55.訊問
うぇ、埃まみれだよ。この煙突全然使ってないな。
仲間が連れ込まれた建物の屋根に上がり、オレは蓋をずらして煙突の中へ忍び込んだ 。積もった分厚い砂埃の堆積物をどうにか掻き分けて、火受け皿のある底まで辿り着いた。
時期外れだし外から扉もぴたりと閉じられているけど、部屋の中の話し声くらいなら十分拾えそうだ。
別れ際にガンクは、逃げろ、とジェスチャーしていたようだけど。オレは煙突底の扉の内側から耳をそばだてた。くぐもった打撃音とうめき声が断続的に響いてくる。
「……ではお前達の目的は、あくまで金目当てでの潜伏であった、ということでいいんだな?」
「だから何度も言ってんだろ。潜伏とかじゃなくて、ドウォルフには旅の流れで立ち寄っただけだ。俺達は帝国兵でも魔族兵でもねぇよ」
「王都から流れてきたと言っていたな。
では何故、鉱石採掘地で守護霊獣を目覚めさせた? 国家転覆を目論む謀反の輩だと断じられても、言い逃れ不可能な行いをしたのだ。
真実を話せ。この地に封印されている霊獣玄武を覚醒させ、ドウォルフを引いては国全体を混乱させる為に訪れた、そうだろう?」
「違う!
だからそんなの知らなかったし、ちょっとした借金を作っちまって売却目的の鉱物探しに採掘地に行ったって何度も言ってるだろ。それが本当の本当、真実だ」
ドワーフの誰かに必死になってガンクが無実を釈明しようとしているな。
うっ、ガンクが数回どこかを殴られたか蹴られたかをされたようだ。
うーうーと唸り声を上げてるのはナノとイルマだな。口に詰め物でもされて声を上げられないようだ。
「もういい。こいつの言葉は聞き飽きた。おい、女を喋れるようにしてやれ」
指示を飛ばしているのはドラウンガって奴だな。耳障りなダミ声が分かり易い。
「ねーちゃん、ちょっと別室で話そうか。痛い思いは嫌だろう。洗い更い話してくれるよな?
それとも少しは気持ち良くなった方がすっきりしてベラベラと喋れそうか?」
「何回も何回も説明してるのに何で分かってくんないの。アタシ達は本当に何も知らなかった!
……い、いやっ、来ないで」
「ククク。いつまで口割らねぇ頑固な調子でいられるか見物じゃねぇか。ねーちゃんよぉ、すぐイかねぇで楽しませろよ」
ナノ! あいつらナノに何する気だ。もう我慢出来ねぇ、皆殺しにしてやる!
「ちょっと、ドラウンガ。女の私達もいるんだからそういうゲスな行いは慎んでもらえないかしら」
「おい、お前も俺に逆らおうってのか」
女の声が聞こえるな。そうだ、集合していたドワーフの中には女もいたっけ。
「黙れドラウンガ。看過出来ない行動にも指示にも従うつもりは毛頭無い。
私達がこの女に別室で訊問を行う。女だけで行う、男共はこの場で待機! 行くぞ」
多分短剣を差していた女のドワーフだな。うーん、彼女ならドラウンガに訊問なのか拷問なのかされるよりマシかな。
足音から三人の女みたいだ。別の部屋に連れてかれてナノの声は全く聞こえなくなってしまった。
「チッ、だからオレは女と徒党組んで動くのは嫌なんだよ。今夜の楽しみが減っちまって残念だなおい、 ゴーデス」
「女をいたぶる趣味は無い。それにお前と違って俺には心に決めた女がいる。それだけで十分だ」
「おいおい、ドワーフ族イチの剣豪が言う台詞かよ。器の小せぇ、ガキみてぇな純情見せやがって。
もっと侍らせろよ、大勢の女をよ。知らねぇなら俺が女の使い方を教えてやるぜ?」
「指示には出来る限り従い協力するが、お前の薄汚い美学まで俺に押し付けないでもらおう。これ以上の耳に障る雑音は排除するぞ」
「糞が、いけすかねぇ奴らだぜ」
集まっていたドワーフ達は意思疏通がちぐはぐみたいだな。
今度はイルマの口が解放されたようだ。
「貴様らに伝えることは既に横のパーティリーダーのガンクが話し終えている。俺の口からもこれ以上の証言は期待出来ぬぞ」
「どいつもこいつも強情でこっちが疲れちまうわ。
おい、殴ってやれ」
イルマが数発ヤキをいれられたようだ。
「仕方ねぇ、別の質問だ。
貴様、神器に心当りは無いか?」
「……知らぬ」
「霊獣を永久に封印する為に、何か道具みたいな物は祀られて無かったかと訊いているんだが」
「そんな物知らんし見てもいない。何だそれは」
イルマ、戦斧のことをしらばっくれてるな。
可哀想に、何度も殴られて。部屋の中を覗く事が出来ないけど、イルマもガンクも相当な拷問を受けてきっと酷い有り様の筈だ。
「貴様らのアイテム袋を全て調べさせたがそれらしき物は見当たらなかった。それどころか、まともな道具も入って無い。どういう事だ?」
神器の戦斧も重要なアイテムもみんなオレが持ってるからな。イルマの推察通り預かっていなければ、全部没収されていたかもしれない。
「フン、俺達は借金冒険者パーティだと言ったろう。貧相で悪かったな」
「もういい。
ガルビナクというドワーフが貴様らの案内人として同行したそうだな。彼はどうした?」
「……死亡した」
イルマはガルビナクの死について嘘を並べ立てた。思い出したら元はと言えば、ガルビナクさんが戦斧を石箱から引き上げたのが原因でこんな大事になってしまったのだ。
それでもイルマはガルビナクさんの尊厳を守りつつ、その死に哀悼の意を示しながら嘘の事情を説明しては殴られ蹴られた。
くそ、あいつらいい加減にしろよ。
あ、やべぇ。地団駄踏んじゃった、割れた薪の音が聞こえてなきゃいいけど。
「何か、物音?」
ゴーデスって奴が近付いて来る。見付かっちゃうかな。いいや、闘うまでだ。
「ガッ、ハッ……
おい、あんたゴーデスと言ったな。俺の質問に答えてくれないか」
イルマ? ゴーデスの動きが止まったぞ。
「貴様、こっちが質問してんだろうが!」
「ドラウンガ、あんたにはもう伝えるべき内容は無いと話したろう。
なぁ、ゴーデス。質問に答えて欲しいのだが」
「何だ?」
「複数あるがいいか。返答出来る質問だけで構わぬ。
まず一つ、霊獣玄武とは何なのか。次に、帝国と魔族の侵攻について。さらにもう一つ。貴殿らは起こってしまったこの事態にどう対応されるつもりか」
「いけしゃあしゃあと、偉そうに何ぬかしてやがる」
イルマが再度数発殴られた。殴られ続ける間にゴーデスがイルマの質問に返答していった。
「霊獣玄武は、我らがドワーフ王ガンドルフの鎮めた古代の四方聖獣の内の一体だ。北方のこの地に眠っていたように東西南にも同じように鎮められている。
王都方面は平和な地と聞くが帝国に面した地域では絶えず領土権とその境界を奪い合う諍いが続いている。これはドウォルフ以南の地域では常識だ。
俺達の今後の予定だが、どうやらお前達は無知のまま世界規模の怪物をつつき、その眠りの眼を覚ましてしまったようだ。ドラウンガは知らんがあくまで俺の目にはだがな。起こしてしまったならば再度眠りに着かせてやるしかあるまい」
「クッ、そんな化物がいたとは露知らず、すまなかったでは済まされぬだろうが。俺達も……」
「お前達は地下で拘束させてもらう。殺されぬだけでも幸せに思うんだな」
そんなどえらい怪物を眠りから起こしちゃったんだ。確かに物凄い魔力だったしな。
イルマが床を叩いているようだ。
「聞こえたか!?」
「何をしている」
「フ。いやなに、ナノにも聞こえたかと思ってな」
「声が届く筈が無いだろう」
オレは聞こえたぞ、ちゃんと話を聞いてたぞ。
「それは残念だな。で、これから行くのか?」
「準備して明日だな。チッ、貴様何か企んでいるのか? 俺達がこの場所を出払っても見張りは残るぞ」
「そうか。貴殿らが霊獣をなんとかするのをのんびり待って休ませてもらおう」
イルマがまた何回も暴行を食らって、ドラウンガの体力が持たなくなり始めたことで、イルマとガンクが先に地下牢へと連行されたようだ。
しばらくした後でナノを訊問していた女三人が戻り、ナノもガンクとイルマと同じ地下牢へ連れていかれた。
ドワーフの女三人の様子が先程と少し耳で聞く限りだけど印象が変化しているのは気のせいかな。何か挙動不審に感じたけれど。
まぁ、いいか。みんな訊問に耐えて頑張ったから、オレも動こう。




