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54.探偵イルマの推察

 ドウォルフの中心街まで疲れた体を引き摺るようにして、なんとか戻って来られた。採掘地は酷い水害に晒されているけれど街までは影響は無かったみたいだ。

 “まだ”影響してないということだけれど。


 あー疲れた。


 ミューネさんに魚と青菜の入った美味しい朝ご飯を用意して貰おう。疲れた体に鰻の蒲焼きなんかが骨身に染みるよなぁ、食べたいなぁ。


「む、隠れろ!」


 突然急停止させ、イルマが片腕を横に上げて物陰に身を潜めた。

 あと少しでガロットさんの家に着くところだ。訝しみながらも全員イルマに倣う。


 なんだ? イルマ、どうしたんだよ。


 その視線の先には十人弱のドワーフがいた。これから魔物狩りにでも出掛けられそうな装備を整えた風で男はもちろん女も混じっている。気になるのは周囲をチラチラ窺い誰かを待って待機している風景だ。


イルマは必死に気配を絶ちながら彼らを凝視している。その鋭い瞳は、対象から見付からないように潜み観察を行う探偵に似ているなと思う。


「非常に不味い。厄介な按配だぞ」


 名探偵イルマくん、オレ達にもっと分かり易く説明してくれよ。


 首を傾げる全員にイルマが続ける。


「当然といえば当然だが、既に鉱石採掘地が水没状態にあるのを把握しているだろう。

どう転ぶかは奴等の出方次第だ。不測の事態に備えランドを切り離す」


 いきなり何を言い出すのさ!?


 イルマが手短に説明した内容はこうだ。


≪状況が多少は芳しい場合≫


・高地の鉱石採掘地一帯が水浸しになっている事の確認と相談。(執拗に問い詰められる可能性アリ)


・集まっている強そうなドワーフ達が仲間になる。もしくは共同戦線するよ、という提案をしようと集合している。(利益分配の名の元に神器の戦斧やゴーレム操作の魔鉱石などを奪われる可能性アリ)


≪状況が最悪な方向へ転がる場合≫


・鉱石採掘地で何が起こったかの説明、というより寧ろ災害を発生させた主犯パーティとして事情聴取という名目の尋問と拷問。(拘束,監禁,軟禁の可能性アリ)


・罰則を科される。(半死の可能性アリ)


・生け贄。(死亡の可能性アリ)




 ……さ、最後のはさすがに無いよね?


 ガンクが腕に撒いているスカーフ状のアイテム袋をオレの胴に括ると、その中へ全員の主だった道具や目ぼしい戦利品などを詰め替えられて、そばから追いやられた。


 みんな、オレ離れ離れになるの嫌だ。


「行け、離れろ」

「ランドちゃん、すぐ会えるから」

「ランド、イルマの予想が外れて、何ともないようなら手を大きく振るよ。そしたらお前もあそこのドワーフに挨拶しに来いよ」


 にっ、と笑うガンクを眺めオレは尻尾を振った。


 分かったよ。イルマなんか迷探偵だ、きっと上手くいくよ。


 オレは酒樽を足場に近くの二階屋根へ跳び乗った。ここからならよく見える。


「そんな所で隠れてないで出てきたらどうだ」


 オレと別れた直後だ、集まっていたドワーフの一人がガンク達に気付いている風体で声を発した。


「待っていたんだ、さっさと出てこんか。貴様らがガンク組とかいう冒険者パーティだろ。こっちから行かなきゃいけねぇのか?」


 オレはドワーフ達がよく見える場所に少し身を移した。総勢九人のドワーフだ。

 中でも大剣を背に背負ったドワーフは相当な手練れだと感じる。ねこの、動物の勘でしかないけれど、他のドワーフと一線を画しているような空気を漂わせている。

 地に槍を突いて座っている男も短剣を差している女もかなりの強者だと感じた。


 状況が読めない為、無言のままでガンク達が彼らドワーフ達に姿を示した。


「チ、愚図が。さっさと出て来やいいんだよ。

 貴様ら鉱石採掘地が酷い様になってるのは知ってるな?」

「ドラウンガさん、その話はここではよそう。中に入ってからにした方がいい」

「うるせぇ、今回は俺がリーダーだ。俺に従えや」


 ドラウンガと呼ばれた男は小柄で八の字の髭を生やした斧持ちのドワーフだ。絶対に酒が好きそうな、分かり易いくらい短気で率直、勝ち気な性格の持ち主だと簡単に見抜けるぞ。


「俺達疲れているんで、中で休み休みしながら詳しくお話するってことにはいきませんかね」

「てめぇ、状況見てもの言ってんのか」

「俺達も詳しい状況が把握出来てないんですよ」


 ガンクがドラウンガと呼ばれた男に殴られた。イルマとナノも拘束具で身動きを制限されてしまった。二人は素直に従ったようだ。ガンクも同じように拘束され家の中に引き摺られていく。


 悪い方のイルマの推察通りになりそう、かな? どうしよう、助けた方がいいのかな。


 ガンクと目が合った。手は振らないようだ。そしてガンクのはにかんだ笑顔のまま顔を斜め上へ振って動かしている。それを見ながら扉が閉まった。

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