75.オレの反省
……う……。
眠らされていたみたいだ。
身体を拘束している網を器用に動かして被された布の端まで辿り着き外へ目をやった。
被された布の外では立食形式のパーティーが行われていた。色とりどりの作業着を着た男女が楽しそうに、幸せそうに飲んだり食べたりしている。
オレも腹減ったなぁ。
でもこうしてみると、悪い奴らには見えないや。みんな笑顔でいる。
……でも勉強になったな。
オレの全力を使えば、ここにいる作業着連中なんか全員ものの数秒か、長くても数分で皆殺しに出来ると思う。
だけど、力があるだけじゃ、それだけじゃ駄目なんだな。
魔力を込めれば込めるほどその魔力を吸い取ってしまう網か。
それに、睡眠効果のある布。
力で劣る人間が特殊効果の高いアイテムを駆使して、強い魔物をこうやってしとめるんだな。
事実、眠っちゃったからな。殺されていてもおかしくないや。
いくら強敵を倒して力が強くなっても慢心してたら負けちゃうんだな。気を付けないと。
反省して、オレは大声で鳴いた。
だいぶ遅くなっちゃった。がやがやと騒がしいから外まで聞こえてくれるといいんだけど。
「ほう、こんなに早く目覚めるとは。凄まじい生命があるな」
「さすがは霊獣玄武討伐パーティのペットってとこかしらね」
カルクスとシャミラスがオレの鳴き声に気付いてこちらへやってきた。
シャミラスはアルコールの上気で頬をほんのり染めて腕をカルクスの腕に絡ませている。
できてんのかな。
「やはり普通のねこではない様ですね。サーミラス様,ユウリス様は眷属化をご所望ですが、ワタクシもシャミラスお嬢様と同じく殺した方が得策かとぞんじます」
「光粉はまだあったかしら」
「現在切らしております。なので牢へ入れておきましょう」
なんだ、光粉って。
それに早くガンク達気付いてくれよ。オレ閉じ込められちゃうよ。
カルクスがオレに触れようと手を伸ばしたその時だ。
轟音を立てて倉庫の鉄製の巨大な正面扉が内側に倒れた。そしてそれだけじゃ足りないように扉の回りが次々に破壊されていく。
建物内にいる者全員が動きを止めて、何事だと呆然と眺めている。中に入ろうとしていたのは巨大な人型の岩人形だった。
あれは、ゴーレム?
「ランドちゃんいる~?」
「ナノ、まだもう少しサイズを小さくするか建物削らねーとゴーレムが中に入れねぇ」
「うっさいな、加減がなかなか難しいのよ」
悲鳴が沸き起こるなか、ズシン、ズシン、と倉庫の中にゴーレムが浸入してきた。
おや、ガンクがゴーレムの肩に腰掛けているぞ。
「いてっ、痛ぁ。
ナノ、破片が刺さったぞ。しっかり操縦してくれよ」
「だから、それはゴーレムに乗るからでしょ」
「その方が格好いい登場になると思ったんだよ。いってぇ!」
格好いいどころか少し残念な登場になってるけれどな。
ナノがオレの姿を発見したようだ。手を振りゴーレムに命じるとオレへ向かってゴーレムは大きな足音と振動を響かせて歩行を開始した。
「止まりなさい!」
階段を急ぎ足で降りて来たのはサーミラスだ。
「言いたいことは山のように有りますが、まずはどちら様で、何のご用ですか?」
「俺はガンクだ。ランドと俺の剣とアイテム袋を返してもらいにきた」
「はて、何のことでしょう。それに、ランドとは?」
「そこで網の中に捕まっているオレの仲間だ」
ガンクがゴーレムから飛び降りた。
「貴方がですか。噂には聞いていますよ。
しかし、私達が得た物を返せとは、些か不躾な要求に聞こえますが」
「あんた達が俺達から奪ったんだろうが」
「失礼な。証拠でもあるのですか」
「そ、それは……」
「確たる証拠も無くよく言えますね。大変無礼ですよ。
しかし、例えば仮に貴方が不注意で手元から失われ去った物を私達が拾い得たならば、それはもはや私達のもの。違いますか」
「ふざけんな!」
ガンク、ここは注意して、慎重にな。簡単に言いくるめられるなよ。
サーミラスはガウンの開いた体の前を、横の帯紐をきつく結び直して手で髪を後ろへ弾いた。戦闘体勢を立て直すみたいに。
ガンクの方は怒りで小刻みに拳を震わせている。
「失礼ですが、貴方は重罪を犯しています。不法浸入に器物破損。ここにいる数多の目が証言してくれましょう。逃れようがありません。
証拠も無く私達が奪ったなどという物言い、名誉毀損も付け加えないといけませんね」
「くっ、じゃあランドを何故捕らえた? 後ろめたい事して、それが見付かったからだろうが」
「それは、あのねこが魔物だと勘違いしてしまったからです。貴方がたのペットだとは露知らず。その点は謝罪致しましょう」
とても大きなため息をつきながらナノが言う。
「ランドちゃんはペットじゃなくて仲間だよ」
「そうでしたか。いきなり襲いかかって来たもので、捕獲しましたが、それは申し訳ございませんでした。しっかりとお引き渡し致します」
オレは網から出されてガンクの元に戻った。
けれども、確かに証拠も無いな。さて、どうしたもんかな。
ガンクとナノ、それに動かぬゴーレムを見つめ、サーミラスが優雅な口調で続けた。
「ではお引き取り願えませんか。今なら警備隊への通報はせずにおきましょう。お仲間も戻ったことですし、もう十分でしょう?」
引き下がるなよ、ガンク!
「そうは行かねぇ、まだ剣もアイテム袋も取り戻してねぇ」
「しつこいですね。本当に通報しますよ。」
「だからアタシ言ったじゃない。皆殺しにしちゃった方が楽だって」
あーあ、やっぱり交渉事はイルマがいないとダメかな。
もう一度ため息を漏らしながら、ナノがガンクを揺さぶった。ガンクは思案しながらも認めてしまいそうな気配だ。
「その必要は無い」
いつのまにか階段を上がり二階の奥の部屋に隠れていたのか、シャミラスの腕を掴んでイルマが現れた。
そのもう片方の手にはガンクの剣が握られている。
待ってたぞ、イルマ!
最近煮詰まり気味。
上手く書けないもどかしさ、思ったまま書いてしまってどう話を転がせばいいのか分からなくなってきました……。




