52.戦斧は戦利品なのか!?
やった。これでようやく一息付けるかな。
ナノを助けられたのは良かったし嬉しかったけど。
それにしても毛に覆われたこの身体、歩くのも億劫だし前も見え辛いしガサガサ毛が摩れてうるさいし重いしで最悪だぞ。なんとかなんないかな……。
強く思い悩んでいると、生え変わりのように毛がごっそりその場に抜け落ちた。
やったぞ、これで身軽だ。
オレはぴょんぴょん跳ねたりバク転して喜んでいるのに。なんだよナノ、その残念そうな表情は。
「あぁ、ランドちゃんが元通りの貧相なお毛毛に……」
酷いこと言わないでよね。あーあ、助けて損した気分だよ。
ガンクはガンクで青ざめた顔をしているな。
「どうしよう、やっちまった。イルマ……、これ大丈夫だと思う?」
光を失った真紅の宝石を検分していたイルマが、ガンクの翳した剣に視線を移して言葉を失っている。
どれどれ。
オレも近寄ってその剣の具合を見てみると、刃が欠けてしまってひびも入っていた。たぶん、石箱の留め金具を壊した時に生じた破損だろうな。ガロットさんの大切な、思い出深い作品の一振りだよね。また借金が積み重なりそうだな。
立ち上がってイルマが気を取り直すように言う。
「い、致し方あるまい。誠心誠意ガロット殿に詫びるしか道はなかろう。
ガンク、しっっかりと謝るのだぞ」
「そんなぁ……」
あ、イルマ逃げたな。ガンクの肩をポンポンと叩き仕方無さそうに首を振って、知らん顔決め込むつもりだぞ。
「皆さん、お役に立てず、助けて頂いてありがとうございました」
とガルビナクさん。彼も激しい戦いを生き延びたように体の所々に生傷をこさえている。
「ね、イルマ。アタシその石箱に付いてる宝石欲しいんだけど。貰っていーい?」
「ナノ、状況を見てものを言え」
ナノとイルマが一触即発で向かい合っている。熾烈な火花が見えるぞ。
「アタシがゴーレム転ばしたから倒すことが出来たんでしょ。感謝とか無いの」
「その前にゴーレムの頭上で、『助けて~アタシ降りらんな~い』と喚き泣いていたのはどこのどいつだ」
「泣いてないけど!」
「否、泣いていたさ」
うーん、ガンクに倣って放っておこうかな。でもイルマのナノ真似笑えるんだけど。身体をくねらせちゃってさ。
口喧嘩しているその横で、ガンクが石箱から宝石をくり貫いた。
「まぁまぁイルマ。
もしかして、これって俺達もゴーレムを操れたりしねーか?」
「何故お前はいつもナノに甘い。
しかし、……ふむ、考えようによってはそういう用途もあるか」
「ほら! やっぱりガンクは話分かるよね。イルマと大違い」
イルマは相変わらずナノを睨み付け、真紅の宝石を手の平で転がしてその使用方法を調査し始めた。
「ふむ、この魔鉱石に魔力を流し入れ、泥人形及び岩人形に指令を与える仕組みか。
……フ。残念だったな、ナノ。ゴーレムは魔力を流せば誰でも動かせるようだそ。ナノでなくともオレでもランドでも可能だ。
……むぅ。ただし、ゴーレムの体積や能力等は使用者の魔力量によるか」
言いながらイルマは【探知魔法】でその魔鉱石と呼ばれる宝石を調べ、そしてその魔鉱石に魔力を流し込み地面に広がっている泥を集めて泥人形を作っていった。
みるみるうちにイルマの表情が苦痛に歪んでいく。
「クッ、魔力負荷が高い……、ナノ、アイテム袋を開けておけ」
とてつもなく背高のっぽな水っぽい泥人形を形成したイルマは、ナノの拡げたアイテム袋の口へ目掛けて、ズビュビュウ、と泥人形水を流し込んでいった。
「いやーっ、キモいキモい。汚いってば」
「ハァッハァッ。
……良かったな、ナノ、望み通りこの魔鉱石をお前にくれてやろう。これはガンク組の中で一番魔力量の多いお前にしか使いこなせぬ」
ナノがアイテム袋の中を覗いて悲痛な顔になっているけど、……よし。これでこの件は一件落着だな。問題は変な形をした、人の背丈程もある大きさの斧だ。
借金を返す為には何か売らないと駄目だけれど、石箱の上に神器とまで書かれている斧を果たして売り捌いてもいいのだろうか。
全員が石箱の中に納められている大振りの斧を見つめている。
オレに向けて、これは戦斧という武器だとガンクとイルマが説明してくれた。
この石箱の中に置かれている戦斧の特長なんだけど、古い木製の柄は長く、持ち手側の先端には蒼い宝石おそらく魔鉱石が付いている。その反対側の先には装飾が施された槍状の突起部になっていて、そのすぐ下にはシンプルだけど幅広で肉厚の巨大な斧刃と、反対には先が尖り全てを打ち砕き得るような極太サイズの鉄槌、というものだ。
うん。よく分からないけれど見事な戦斧ってことだよね。
「これ売れるかな? っていうより、北聖の守護神を封印してる神器なんだっけ。北聖の守護神ってなんだろうな。
イルマ、何でもいいから何か思い出せるような知識はないか?」
「授業で修めた知識に当てはまるものは無いぞ。
さて、どうしたものか」
「いいじゃん、貰っちゃいましょ。守護神のゴーレムは倒しちゃったんだから。
うちのパーティに斧使いなんかいないし、売り払って少しでもお金にしないとでしょ」
いいのかなぁ。
ナノを無視してイルマは思考の海に溺れているようだ。
「……解らん。守護神か。
ゴーレムは封印されるほどの強敵だったか。俺にはそうは感じられなかったが」
「え、上から見てたけど、イルマはほとんどゴーレムにもスカルドワーフにも通用してなかったよ」
「こらナノ、またお前はそういうキツいこと言う。
……ランドはどう思う?」
オレは、折角の戦利品なんだし持ち帰ってもいいと思うけれど。駄目かな。
オレは石箱の中に跳び入って、戦斧の周りを気を付けながら周回した。 本当に神器なのかな。鼻を近付けても、神器の『じ』の字も感じられないくらい魔力を嗅ぎ取る事は出来ないし。
イルマもきっと【魔力感知】をかけている筈だから、もしかしたら見掛け倒しのただの斧と推察しているかもしれない。
それでも石箱の上蓋表面には、ドワーフ王ガンドルフ=ドウォルフの文字があり『神器』とまで謳われているのだし。
真贋なんか分からないよ、いっそ、ガロットさんを連れてきて鑑定してもらった方が確実かも。
その時、戦斧の柄を誰かの手が掴んだ。
見上げると、掴んだその手はガルビナクさんのものだった。
「ガルビナクさん!?」
「ガルビナクさん! あんたどうしたんだ?」
ガルビナクさんは戦斧を握り締め、石箱の中から持ち上げた。
「この戦斧があれば! 僕はきっともっと強くなれる……」
イルマが叫ぶ。
「何言っている、すぐ戻せ!」
「嫌です!
ごめんなさい。必要無いようなら僕に下さい。お金は払いますから」
掴み掛かろうと動いたイルマを身軽な体捌きでガルビナクさんはかわし、戦斧を掴んだまま石箱から距離を取った。そして、どういう訳か戦斧を振り回し始めている。
ガルビナクさんでも操れるくらい、戦斧は見た目程も重くないのか?
そんな事を考えている間に、先程まで全く感じられ無いくらい皆無だった戦斧に秘めた魔力が急増していき、とてつもない禍々しさを放ち出した。
いや、戦斧自体でもガルビナクさんからでもなく、まるでどこからか収束していっているみたいに。
気付けば地面が震えていた。目で分かるくらいの魔力の渦がガルビナクさんを取り巻いている。
!?
けれど、もっと強大で強烈な魔力の存在に震えが止まらなくなってしまった。
オレもガンクもナノもイルマも、恍惚の表情を見せているガルビナクさんを除いた全員が震えている。
その魔力の発生源は、オレ達が今いる広場の反対側、崖の通路の奥の遥か先から感じるものだった。
あっ!
と思った瞬間の出来事だった。
途方もないとか道理に合わないとかそんな速度の、まるでレーザー砲みたいな光がガルビナクさんを一瞬の内に襲った。
バッチャァァッ、と音が鳴り響いてガルビナクさんは文字通り粉々に、肉塊と肉片となって辺りに飛び散った。即死だ。戦斧もその場に転がり落ちて、先程までの異様な魔力は掻き消えていた。
知らぬ間にガルビナクさんの血と肉を浴びてナノが悲鳴を上げた。
「イヤアアアァー」
「悲鳴を上げている暇はない、すぐに脱出だ!」
イルマが混乱しながらもすぐに事態を把握して声を掛けた。
怒濤のような地響きに、その音の先へ目を向けると、通路の奥から洪水のような鉄砲水がこちらへ猛スピードで迫って来るのが確認できた。
ガンクが立ち上がり、転がっている戦斧をアイテム袋にしまう。そして、「手を繋げ!」と叫んだ。
全員が離れないように、手を強く繋ぎ合った。既に水は猛威をもって遥か高い壁の様に接近していた。
「絶対に手を! 手を離すな……よ…………」
オレ達は大量の水に巻き込まれ-----




