69.メールプマインの冒険者ギルドにて
宿場街まで来ると、別の用事があるから、とレームスさんとはお礼を言ってここで別れた。
レームスさんを見送った後で、オレ達は近くの飲食店に入って遅い夕食をとることにした。
比較的空いていた店内は美味しそうな匂いが充満していて空腹のオレは涎が止まらなくなりそうだ。芳しい焼き魚に魚の出汁の匂いがまた堪んない。自然と身体が跳び跳ねてしまう。
「おい、ランド落ち着け」
そうは言っても! 腹減ってしょうがないんだから。
注文して出てきた料理にがっつきながら、みんなで今後の予定を立てた。
メールプマインでは取り立てて目ぼしい目的はオレ達には無いので、まず冒険者らしく久しく訪れていないギルドへ向かうことにするそうだ。
メールプマインにはギルドの支部がある。冒険者ギルドに顔を出して冒険者証の情報更新と受付中の依頼内容の確認と、その他に街の情報収集が明日の主な行動指針だ。
資金的には余裕があるから、片っ端から依頼書に目を走らせて是が非でも依頼達成を目指す必要は無い。
ドウォルフでは借金を作ってしまって心狭い思いを味わったけれど、金持ちになると気が楽でいいのだ。
後は装備の補充に、観光もちょっとくらいはしておきたいところだという話になってきた。
「のんびり出来そうだし、何か面白い場所無いかな」
「アタシ温泉入りたーい」
「ふむ、探してみるのも一興かもな」
珍しくイルマもナノやガンクの意見に同調した。余裕があると人は変わるということだな。
観光のついでにガロットさんの師匠であるクーレントさんのお店を覗いてみる案をガンクが出した。
「しかし、武器も防具も間に合っている。ドウォルフでも揃えたしな。目移りするなよ、消耗部品の補充程度で留めるぞ。
分かっていると思うが、出来の良い品を購入すればまたあっという間に困窮することになりかねん」
「まぁいいじゃねーか。堅い話抜きにして、話程度に寄るだけだよ」
ガロットさんはメールプマインを出てから一回もこの街に戻った事が無いそうだし、もしかしたらクーレントさんもガロットさんの事を心配に感じているかもしれないしな。
そういうことなら、とイルマも納得したようだ、
ガンクに向かってナノが言う。
「それにしてもガラの悪い連中も多いみたいだし、獣人族だっけ、揉め事の種もいっぱいよね。気を付けるのよ」
「オレに言うかよ、ナノに言われるのは心外だなー」
「はぁ? トラブルメイカーは大体がガンクでしょ」
仲裁するイルマを加えて三人で言い合いが始まってしまった。
オレは放っておいて、珍しい木の実の入ったデザートを堪能していた。甘くて舌にとろけて滅茶苦茶これ美味しい。
翌朝、冒険者ギルドに向かった。
ハストランにあるギルドと同じように石造りで質素な見た目で堅固そうな2階建ての建物だけど、その広さも出入りしている人の数もまるで違っていた。絶え間無く人の出入りが繰り返されているようだ。
さらにギルドに通じるその通りには露店街があり沢山の出店が並んでいた。遅い朝の時間のせいか閉まっている店もちらほらあるけれど、通りを歩くだけで涎が出る。魚介や鳥を焼いた匂いに誘惑されそうになる。
宿で腹一杯朝食を食べていなかったら大変なことになっていたに違いない。
きっと依頼を受けた冒険者達がこの出店で簡単な軽食をとったり携行食として買って行ったりしながら外へと出発するんだろう。
開けっ放しのギルドの扉から中に入っていく。中は賑わい、言い合いをしている者達や掲示板に目を釘付けている者達もいれば、座って紙を眺めたり真剣な顔で書類に書き込んでいたり目を瞑り考え事をしている者も多くいる。要するに様々だ。
中に入るとまず目を引くのは正面の受付カウンターだ。冒険者だと解りやすいくらいに体格の良い男達や重装備の男達が職員とやり取りしている。その場所が冒険者用の受付カウンターだと分かる。
ブース毎に区切られたカウンターが幾つも並んでいて、そこが右側で左側にも同じようなカウンターが並んでいる。そちらはきっと商業ギルドだろうな。
空いている窓口の列に並び、待っているとやがて順番が来た。
「おはようございます。ようこそ、冒険者ギルドメールプマイン支部へ。本日はどのようなご用件ですか?」
「冒険者証の更新と、何か依頼があればと思ってるけど」
ギルドの職員は地味という言葉がぴったりと当てはまりそうな黒髪を後ろで纏めた銀縁眼鏡をかけた中年のおばさんだ。ガンクが代表して全員分の冒険者証を出した。
「畏まりました。しばらくお待ちくださいませ」
眼鏡おばさんが全員分の冒険者証を水晶玉に挿入した。
「ガンク組の皆さまですね。代表者はガンク様。構成員はイルマ様,ナノ様,それにランド様の計四名、それでお間違いありませんね」
ガンクが頷く。
「では情報更新を致しますので、血の承認をお願いします」
眼鏡おばさんは一度冒険者証を水晶玉から引き戻すと、裏側に向けてカウンターの上に並べた。
ここで言う血の承認とは、承認と認証を指している。
冒険者が自身の血判を冒険者証へ押印したものをギルドカウンターにある水晶玉に入れることで、冒険者が前回の情報更新時からとってきた行動がその血から情報を引き出されて冒険者証に上書きされるということらしい。
冒険者証と自身の血で二重チェックをかけているために嘘を付いて情報の上書き更新をしようとしても絶対に出来ず、ギルド職員に見抜かれしまうのだ。
唸り声を上げたギルド職員の眼鏡おばさん。かけた眼鏡がキラリと光る。
「これは……、素晴らしいですね。霊獣玄武の討伐をされておりますね」
眼鏡おばさんのその言葉に周囲がざわっとした。所々から「噂は本当だったか」とか、「アイツらが?」とか、「嘘だろ」とか、驚きの声が聞こえて注目を集めてしまっているようだ。
大丈夫かなぁ、情報がダダ漏れしているんだけど。
何食わぬ顔をして眼鏡おばさんは続ける。
「規定により、皆さま全員の冒険者級を昇級致します。よろしいですね」
「そんな規定があるのか」
イルマも知らないギルドの規定のようだ。
「はい。よろしいでしょうか?
もし異議申し立てがある場合は仰って頂けましたら猶予期間を設ける事が可能です」
「いや、構わん。昇級してくれ」
何だよ異議申し立てって、それに猶予期間って。
イルマの言葉に眼鏡おばさんはかけた眼鏡のブリッジを人差し指で押し上げて、「畏まりました」と告げた。そして水晶玉の表面を両手の指で激しく叩き始めた。
それからしばらく待っていると、オレ達に情報を更新した冒険者証が戻ってきた。
「どうぞ、ご確認ください」
眼鏡おばさんの言葉を受けて、オレはナノがその手の平に受け取ったオレの冒険者証を眺めて内容を確認した。
『
本名 :『ランド』
冒/商 :冒険者
級 :C
所属 :ガンク組
登録地 :ハストラン支部
身分 :ねこ
役職 :ねこ
特性 :【ねこ魔法(身体強化,硬質化,物質操作,物質変換:統合項目)】,【ねこ魔法(創造支配)】,【転生者】
』
特性欄のバラバラに記載されていた魔法が一つの【ねこ魔法】へ統合されるようだ。
【転生者】は変わらずにあるんだな。相変わらず思い出せないんだけどなぁ。




