63.霊獣玄武に勝利して獲たもの
微睡みの中でオレはゆっくりと目を開けた。
ここは、どこ……?
「あっ、ランドちゃんが起きたよ! ほら」
ナノ、それにチューリットちゃん?
目に涙を浮かべながら心配そうにオレの事を眺めるチューリットちゃんを呆けながら見ていると、横からナノが抱き付いてきた。
「ほらほら、目を覚ましたんだから。涙を拭いて。チューリットちゃんもランドちゃんに抱き付きなよ。もっふもふだよぉ」
ナノがオレの腹に顔を埋めた。少しナノは小さくなったのかな。オレの胴廻りと顔の比較が今までと少し違和感がある。
チューリットちゃんも控え目だけど、オレの背中に頬をくっ付けたようで温かい。
階段が悲鳴を上げるような木の軋み音をさせて勢いよく部屋の扉が開け放たれた。
無事だったんだね、元気みたいで安心したよ。
心を読み取ることが出来るチューリットちゃんは、オレのそんな想いに顔を振って答えた。
首を傾げると、「私が無理させて、目を覚まさなくなっちゃったらどうしようって……」と呟いた。
心配掛けちゃったな。
柔らかいチューリットちゃんの頬を舌で舐めてあげると、今度はビクッとせずに受け入れてくれたようだ。
「ランド! 起きたか!」
ドタドタと大きな足音を立てながら、扉を叩き開けて飛び掛かる勢いで突っ込んできたガンクをナノが足蹴にした。
「こら! 女の子の部屋にノックもせず飛び込んできちゃダメ」
そうか、ここはチューリットちゃんの部屋か。たぶんミューネさんが揃えた女の子っぽいレースのカーテンやベッドに小綺麗な室内の調度品の中で、武骨な剣や斧が目につく訳だ。
ナノとガンクは一日、オレは二日もの間も寝込み続けていたそうだ。
それだけ眠ったまま起きなければ、そりゃあ心配もしちゃうよね。イルマだけは起き続けて戦いの後始末をしていたという。タフだ。
話を聞けば、さすがイルマだ、と感じさせた。
事後の処理から救急処置に、霊獣玄武が遺してもたらした莫大な価値になる獲得物をドワーフ達と交渉したり、被害額の交渉や簡易的な示談などまで一手に引き受けて孤軍奮闘していたそうだ。
オレにしてみれば玄武と戦うよりもよっぽど悪戦苦闘しそうな難解な事柄ばかりだ。
詳細の全てはイルマの頭の中だけれど、作った借金を返し鉱石採掘地への水害や辺り一帯への甚大な被害とその被害額を差し引いても、我らがガンク組の財政が潤うに十二分な結果だということで、イルマは終始ホクホクした顔で行動していたそうな。
良かったな、無事に倒せて。
これでもし討伐出来ずに再び封印という結果になっていたり、討てずに退却して骨折り損のくたびれ儲けになっていたら、最悪死ぬまでこのドウォルフで無賃金労働を強いられていたかもしれない。
ちなみに、現在もイルマはドワーフの街ドウォルフの長達との重要な会談だか会議だかに出席しているそうだ。
そして、霊獣玄武との死闘の後、オレ達全員へ超高濃度の魔核分泌液が半ば治療薬代わりに分配された。
イルマ以外全員が意識不明の重体だったけれど、霊獣玄武の魔核分泌液を口に含ませたことで、オレ達全員の身体の傷は完全に癒え、大幅なレベルアップがなされたらしい。
しかも、オレの尻尾も元通り!
見よ、この漆黒のふさふさの尻尾を。
大幅なレベルアップ、つまりは筋力増強から始まり基礎体力に魔力に持久力も、全てが一律に飛躍的に増加した。
ガンクの行動を見ていれば疑問だけれど、おそらく脳の回転も早まり知力や記憶力なども以前とは全く違うはずだ。
オレもガンクも頭が良くなっているに違いない!
オレの身体は以前よりも二回りくらい大きくなって、今の通常サイズは黒豹みたいな身体になっている。魔力を使ってサイズダウンも更に大型化も可能な便利な身体なのだ。
ガンクの方も、童顔は変わらないまま腕も体つきも一回りほとでかくなって逞しく力強さを感じさせているし、何故隠すのか分からないけれど、ナノの方はグラマラスな肢体になって、覗いている首筋なんかは前より断然大人の女性として色気を放っている。
今までみんなが、ガキんちょ冒険者パーティと呼ばれたり見られたりしていたけれど、これなら貫禄十分出ているよね。
魔核分泌液に加えて、それぞれ全員が一つずつ小さく加工して分けた霊獣玄武の魔核を持っている。
ガンクは注文していた剣へ組み込むことで更なる強化をガロットさんにお願いした。ナノも、「俺には無理だ」と否定するガロットさんを見兼ねたイルマが、ドウォルフ長経由でドウォルフに在住する魔導鍛治師へ注文を取り付けて、ナノの杖に魔核を組み込む改造をしているそうだ。
やはり、魔物の中でも別格である霊獣玄武の魔核を武器へ付加させることは、能力面ではもちろん武具としての格も跳ね上がるという。
一方イルマはというと、防具に装着するように別のルートで頼んでいるらしい。
そんな中で武器も防具も何も無いオレは、ゴートに貰った首輪に取り付けてもらおうかと迷った末に飲み込む事にした。
魔核が喉を通って胃に落ちた後で、知らぬ間にうんこになって無くなっちゃったりしないか不安になったけれど、それは杞憂だった。ほっと胸を撫で下ろす。
オレは神器『ファスガン』の力無しで、玄武と戦っていた時の闘法が使えるようになっていたのだ。
今にして思えばだけれど、あの闘法がハストランのギルドで登録した時に、なんだこれ? って疑問に感じたオレのギルド登録証の特性の欄にある【ねこ魔法】だったのかな。




