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77.メールプマイン第三番街スラム地区治安維持活動

「青い海、灼熱の太陽、岩に当たって砕ける波涛、それに露天温泉、最高じゃない!

 これよ、これを待ってたのよアタシは!」


 駆けていくナノを追って崖の手前で急停止した。


 あぁっ!


 ナノが崖から落ちたぞ……。







 数ヵ月前ーー。


 犯罪組織『光夜烏』に引導を渡し、無事に組織解体まで成功させたオレ達ガンク組。


 魔物の悪質な商取引を行っていた点では、確かに『光夜烏』は詐欺的な利益を得ていたことになるのかもしれない。


 だけど、それを悪徳企業かと聞かれれば、必ずしもそうは言えないような組織だったようにオレは思う。


 その後都市警備隊が詳しく調査して分かったもので、強盗や窃盗に恐喝といった軽犯罪が組織的な体質として半日常的に行われていたようだ。


 かといって、麻薬密売に関わっていたり、敵対勢力を滅ぼすのに殺人とまで手を染めたりはしない、そういう組織だった。

 依頼書にあった対象級も『C』と記されていたしな。元からそれほど危険極まりない組織じゃないということだったんだろう。




 それから『光夜烏』の組織壊滅に貢献した結果として、ギルドを通じて褒賞金を頂いたオレ達は、メールプマイン都市警備隊に逆に目を付けられてしまったカタチとなった。


 元々メールプマインの第三番街区域は治安のあまり良くない地域で、少数の武装勢力が乱立した小競り合いが絶えない抗争区域という場所だ。


 建ち並ぶ工場群に新興住宅地とメールプマインを覆う外壁の縁に溢れるように形成された非常に危険なスラム街がある。それが三番街の表と裏の顔だ。


 目視可能と不可の地下闘争が乱発するような、小規模の紛争が勃発しているスラム街に都市警備隊が間に入って、なんとか拮抗状態と言える程度なのだ。


 しかし、至るところで小規模なゲリラ戦が展開されている。


 第三番街区域都市警備隊隊長アーネットガーネットさんに目を付けられた(都合の良い実動特攻要員として命じられた)オレ達が、のさばっているいかにも悪い奴らを順次駆逐しブタ箱に収めていく要望を受けることになった。


 スラム街を跋扈している彼らは一様に、肩にトゲトゲを付けていたり、鼻や唇や舌やおへそに乳首までに

も輪っかをぶら下げていたりするような奴らだった。


 世紀末臭がぷんぷんするような見た目だ。


 他には、大砲を組み込み車輪にもトゲを付けた魔改造を施した馬車を駆っていたり、スカルワイルドドッグといった力は弱いけれど見た目的に怖い魔物をペットにしていたり。

 そんな奴らが主に縄張り争いで毎日血を流し命も流し落としているのが現状だ。


 特に対外的に人相が悪く、暴力と金と女などの欲望全般を行動指針の最上位に置くような奴らに、オレ達はちょこちょこと抗争をけしかけていった。


 そして、ギルドへの事後依頼達成という逆方式でその成果を積み上げていったのだ。


 敵の実力は低いのに、こちらは殺しは御法度であちらは問答無用の無差別テロ染みた行為に出てくる分、はっきり言ってオレ達は何度か死にかけたこともある。緊張状態が続いた日にはおちおち寝れたもんじゃない夜もあった。


 けれど、数ヵ月に及ぶ命懸けの治安維持活動のおかげで、現在のメールプマイン第三番街の区域はとてもクリーンな街として様変わりしつつある。


 生傷の絶えない眠れぬ日々を乗り越えてやっと獲得した平和で安全なメールプマイン第三番街。その街作りにも貢献出来たオレ達ガンク組なのだ。


 メールプマイン第三都市警備隊隊長のアーネットガーネットさんはオレ達の決死の治安維持活動に満足そうに頷いて、「慰労だ、温泉でも浸かって来たらどうだ」と提案してくれた。


 その鶴の一声に即座に飛び付いたのは言うまでもない。







 そしてやって来たのだ、ここメールプマインの西の外れにある観光地デスピアークに。





「んー、風が気持ちいい。最高ね」

「本当だな」


 潮風を受けてオレの毛もさわさわとたなびく。気持ちいい。




 観光地デスピアーク。

 そこは通称“忘れられた希望の崖”と呼ばれる場所らしい。


 昔、メールプマインの商人の一人がこの地に一大リゾート施設を建設しようとしたけども、計画が初期段階で頓挫してしまったまま、手付かずで残っている場所だ。


 間近に海を見ながら入浴出来る天然温泉もある場所なのだ。


 ガンクが背後を振り返り怨めしそうな顔でぼやいた。


「何であんたまで来てんだよ。隊長だろうが、都市警備隊はいいのかよ」

「私一人がいなくなった程度で回らなくなるほど腑抜けた部隊じゃないからな。それにお前達のおかげで仕事が暇になった。少しくらいは構わんだろう」


 メールプマイン第三番街警備隊隊長アーネットガーネットさんが言う。

彼女の出で立ちは完全に休日の、しかもリゾートファッションだ。サングラスに麦わら帽子、さらには浮き輪まで腰に抱えてしまっている。


「久しぶりに訪れたが、何も変わらないな。

 にしても、お前達の姿はなんだ、慰労だと言った筈だが?

 こんなリゾート地まで来て武装して何が目的なのだ、けしからん」

「いつ如何なる際も注意を怠らぬ事がだな……」


 あ、イルマが浮き輪で叩かれた。


「そうよ、リゾートど素人ども!

 観光気分を漫喫するにはまずはファッションからよ」


 アーネットガーネットさんと同じく浮き輪を装備したナノがニヤリと笑う。


 いいなぁ、浮き輪!


「そうだぞナノ、その通りだ。

 一番乗りを許す。崖から飛び降りろ!」

「え、でも、大丈夫?」


 オレ達の目の前には切り立った高い崖がある。軽く20メートルはありそうだ。覗くと真下は海のようだけど。


「案ずるな。水深は深い。

 浮き輪もあるから死ぬ事は無いぞ。スリリングな爽快感を堪能してこい!」


 そして冒頭に戻るのだ。

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