット隊長を見習ってほしい、とオレは思う。


 彼女の場合は、まさかこの第三番街で名も顔も知れた隊長から大金を掠め取ろうと企む輩はいないだろう、という漠然とした安心感が働いているのかもしれないけれど。


 そして、イルマもガンクやナノと同じだ。大金の入ったアイテム袋を抱えて、腰が引け過ぎておじいちゃんみたいな猫背になっている。


 アーネット隊長がイルマに話を投げ掛けた。


「面倒臭いな。やっぱり第一番街まで足を運ばないと無理なんだな」

「だからこの区域の換金所では取引規模が合わないのではないかといったろう」

「どいつもこいつも、シャンとしろよ!」

「何をするっ!」


 アーネット隊長は八つ当たり気味にイルマの砕けた格好の腰に蹴りを入れた。






 オレ達はギルドへ行けば、冒険者ギルドにそのまま預金して大金を処理することが出来るからラクなのだ。


 それに対して、冒険者ではないアーネット隊長は手に入れたこのままじゃ使用不可能な金貨類をまずは換金しないとどうにもならない。


 これがプライベートじゃなくて都市警備隊としての功績の一部だったらこれほど面倒なことにもならなかったんだろうけれど。


 なんといってもメールプマインは人口過多なので、極端に金を持ち歩くと周囲の目の全てがスリや詐欺師にしか見えない。


 オレは全く気にならないけれどね。盗まれでもしたら捕まえる気満々だから。


 平気へいき。






 そういう訳で、アーネット隊長の換金が都合が付かない状況なので先にオレ達が第二番街のギルドで金を預け入れた。


 オレ達の方は滞りなく処理は進んでいき、終わったその後でアーネット隊長に付き添って第一番街へ向かうことになった。


 金銀銅貨は預けても、オレ達にはまだ金の延べ棒もあるし、金の装飾品や宝石を散りばめた品も多数ある。


 それらは処理できた金貨類と一緒に丸投げするようにギルドに預けることも可能だけれど、せっかく第一番街へ赴くのだからということでアイテム袋に入れたままにしておいた。


 イルマが、「何かの役に立つかもしれん」と言うならそうなるかもしれないからね。






 そしてメールプマイン第一番街区域の手前まで来た。


 第二番街と第三番街の区域には通行したり往き来すること自体何の不自由も無く移動可能だ。


 けれど、この第一番街の区域だけは檻のような鉄製の堅固な格子の壁に守られ、一ヶ所だけの通行口には武装した門兵が仁王立ちして鋭い眼光を走らせていた。


 ガンクがアーネット隊長に耳打ちした。


「なんで衛兵がいるんだよ。貴族街かよ」

「常時入口は関所状態だ。お前らも不思議に感じるだろ、同じ平民でメールプマインの市民なのに。だから嫌いなんだよ」

「どういうことだ?」


 訊ねたイルマに彼女は説明した。


 第一番街に住む人々はメールプマインでは貴族に近い人々という待遇をされているらしい。本当の貴族のように横柄な態度を取る者は中にはいるけれど、滅多にいないそうだ。


 選民思考のような意識が根付いているようだ。


 第一番街の住人の中には、第一,第二の区域に居住する住民の預かり知らぬところで、この公益都市メールプマインを運営するように支配していると言われている。


 さらにはもっと広範囲まで広い影響力を有する人物の存在も噂されているそうだ。


 メールプマインの街をこの地に興した開拓者の末裔や、その他には、他区域に自ら経営する店や商社や工場を抱え持ち暮らしている大富豪のような商人も多くここで暮らしているという。





 アーネット隊長が門兵に書類を手渡した。先程第三番街の換金所の親父から貰った紹介状だ。


 門兵はその書類にさっと目を通すと一言、「通行を許可する」と言った。どんだけセキュリティ堅いんだか。


 第一番街の街並みは、端的に言えば古い街だった。


 第二番街や第三番街にあるような高層建築は見られず、木造の平屋や二階建てばかりだ。それらはみな見た目丁寧な修繕を繰り返されている。有限の敷地内で古き良き趣向を洗練させることに重きをおいている、そんな雰囲気だ。

 味わい深く、重厚感滲む街を進んでゆく。





「確かこの辺りの筈なんだがな」


 オレ達を先導しているアーネット隊長が辺りを見渡した。


 通りを歩く人々は少なく、そのうちでも誰もが“慎ましく品がある”というような服装だ。派手に着飾っていたり角の立たない格好を心掛けているのかな。

 母親の手を掴んで歩いている幼児でさえ悪く言えば地味な子供服を着てとても大人しく通りを歩いていた。


 そんな第一番街の住民達に対して、いかにも“これから冒険に行きます”という具合の冒険者ルックスのオレ達に兵隊服のアーネット隊長だ。

 住民達はみなオレ達を目視した途端にすぐ視線を外してしまう。よほどオレ達が場違いに映っていて目も会わせたくないのかな。ちょっと不安にもなってしまうよ。





 隣を歩くナノが呟いた。


「なんか……、活気が無い所ね。どことなく陰湿な感じというか」

「だな。他の区域とはかけ離れた雰囲気だな」


 ナノとガンクに近寄ってアーネット隊長が囁く。


「鉄格子の檻の中に収まって滅多に外には顔を出さないんだ。古い慣習に囚われながら暮らしていてな。もっと交流すりゃいいんだよ」

「フン、そう言えば、どこかで聞いた話だな」


 オレは、ガロットさんの奥さんの、ミューネさんの話を思い出した。

 確か、良いとこのお嬢さんだったミューネさんがガロットさんと駆け落ちしてメールプマインを離れ、この第一番街に入るのに黒装束の着用を義務付けられたという話だ。


「でもアーネットさんは第一都市警備隊に昇格したいって言ってたじゃん。陰湿な人達と一緒に住みたいんでしょ」

「まぁ、言ってたけどな。

 地位も高けりゃ治安も良くて暇で楽。これが花形とは言えねぇけど、誰でも目指したくなるもんだろうよ。

 私が、もしだけどな、例えば都市警備隊の統括隊長まで昇り詰めたら色々変革してやりたいんだけどなぁ」


……それって警備隊の管轄外の話だと思うけど。

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