84.魔導ロボットとの激闘
右手に大剣、左手には銃砲と思われる武具を身に付けた人間の二倍くらいの体躯をしたロボットが、地を滑るようにしてオレ達目掛けて向かって来ている。
よく見ると胴体は翼竜のような銀色の鱗に覆われ、背中に翼を持ち長い尻尾を引き摺っている。頭部だけは人間の頭蓋骨の形をしていて、その歪さが際立っていた。
ロボットとして決定的なのは左手の銃砲と両足に付いた幾つもの車輪だ。
オレはもしかしたら【転生者】としての知識があるからなのか、メカニカルなその見た目から瞬時にこの敵をロボットだと判断出来たのだけれど。
「なんだ魔導ロボットとは?」
イルマが疑問を口にした。
「帝国で開発が進んでいる機械人形だ」
「機械? なんだそれは、見たこともないが、魔物と違うのか」
アーネット隊長が説明しようとするうちに、魔導ロボットはぐんぐん接近してきている。
「どうでもいい!
魔物と変わんねーだろ、全員で迎撃するぞ」
「了解」
「分かった」
ガンクの言葉にイルマとナノが応じて距離をとった。
オレも迎え撃つ体勢になる。
アーネット隊長もだ。拳に戦闘用の魔道具らしき武具を装着して構えをとった。
防波堤の道を外れて直線上に入ると、魔導ロボットは構えた左手からオレ達へ銃を乱射し始めた。
そして乱れ撃ちしながら猛スピードで向かって来る。
予想だにしていなかったであろう魔導ロボットの攻撃に面食らいながら、前線にいたガンクとナノが銃弾の雨にみまわれた。
「うおぉ、なんだこりゃ」
「きゃあぁ!」
オレは上へと跳び上がり、天井を蹴り付けて伸ばした爪を当て銃砲の向きを変えさせ、勢いそのまま魔導ロボットの横っ腹へと体当たりしていった。
なんだ、滅茶苦茶硬いぞこいつ。
ぶっ飛ばす予定が、予想外の硬さと重さのせいで逆にオレの頭が悲鳴を上げた。
軽い脳震盪を起こしながら見上げると、イルマの弓が何発も当たっていても、その弓矢の全て銀の鱗に弾かれてしまっている。
「どうなっている、【感知魔法】に何も引っ掛からぬ」
そりゃあ機械だからな。
弱点を探そうとしていたのだろうイルマが狼狽しているけれど……、ヤバイぞコイツ!
駆け寄ったガンクの剣は頭で受けつつ、切り返しの魔導ロボットの剣撃を受けたガンクが吹き飛ばされ激しく壁に叩き付けられた。そこに左手の銃砲が襲う。
壁もろとも撃ち抜かれたガンクは、崩落を起こした岩盤に埋もれてしまった。
「やめろぉぉ!」
アーネット隊長が鬼のような憤怒の表情で魔導ロボットに向かう。
「ハアァ、ハイインパクトハンマー!」
駆け寄ったアーネット隊長が魔導ロボットの脇腹へと、凄まじい衝撃音を響かせる一撃を放った。
身体ごと大きくずれていく魔導ロボットへ、オレも負けじと発生させた力場で包み込む。
オレは想像のままに創造する。
くらえ、イノセントリフレイン!
魔導ロボットを取り巻くように発生した無数の光線が繰り返し幾度もなく襲っていく。
どうだ!?
拡がった力場の円の壁に当たり反射しては何度も何度も光が魔導ロボットを襲った。
けれど……、魔導ロボットの鱗が多少剥がれ落ちたくらいだった。
どうなってんの、コイツの装甲?
剥がれた鱗の奥に機械の内部構造が見え隠れしていた。
オレが歯噛みして睨んでいるところへ、上からナノの声が響き渡る。
「我が体内に燻る熱き血潮よ。今こそ火の精霊と契りを交わしその加護を得ん……。
いっくぞー、ファイアーボール!」
ナノが船の甲板に立ちながら掲げた杖を降り下ろした。
作り上げられた巨大な火球が魔導ロボットに向かって飛ぶ。
けれど、それに反応した魔導ロボットはその火球へ向け銃を乱射し始めた。そのまま直撃したけれど、火球の威力は半減してしまっているようだ。煙幕を掻き裂くように銃撃を再開した。
「キャアァァァ」
「頭を下げて船内へ隠れてろ」
ナノを襲った銃撃をなんとかイルマが散らし防いでいく。けれど不馴れというよりも初めての銃撃に曝されて、防ぐこともままならない二人の被害は甚大だ。
左舷は蜂の巣みたいになっていく。
やがて船内へ引っ込み潜伏してしまったナノとイルマの二人を見失った魔導ロボットは銃撃を中止して、キュイイ、とかキュウウイイと、機械音を立てて頭部を傾げるようにしていた。
魔導ロボットは背中の翼を拡げると、内側に内蔵されているフライヤーを輝かせ始めた。
翼からジェット噴射して浮かび上がった魔導ロボットは、おもむろに突き出した左手の銃砲の角度を変えた。その砲身が変形していき、ズドンッ、と音とともにミサイルのような大きな弾丸を船に向け撃ち放ったのだ。
大爆発を起こし崩れ落ち、船はゆっくりと海底へ沈んでいった。
さらに魔導ロボットは追撃の手を休めず、もう一発ミサイルが放たれ、船は大爆発を起こしてもはや全壊寸前だ。
このままじゃイルマとナノが危ない!
呆然としていたオレとアーネット隊長が、そうはさせまいと走る。
うおぉ、ねこパンチ!
飛び掛かり、マシンガン仕様に戻った魔導ロボットの銃撃を浴びながらのねこパンチだ。
伸ばした爪を極端に硬質化させたと同時に身体も硬質化して防御力を高めたのに、それすら穿つ魔導ロボットの銃砲。
激痛に顔を歪めながらオレは首元への強烈な一撃を放った。けれど、それすら魔導ロボットの停止には届かない。空中から地上へ落とすことに成功したくらいだ。
横まで回り込んだアーネット隊長は、魔導ロボットの右手の大剣の袈裟斬りを潜り抜けて、もう一度先程と同じ箇所へ渾身の正拳突き叩き込んだ。
「ハイインパクトハンマーァ!」
右手はそのまま、ズボゥッと魔導ロボットの内部へ埋まり、一瞬停止したかに見えたものの、振り動いた魔導ロボットは尻尾でアーネット隊長を強打し海面へ吹き飛ばして沈めてしまった。
アーネット隊長は海の中に消えてそこにポコポコとあぶくが立っている。
強すぎるよ……。
勝てないんじゃないか、コイツに。
みんな死んじゃう。
!?
膨大な魔力の反応に、オレは顔を向けた。
そちらを見やると、ガンクだ!
ガンクは吐いた血へどを拭いながら、青白く発光した剣を逆手に持っていた。その両眼は鋭く光り輝いている。
「お返しだぜ。天限!」
地面に突き刺した剣から青白い魔力が迸って伝わり、魔導ロボットを足元からズタズタに切り裂きつつ青光の衝撃波で吹っ飛ばした。
凄まじい一撃だ。
大きく吹き飛ばされた魔導ロボットは後方の地面に打ち付けられて粉々になってしまった。
煙を上げてそこら中から火花を散らしている。
ガンク格好いい!
ガンクってば本当に魔力持ちだったんだな。
勝ったかな?
しばらくの静寂が包み込む中で、アーネット隊長が海面から這い上がり陸地の光景を眺めた。
「ふん、どうやら勝ったようだな。せっかく、私の究極奥義を残しておいたものを」
アーネット隊長は悔しがる素振りを見せてニヤリと口の端を吊り上げた。
その後でオレ達の盛大な歓喜の勝鬨が上がったのだ。
ナノを担ぎ上げてイルマも陸に到達したようだ。ガンクも尻餅を付いているけれど、もう大丈夫だろう。
やった、これで蓋でも何でもぶっ壊して帰れるぞ。
しかしーー。
轟音を響かせて魔導ロボットの残骸が激しい爆発を起こした。
膨らんだ衝撃波に全員が吹っ飛ばされ、ガンクもオレも転げ回り、イルマにナノやアーネット隊長は再び海へと逆戻りする格好になった。
ガンクがフラつきながらも立ち上がった。
「ってー。
なんだよ、くそ。イタチの最後っ屁かよ」
「ゲボッ、ゲフォッ!
しこたま水飲んじまった」
アーネット隊長も肘を付いて再び陸地に身体を引き上げるけれど。
上方を睨みイルマが叫ぶ。
「不味いぞ!
今の爆発で洞窟全体が崩落し始めた」
「なんなのよ、もうっ」
パラパラと天井から破片が落ち始め、次第に岩の塊が落下してきた。
どうしよう、どうしよう。
オレもみんなも、もう走って逃げることなんて出来る体じゃないぞ。血だらけなんだから。
「チクショウがっ、どうすんだよ」
「早速使わせてもらうとするか」
ナノを陸に放り上げ、イルマも陸地に飛び上がるとアイテム袋から巻物を取り出した。
「今から洞窟の入り口まで転移して飛ぶ。俺の元へ全員集合しろ。急げ!」
オレ達は落ちてくる岩の塊をかわしながら手を繋ぎ目を閉じた。
「全員目を閉じ、舌を噛むなよ。行くぞ!」
イルマが口にくわえた巻物をほどき垂らした。
ヒュオオオオオオォォォォッ、と頭の中に強風が吹く。
前に第二カレンド遺跡でギンセントさんが使った『転移術の巻物』と同じだ。奇妙な感覚に意識を奪われそうになりながら、空間を飛び越えるような映像が脳裏に過る。
無音なのに、耳をつんざく強烈な高音が頭の中で轟音のように鳴った。
次の瞬間、オレ達全員がちゃぷちゃぷと波に揺れて海面を漂っていた。
ここは……。
オレの横でガンクが笑う。
「やったな! 成功だぜ。
おい、起きろみんな。戻ってきたぞ」
「……ん、うるさいガンク。
はぁ。大きな、綺麗で、真っ赤だね……」
「うむ。見事な夕陽だな」
放心したように海に沈む夕陽を眺めるガンク組だ。波は穏やかで夕陽の赤色が海面にも反射してこちらまで伸びている。それは荘厳な風景だった。
オレ達にアーネット隊長も加わった。
「今度こそ、帰ってきたな」
ああ。
オレ達が入った、観光地デスピアークの崖に大きく口を開けていた洞窟は完全に崩壊してしまっていた。
アーネット隊長はそちらへ向けてもう一度静かに手を合わせ、目を閉じた。
それは、かつてこの地で非業の死を遂げた同郷の者を弔うものか、あるいは生還出来たことへの感謝の念なのか。
ナノが手で海面を叩いた。
「アタシお腹空いた~。早くメールプマインに帰ろう!」
その通りだな。
ここへきてやっと、やっとガンクに活躍の場が。
一応、ランドに次ぐ主人公キャラのつもりでいる気なのですが。不遇です(笑)




