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72.メールプマイン三番街区域倉庫群

 三番街区域に入ると、そこでイルマと別れた。イルマは都市警備隊所へ顔を出すという。


 現在の状況報告とともに応援部隊を派遣してもらえるなら、応援協力要請を出すそうだ。


 オレ達は現在、自分で言うのはなんだけど、その実力もあれば、冒険者級もパーティ級は『B』で、世間では上級の冒険者の位置に部類される。


 凄いでしょ。オレはまだ『C』だけどね。


 イルマの話では、上級冒険者は都市警備隊を介したり彼らに従属したりしなくてもよく、自らの判断で対処したとしても、さほどの問題は無いらしい。


 けれど、オレ達だけで組織壊滅へと踏み込むとなると、それには心許ない理由が出てくるのだ。


 第一に、相手が人間であるためだ。


 当然のことだけど、魔物と違ってちゃきちゃき殺して掃討してしまうことは許されない。


 そりゃあ、ナノの言う通りに何も考えずに皆殺しにしてしまえば多少はラクなのは事実だけれどさ。


 でもそんなことをしてしまえば、今度はオレ達の方が犯罪者になってしまう。


 嫌だよ。お尋ね者だなんて。


 第二に、ギルドからの依頼を承った格好をとってしまったからだ。


 そうなると、しっかりと依頼元である都市警備隊へ、俗に言うホウレンソウ、つまり「報告・連絡・相談」をした方が都合がいい。


 それどころか、最悪ホウレンソウ無しだと怒られてしまったり報酬金も支給されなくなってしまう。


 ボランティアで冒険者やってんじゃないからな、今はガンク組の懐は潤ってる状況だけれど。


 でもガンクの装備がもし戻ってこなければご破算だ。


 今回はガンクが掏られた装備を取り戻す事が至上の命題だけれど、やっぱりお金くれるなら欲しいから、制度や要望には従った方がいいのだ。


 ガンクも焦っていることだし、早く剣もアイテム袋も取り戻したいけれどね。お互いの為にも。





 というわけで、イルマは別行動を取り、ガンクとナノの二人と一匹で、犯罪組織『光夜烏』の本拠地に踏み込むことになった。


 ガンクは臨時の武器として落ちていた鉄パイプを握り締めているけど、大丈夫かな。

 ちょっと頼りなくない?




 作戦では、まずオレが無害なねこを装って忍び込む。そして、ガンクとナノは倉庫の二階もしくは屋根から潜入する。

 そんなざっくりとしたものが今回立てたイルマの作戦だ。


 本当に『光夜烏』という組織がこの倉庫にいるのかどうかも分からない、掏り犯だという確証も無い、そんなあやふやな状況でもあるからな。


 なので、倉庫の中へ忍び入ったオレがしっかりとガンクの剣とアイテム袋がその場にあるということを確認すること。あるいは、青髪の女か、仮面を付けていたチビとヒョロ長の男を取り調べること。


 それだけのことをイルマから、「頼むぞ、周到に見極めろよ」とオレは言付かっていた。


 オレも決して他人の事言えた義理じゃないけれど、ガンクもナノも突っ走ったり、身勝手で思いきった行動に出ちゃうからな。




 オレ達が出店通りの路地裏で緊縛した男が口を割ったその場所は、倉庫群が地図上の広い空白地帯を埋めるように建ち並んだ場所だった。


 呆けながらガンクが呟いた。


「これ全部なのかよ」

「どうすんの、一棟ずつ調べていったら日が暮れちゃうよ」

「でもどれが『光夜烏』のアジトか分かんねーし」

「うーん……、ここはとりあえず、ランドちゃんの鼻に期待かな。パパッと見付けてもらって、早く解決して帰ろうよ」


 だから、オレはねこだよ?


 犬が捜索するみたいに期待しないでくれな。


 でもナノの言う通りだ。掏りの犯人くらいさっさと見付けて、オレだって早くいっぱいご飯食べてゆっくり寝たい。





 それにしても、街に着く度に初めて見る物ばかりだけど、この倉庫の群れもまた凄いや。


 倉庫は物をしまう場所だろうけど、こんなに倉庫を建てて一体、何を保管しているんだろう。


 両脇に倉庫が並んだ通りをオレは改めてよく眺めながら歩いていった。


 浪板が貼られた石造りの倉庫は整然と無機質な気配で並んでいる。倉庫正面には馬車が並んで二台同時通行出来そうな程の大きな門扉がどれも閉じた状態で、それぞれ数字がふられていた。その天井は山型になった造りで、遠くから見ると連なった屋根はジグザクしている。


 扉の横には丸太や木の廃材、煉瓦や朽ちた彫像なんかも置いてある倉庫もあった。

 一つ一つ注意しながら臭いを嗅いでいく。


 うーん、よく分からん。木は木の臭いだし、煉瓦は石の臭いだな。

 犬やねこの糞尿の臭いも無い。この辺りには野良はいないのかな。


 風雨や何かに接触した衝撃によって所々傷んでしまった部分もあった。でもほぼ同じ建物が対面して建ち、それが視界の奥の方までずっと伸びている。


 辺りの人気は皆無で気味が悪くてしょうがない。


 ……ここはダンジョンか何かか?


 そんな事を思いながらゆっくりゆっくり進んでいく。


 夕陽が射して赤く照されて、寂し気で薄気味悪い印象を受ける。メールプマインの賑わった街並みが嘘のように、ここは寒気がするくらい静かな場所なのだ。


 ふと、後ろの方で物陰に隠れているナノがぼやいた。


「なんか怖いね、ここ」

「そうかな」


 その横で同じくしゃがんで隠れた姿のガンクはそうでも無さそうな雰囲気だ。


 オレはイルマから指示を受けた作戦通り、続けて倉庫の前を、耳と目鼻に神経を集中させて徘徊していった。





 倉庫一つずつ慎重に探っていく。後ろからガンクとナノがオレを尾行するようについてきている。


 ……だんだん、気怠くなってきちゃったな。


 困ったな。物音がする倉庫もあるけど、扉は固く閉ざされているし、耳だけじゃなかなか判断は難しいや。


 オレは怪しく感じた倉庫を何棟か記憶しながら進んでいく。


 ん、これは……。青髪の女の香水の残り香がオレの鼻を捉えた。

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