83.海賊の港
財宝はアーネット隊長と分配して、宝箱に入っていた剣はオレ達が手元に預かることになりそうだ。
ただし、なかなかそう話は上手く落ち着かない。
「皇帝の献上物を私が持っていてもおかしいだろう。まさか売り払う訳にもいくまい。違うか?」
「しかしだな、トラブルの火種となりうるものを我々の懐にしまうというのもな」
アーネット隊長の押し付けにイルマがなんとか食い下がっているけれど。
「お前ら、帝国にも行くんだろう?
ちょうどいいんじゃないか、この剣渡してこいよ」
「簡単に言ってくれるな!
それに、帝国領への入国となど誰が話した、勝手に俺達の行動を決めないでもらいたい。ガンクやナノがその気になったらどうする」
アーネット隊長が、「なんだ、行かないのか?」と珍妙な表情を作り二人を見た。
ナノはまだ金塊をアイテム袋に詰める作業に熱中している。
手をひらひら振りつつ、「アタシはどっちでもいいよ~」とのことだ。ぞんざいな態度を見せる。
ガンクの方はというと、オレの背中の上で気持ち良さそうに眠ってしまっていた。代わりにオレが尻尾を振ってやった。
オレの意見としてはだけれど、オレもどっちでも構わないぞ、と応じたつもりだ。
そんなオレ達の様子を見ながらアーネット隊長は、ふうん、と呟いた。
「まぁ、なんだ、お前ら冒険者だから入国審査なんぞ冒険者証があれば問題無かろう。
私が口聞いてやってもいいが、一番手っ取り早いのは隊商の護衛でも務めながらのそのまま入国という手だな。運搬物に紛れ込むってのもいいぞ」
「話をすげ替えないでもらえるか。入国方法なぞ如何様にでもなる。
都市警備隊で引き取りがままならぬ様ならば、メールプマインで管理すればいいだろう」
厄介物の押し付け合いが激しさを増してきたところでガンクが目覚めた。そして、それはアーネット隊長にしてみれば鶴の一声だった。
「いいよ、俺が受け持つよ」
「ガンク! そうやってすぐ安易に引き受けるな」
帝国皇帝に献上される予定だったという問題の剣。その剣を特定グループで保有するいうことは、もしかしたらだけど帝国側から敵対視されるという危惧をはらみ、この先常に懸念を抱いて進まなければならないのだ、というようなことをイルマが力説したのだけれど。
「その時は返せばいいじゃねーか。簡単だろ」
ガンクはイルマを一蹴した。
腑に落ちない様子だけれど、ガンクがリーダーなので渋々納得せざるをえないイルマだ。
大丈夫だ、イルマ。みんなで頑張ろう。
金銀財宝の山が眠っていた地下の広間からは上へと通じる空洞が伸びていた。
アンカーを引っ掻けて上へ登り進んで行くと、鉄板で蓋をするように出口が閉ざされていた。押し開けるとその隙間から光が射し込み、久し振りの地上の気配に胸が高鳴った。
けれど……。
「ここは……、港か」
慎重に鉄板をずらしていき、外の様子を探っていたイルマが漏らした。警戒しながら頭を外に出して、後ろに続くオレ達へ手招きした。
全員が洞窟から外へ出て周囲を見渡した。そこは確かに港のようだ。
大型の船が係留され停泊している。それが1隻に、小舟が三隻あった。まるで時が止まっているかのように、鏡のように静止した海面に音もなく浮かんでいた。
港の入口であろう水門が閉ざされているから波も一つの波紋も無いのかもしれない。
にしても、ここはまだ地下で、この港も地下施設ということだろうな。
上には岩盤の天井があり、光を生む永久魔道具が均等な間隔で埋め込まれ、港の内部を真昼のように明るく照している。人気は皆無だ。オレ達以外に物音の発生源は無かった。海面だけじゃなく、ここにある全てのものたちが時の流れの一切から遮断された静止空間のようだ。
「この船……、潜水艦ではないか。
ではこれもやはり、干潮時にのみ出港可能ということか」
船を見上げてイルマが言った。
ナノはしゃがんで海面に映った自信の姿を眺めた後、その視線を船へ移した。
「なんか怖いね。亡霊でも出そうじゃない? アタシ達が海賊達の集めたお宝を奪っちゃった訳だし」
「ふむ、【感知魔法】には何一つ反応せぬ。大丈夫だろう」
大型船は海賊船というよりは見た目商船だ。積み荷を沢山載せて走れそうだけど。
あるいは商船にカモフラージュした海賊船なのかもしれない。
アーネット隊長がオレの尻辺りを撫でてその感触を愉しみつつ、ナノの言葉に続けた。
「今さら言ってもどうにもならんぞ」
「そうだ。冒険者として俺達が発見して、管理するんだからな」
オレの背中に跨がったガンクが言う。だいぶ回復してきたようで、安心だ。
一時はガンクがゾンビ化しちゃったらどうしようかと思ったからな。
涎を垂らしながら、「ア~」って襲ってきたら、ナノも度肝抜かれてビックリするよ。
無人の港を探索するオレ達。
奥まった角地には二つの牢屋があった。その一つの中には白骨化した数体の遺体があった。衣服から全員が女と判る。海賊に囚われそのままこの牢屋に残されてしまった可哀想な女性達なのだろう。
もう一つには恐らく男だと判る白骨化した遺体が横たわっていた。捕虜が着させられるようなぼろきれを纏っていた。
オレは牢屋の外から臭いを嗅いでみたけれど、その臭いまで風化してしまっているように長い年月が経過しているようだ。
「この遺体が、もしかすると観光地デスピアークを興そうと計画した商人だったかもしれんな」
横でそう溢したのはアーネット隊長だ。
重なるように白骨化した遺体達にしたように同じく厳かに合掌し、アーネット隊長は目を閉じた。
イルマと共に船内を調べていたナノが船から降りてきた。
「でもさー、なんか肩透かしっていうか。すんなりお宝くすねちゃったじゃない。楽勝過ぎないかな。
普通はこういう場所には宝を守る番人とかがお決まりの様にいるもんでしょ。奇妙じゃない?」
「うむ、確かに普通はな。
しかし俺達は宝の在る側から侵入したからな。つまり、逆に言えばここから出る際に海賊の財宝を守護する番人と一戦交えることになるのかもな」
「何言ってんのよ。わざわざここから先に進むことないじゃないの。来た道を引き返せばいいでしょ。
アイテムはもう十分よね?」
「ああ」
イルマは船内で希少価値の高い道具を多数アイテム袋に納めることが出来たようだ。その顔はさらに血色がよろしくなっている。
作戦会議室だと思われる場所で広域の海図等を入手し、海賊の港を立ち去ろうとしたのだけれど、オレ達がこの港へ侵入するのに通って来た財宝の保管場所に繋がる入口の、その鉄板の蓋は閉じられていた。
「なぜ蓋が閉じているのだ。殿はナノだったか?」
「アタシじゃないよ。
確か、最後に上へあがったのはランドちゃんよね?」
オレが最後にガンクを乗せたまま上がったけれど、蓋は閉じてないぞ。
扉を開けるねこはいても、開けた扉を閉じる行儀の良いねこはなかなかいないよね。
鉄板の蓋は地面にかっちりと嵌め込まれてしまっている。
間違いなくこの蓋を開いて下から侵入した筈だった。
「海賊が隠した財宝を保管している場所だ。不用意にこじ開けるのはよした方がいいぞ」
アーネット隊長の慎重論にイルマが頷き、蓋に手を翳した。
【探索魔法】で蓋の開け方まで解るのかな。
ーーしかし!
唐突に鳴り渡る警報音。天井の照明魔道具が明滅を繰り返し始めた。
「クッ、どういうことだ?」
「イルマ、あんた何やってんのよ!?」
ナノ……、イルマを責めないでやってくれよ。
どうやらイルマの魔力に反応してセキュリティーが作動してしまったようだ。
全員が周囲を激しく見渡しながら警戒感を高める。
「チィ、不味いな。どうにか元に戻せんか」
「それが出来ればとうにやっている!」
「言い争いしてる場合?」
アーネット隊長がイルマを揺さぶりナノが間に入る構図だ。
こんな時に、いつもとは逆にガンクだけ冷静な様子だ。オレの背中の上で腕組みしながらじっと辺りをつぶさに観察している。
なんか調子が狂うな。
ーーあっ!
大型船が停まっている向こう側の壁が開いていく。
そして……。
「イヤァ、なんか走って来てるよ」
「全員戦闘体勢をとれ!」
「アレが宝の番人ってか」
大型船の向こう側の開いた壁の内側から飛び出し、防波堤の上を滑るように高速移動してくるそいつはどう見ても人でも魔物でもない様子だ。
ロボットか?
アーネット隊長が叫んだ。
「バカな!
アレは……、魔導ロボットだ!」




