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64.祝賀会

 バージョンアップしたというナノの杖も揃い、明日ドウォルフを出立する予定のオレ達。既に一杯ひっかけて頬を染めているガロットさんとイルマに先導されて、その夜ドウォルフの中心街へと足を運んだ。


 ガンクやナノはもちろん、ミューネさんにチューリットちゃんまでもが同行している。


 二人は他所行きのようなお洒落な格好だ。ミューネさんは黒を基調とした上品なドレスで、チューリットちゃんの方は女の子らしい薄桃色のワンピースに袖を通している。ガロットさんだけは普段と何ら変わらぬ武骨なファッションだけどいいのかな。


 大きな洞窟の中の城の城門みたいに頑丈そうな門扉を抜けで上質なふかふか絨毯の上を歩いて進む。通路の周囲の岩壁には様々な彫刻や年季の入った調度品が並んでいて、オレ達は迷い混んだ子猫のようにキョロキョロそれらを眺め回してその隙間を縫って歩く。


「ここだ。

 これからドウォルフ長及び各行政の執行役の面々との会談だ。祝賀会とのことだが、一応は公の場での会談にあたるだろう。失礼の無いように願う」


 扉の前で立ち止まったイルマが勧告する。ガロットさんは先程までの酔いは綺麗さっぱり醒めてしまっているようだ。


 室内に入った。


 中は豪華絢爛とはいかないまでも、天井に架かった大きなシャンデリアと四方の壁の上品なランプが明るくかつ気品をもって照らし、大きな円卓にも燭台の炎と料理の数々が並んでいる。その円卓に扉と対極の位置には皺のお化けのようなドワーフの翁が座っていた、


 オレ達の姿を確認したドワーフ翁はにっこり微笑み立ち上がって、その周りを囲む七,八人のドワーフ達もすっくと立ち上がった。


「ようこそおいでくださった」


 両手を広げ翁が言う。皺の間に潜んだ目の耀きが強まった。あれがドウォルフ長だろうな、幾星霜ドワーフの街を守り治めた姿を想起させる。そのくぐもった声質からも尊厳や歴史深さが感じられた。


「オレがリーダーのガンクです。ご挨拶が遅くなったこと、申し訳ありませんでした。この度はお目通りが叶い、またお招きにあずかり光栄です」


 緊張した声でガンクが挨拶した。


「よろしい、よろしい。わしはこの街ドウォルフの長のドーバッドじゃ。

 見事な活躍はイルマくんから聞き及んでおるよ。

 今宵は祝いの席を設けさせて貰ったまで。料理が冷めてしまう前に早く着席なされよ。酒と共に語り合おうではないか」


 おそらくこれは宴なのだろう、やや堅苦しさを伴ってはいるけれど和やかに宴席は開かれた。


 用意された椅子に座り、こんがりと焼かれた肉や山菜にスープを眺めていると、隣席のドワーフが「食べないのか?」と怪訝そうに話しかけてきた。


 オレはさっきからおあずけしたままだ。ずっと食べるのを我慢して涎を飲み込んでいるんだけど!


 彼はナノの説明でやっと合点がついたようだ。


「ハッハッハ。これは失礼した。てっきり獸人族が獸化しているかと勘違いしておった。一向に手を付けないのは何かしら不満でも抱いているんじゃないかとな。

 ランド殿だったか、話は聞いているぞ」


 許されたようなのでテーブルに置かれた皿に口をつけていると、冷たい目から温かい眼差しまで様々だ。

 ……本当にいいんだよね。ねこだし、行儀悪く見られても、しょうがないよな。


 それにしても獸人族か。会ってみたいな。帝国領の方にその多くが暮らしているそうだけれど。


 見知った顔ではドウォルフ一番の剣豪であるゴーデスにドラウンガの姿もあった。


 数日前、ガンクは剣が仕上がると、ゴーデスを訪ねて稽古を申し込んでいた。仮にも霊獣玄武の討伐を果たした冒険者だ、多少調子付いていた風のガンクだったけれど、ゴーデスと肩を並べるまでの戦いを繰り広げてゴーデスを嘆息させていた。ガンクの方も悠長には構えていられない風体ではあったけれど。


 早くも顔を赤く染めたゴーデスが立ち上がる。


「ガンク!

 ドウォルフの防衛隊長として俺は一から鍛え直し、次は完全に薙ぎ倒すと宣言しよう」

「次こそ、その長く伸びた天狗鼻をへし折ってやるぜ」


 不敵な微笑みを見せ合い酒を溢れさせながら杯を傾ける二人。


「望むところだ、いつでも勝負を受けて立つ。

 貴様らの危機には、ドウォルフ防衛隊の総力をあげて助けに出てやるつもりだ。安心して危うきに近寄るがいいぞ」

「けっ、頼りにしといてやるよ」


 ガンクとゴーデスの手が結ばれた。言ってる言葉はどこか可笑しいけれど。


 イルマの方を見ると、ドーバッドさんと他二人の生真面目そうな顔をしたドワーフと話をしているようだ。


「先に提言した通り、神器は置いていってもらう。ドワーフ王が遺しドウォルフの象徴足るものだからな」

「その点については了承している。前にも話したつもりだが」

「ワイは玄武の魔核が欲しかったんけぇの」


 ドーバッドさんが宥めるように言う。


「フォッフォッ。そう言うてやるなスカングリ。霊獣玄武を鎮めた者達が獲るものぞ。ドワーフ王ガンドルフですら成し得なかった偉業をよくやってのけたものだ。

 ワシも百年前に一目この目で玄武の面を拝もうと坑道に潜り込んでの……」


 イルマはドーバッドさんの昔話に付き合う格好のようだな。


 神器『ファスガン』はドウォルフに預ける格好のようだ。折角の凄まじい武器だし勿体ない気もするけれど、イルマとガンクに聞いた話では霊獣玄武を倒したことで聖なる力は鎮まっているそうだ。


 あれ?


 ガロットさん達家族は黙々と食事に勤しんでいるようだけれど、ガロットさんが神妙な顔で何か話し掛けているな。


「クルゲルガ殿。俺は一度ドウォルフを離れた身だが、もう一度温かくこの街に迎え入れてくれまいか」

「いいぜ」


 骨付き肉を引きちぎりながら、この中で一番筋骨隆々のドワーフが答えた。それはえらく軽い調子だけど。


 ガロットさんがちらりと自分の家族を見る。


「オレはどうとでもやっていけるさ。しかし中々に風当たりが強い様子で、困っていてな」

「構わんって言ってんだろうがよ。

 ドウォルフは職人の街だ。迎え入れるも何も己の腕次第よ。それがあるならお前もお前の家族も上手くやっていける筈だ。もし邪魔する奴がいるってんならその時は言え。誰でもぶっちめてやるからな」


 ガロットさんもこの街では一度街を離れて行った分それが負い目に感じてしまって、例えそれが言葉や態度に表れなくとも肩身の狭い思いをしていたのかもしれない。


ガロットさん以上にミューネさんやチューリットちゃんはその影響を強く受けた筈だ。

 これで他所からの流れ者なんかじゃなく、この街で共に生活する仲間として上手くやっていけそうかな。良かったね。


 どこで調理しているのか、次から次へと料理は運ばれ途切れることなく酒も注ぎ足されていく。


 最初堅さを感じた宴席の雰囲気は和やかに緩んでいき、夕時の酒場と変わらない喧騒で満たされていった。


 泥酔したガンクとゴーデスが剣をぶつけ合い、それをヤジる者や賭博染みた事を始めて騒ぐ者達。

 口喧嘩を始めるガロットさんとその横で武器を作る意味というような哲学的な鍛治談義を始めたチューリットちゃんの間で、終始オロオロ困り顔のミューネさん。


 ナノの方も、酔ってしまって何故かドラウンガの膝の上に座っているけど、ドラウンガの方は髭を引っ張られたり頬を平手打ちされたり金を要求されていたりで、決して嬉しそうじゃない。それどころか迷惑そうだ。

 イルマはというと、ドーバッドさんとこれまた小難しい話で盛り上がりを見せているようだ。


 美味いご飯をたらふく食べて、酒も少しだけ嗜み、オレは寝ることにした。


 必死に止めようとしているミューネさんを振りほどいて、完全に酔ってしまったナノがドラウンガ相手に野球拳みたいな無意味なことを始めようとしている。


 そんな騒がしい風景を眺めながら、オレは重い瞼を閉じた。


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