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82.金銀財宝

「ふんっ、ふんっ、ふんっ……」


 耳障りな音を聞きながら、オレ達は簡単な朝食をとった。


 それにしてもだ、とアーネット隊長を眺める。


 自身のアイテム袋から引っ張り出した専用のマットを洞窟の地面に広げて、アーネット隊長は朝の日課だという筋トレを繰り返していた。


 よくやるよなぁ。


 彼女はイルマとナノにもしきりに勧めていたけれど、二人から丁重にお断りを受けて、一人きりで使うにはやや大きなマットの上で様々な器具を用いながら筋肉を刺激し続けている。


 そんなにトレーニングしたら逆に疲れちゃいそうだけど、とも思うけれどな。

 でもオレも他人のことは言えず、どちらかと言えば活動的な朝を過ごしたい派なのだ。

 それはオレを鍛えてくれたマズマ師匠のせいでなのだけど。


 冷めてしまった朝食をゆっくりとり、アーネット隊長の朝の準備も整ったところでオレ達は行動を開始したのだった。







 洞窟の道は分岐の無いひたすらな一本道だったけれど、それが唐突に道は途絶えてしまった。


 イルマが【探索魔法】を使い検分を始めた。

 洞窟の壁の周囲を叩き調べている。


「なんだよ、何も無いのか。ここまで来てつまらんな」

「アンタちょっと待ってなさいよ。

 今イルマが調べてんだから。今にも金銀財宝の一つや二つくらいドバーッと見付けちゃうんだから」


 ナノとアーネット隊長が睨み合う。


 大型化したオレの背中の上で、「ナノがまたおかしなこと言ってるな」とガンクが小さく笑った。


 ガンクはネクロマウスのせいで、まだしばらくは本調子にならない様でぐったりしたままなのだ。ガンクを気遣って毛に弾力を持たせているから、オレの背中はフカフカで、横になっていればさぞかし心地好いことだろう。


「……ふむ。

 この箇所が周りと比べ音が逸脱しているな」

「分かった?」

「あったのか? どけ!」


 ナノとイルマを弾き飛ばしてアーネット隊長がその問題の箇所を叩いた。彼女の顔は訳知り顔になっている。


「ほう。確かに、怪しいのはここしかないな」

「……」

「……、だろう」


 ナノは膨れ、もはやイルマも呆れ顔だ。


 ハァッ、と言う掛け声とともにアーネット隊長がイルマが怪しいと主張した壁へ正拳突きを放った。

 彼女が攻撃するところを見るのは初めてだけれど、それは結構な威力のようだ。


 壁が激しく砕けて剥がれ落ちた。一瞬全体が崩落するんじゃないかとヒヤッとしたけれど。


 中から現れたのは……。

 なんと本当に金銀財宝だった。


 それは、厚みのある洞窟の岩盤に隔てられた地下空洞の部屋に、それこそ山のようにうず高く積み上げられてあった。イルマの持ったランタンの光を反射して眩しく輝いている。


「おいおいマジかよ、凄いことになってるな。これ私たちの物でいいんだろ。やったな、大金持ちになれるな」

「きゃー、やったやった! いっぱい服買って美味しいもの食べてたくさん贅沢出来る♪」


 アーネット隊長とナノは興奮している。そこにイルマが冷静な調子で二人を静止させた。


「待て、下手に触れるな!

 呪いでも掛けられていても知らんぞ。逸るな、検分が先だ。後ろで待機していろ」

「お前、そう言って独り占めしようって魂胆じゃ無いだろうな」

「イルマ、だめよ。独占は、めっ!」


 女二人を無視しながら、今度は【感知魔法】を使って目の前のお宝を調べていくイルマだ。


 ガンクも背中で、「へへへ」と喜びを噛み締めているようだ。







 汗を額に滲ませながらしばらくの間懸命に調査を行っていたイルマは、一言「問題無さそうだ」と呟いた。


 アーネット隊長の一撃で開けられた壁の内側に入ると、眩しさに目も眩むほどの圧倒的な程の金銀財宝の量があり気がおかしくなりそうだった。


 これだけあればどれ程の美味しい最高の魚が食べられることやら。


 オレは焼き魚に刺身に蒸し貝にと、多種多様な魚介料理に埋もれた想像をして涎が止まらなくなってしまった。


「あぁ痛い。目が眩しくて心もなんだか苦しいの。どうやってこんな巨額のお金を使えばいいの。これがお金持ちの苦しみなの?」


 ナノが金貨を手で掬い上げてバラバラと零れ落として身悶えしている。


 アーネット隊長なんかはもっと悲惨だ。


「げへへへ。この財宝で私は第一番街の都市警備隊隊長へ昇格間違いないぞ。いや、都市警備隊統括隊長まで昇進出来るかもな」


 気持ちは分からなくもないけれど、金の力を使って昇格っていうのは少し醜くないかな。


 金塊は勿論のこと、宝石をあしらった武具に鎧兜や甲冑も転がっていれば、宝石を散りばめた宝箱に王様や王妃が身に付けているような王冠や衣服に、錨を模したような黄金のオブジェなんかもある。


 うーん……、これが金の匂いか。


 オレは黄金色の幻想的な景色に埋もれながら鼻をひくひくさせてその匂いを楽しんだ。


 まばゆい煌めきを放つ金銀財宝を仕方無くも踏み締めて歩くという贅沢な歩行をしながら、大きな宝箱に辿り着いた。


 皆気がおかしくならないか心配になってきたぞ。


 イルマが見るも眩しい宝石だらけの宝箱に手を置いた。


「むぅ、これでは、気を保つのも困難だな。

 皆、気を確かにしろ。頼むから動転などしてくれるなよ」


 ナノもアーネット隊長も時既に遅しという具合だ。変な呪いにでも掛かってしまったようになっているぞ。


 ナノは金銀財宝の上を転がり回り奇妙な表情になってしまっている。狂喜乱舞というやつだ。

 アーネット隊長なんかは服を脱ぎ捨てて、まるで風呂でも浸かるように金貨に沈み混んで肌を金塊で拭っている。


 何やってんだか。


 女二人の様子に溜め息を漏らしながら、イルマが宝箱を開けた。そして目を見張っている具合だ。


 気になったオレはガンクを金貨の絨毯に寝かせて、イルマに近寄った。


 イルマが宝箱を開いたということは、特に怪しげで危ない呪術的な罠は無いはずだ。


 見ると、宝箱に入っていたのは剣だった。

 それは実用的というより、装飾が多く飾り物や祭儀用というような剣だ。柄の部分に見るも見事な青い龍の装飾が施されている。


「ほぉ、それはなかなかヤバイ代物だぞ」


 歩き寄ったアーネット隊長が胸をさらけ出したままでイルマの掲げた剣を見て言い放つ。


「帝国の皇帝の私物ではないか?

 もしくは、献上物かもな」

「何故分かる」

「はぁ?

 お前知らねーのか。その青い龍見りゃあ一目瞭然だろ。

 帝国の皇帝は青龍だ。お前らが倒した玄武と同じ霊獣と言われる。有名な話だぞ」


 驚愕の表情のイルマだ。

 アーネット隊長は推理を始めた。


「この金銀財宝の様子とその剣……、もしかしたらここは海賊のアジトか財宝の隠し場所か」

「ふぅむ、海賊か」

「しかし、帝国が本腰を入れて海賊を掃討したのは随分前だぞ。私が産まれる遥か昔の話だ」


 アーネット隊長の話によれば、その昔帝国領と港町サカネや魚宿場町サーモアン,船町ミョウビシに甚大な被害をもたらし海賊が大活躍していた時期があったそうだ。


 しかしある時に帝国側の一つの船を襲い、皇帝に献上される予定だった品物を略奪したことがきっかけで、帝国皇帝の逆鱗に触れてしまったという。そして海を広範囲に荒らし回り私腹を肥やしていた海賊はこの時を境に徹底的に滅ぼされたそうだ。


 その献上予定だった品って、この剣のこと?

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