50.岩人形との闘い
「冗談だよ、イルマ。それに俺一人じゃさすがに重くて開かねーって」
「む、う……」
イルマの調子が変だぞ!
いや、それもその筈。今まで淡く微かに光を反射して輝いていただけの深紅の宝石が、夥しいまでに発光し始めているのだから。
不吉な地面の揺れに恐怖してオレは兎のようにピョンピョン跳び跳ねた。
イルマが叫ぶ。
「全員離れろ!」
言われる迄もなく石箱を囲んでいたガンクとイルマは巨岩から身を引き地面へ飛び降りた。
あっ、ナノは石箱にしがみ付いたままだぞ、何してんの!?
やがて巨岩が、ズズズと岩の擦れる音を立てながら徐々に人の形へと組上がっていった。背丈も横幅も人間の七、八倍はありそうだ。石箱は岩人形の頭部、ちょうど後頭部の辺りに髪飾りの様にちょこんとくっついたままになっている。
うん、深紅の宝石付き石箱飾りが魅力的な、これは可愛らしい岩人形ちゃんだ。
イルマが混乱しながらも魔物の情報を叫ぶ。
「ゴーレムだ!
何やってるナノ、さっさと飛び降りんか。
ゴーレムは凄まじき膂力と押し潰しによる圧殺が主だ。間違っても攻撃を受け止めるな、死ぬぞ。しかし、頭部の石箱に埋め込まれた宝石が厄介な気配だ。
打撃も魔法も効果は無いとされる。弱点は、どこかに『EMETH』の文字がある筈だ、その頭文字の『E』の文字を消せば討伐出来るだろう。探せ!」
「まずナノ、降りてこい!」
ズン、ズン、と地面の石盤を砕きながらゴーレムは接近を開始している。ゴーレムが一歩地に足を付ける度にオレの体が宙に浮く程の凄まじい揺れだ。
ガンクがゴーレムの頭の上で器用にバランスを取っているナノに怒るように言ったけれど。
「恐い、もう無理。降りらんない。アタシここにいるからみんな頑張れ」
「アホかー!」
ガンクがゴーレムの踏み付けによる攻撃を避ける。
「チッ、もういい、ナノはそこで上手く待機していてくれ。
イルマ,ランド,俺達だけで『EMETH』の文字を探そう。ガルビナクさんは上手く逃げ回っていてくれるか」
よぅし、頑張って探すぞ。『EMETH』の『E』の文字を見付けて消せばいいんだな。
ゴーレムはそれほど動きは早くない。けれどゴーレムが動く度に地面を伝わる振動で、毎回こちらの動きに支障を来すことが一番の問題だな。
ナノはというと、バランス取るのに慣れたのか澄まし顔をしながら石箱にもたれて、ゴーレムの頭の上で座る格好になって休んでいる様子だ。
ゴーレムはオレ達を踏み付けようとしたり拳を叩き付けたりして迫ってくる。
オレは避けざまにゴーレムの腕に飛び乗り肩口まで走ると、ナノに当たらないように気を付けながら、ゴーレムの岩顔へ向けてねこパンチを放った。でも傷が表面に薄く付いただけでみるみるうちに元通りに戻っていった。
オレの攻撃を間近で見ながらナノが興奮した声を上げた。
「やだ、ランドちゃん可愛い上にド迫力なんだから」
うるさいよ、ナノも働けよ。
ゴーレムの足元を行ったり来たりしながらガンクとイルマが懸命に文字を探している。
「あったか? 『E』の字」
「無い、全く見当たらぬ」
オレも、全然見付けらんないぞ。
ガンクもイルマも危なげ無くゴーレムの攻撃を避けている。
爪で裂いたり剣で切り付けたり矢を放ったりしているけれど 相手は岩の塊な上に岩の表面に魔力を纏っているらしく普通の岩よりも断然硬く、また傷が入っても即座に修復されていく。不思議な岩だ。
でもどうしよう、打つ手が無いよ。このまま延々と逃げ続けるのも疲れちゃうぞ。
イルマの【魔力感知】が何かに反応したようだ。
「む、何事だ? 急速にゴーレムの魔力が高まっていく」
イルマが警戒する。ゴーレムの頭に張り付いた石箱の宝石が、深紅の発光からより暗い赤色に変化していっている。
その直後、強烈な光が瞬いた、と感じた瞬間に周囲に感じる気配とガチャガチャと耳に届く音に気付かされるも眩しさに目が開かなくなっていた。
光に晒され開き難くなった目をなんとかこじ開けると、死んでいた筈の白骨化したドワーフ達が全員その場に立ち上がっていた。
それに体が随分重く感じる。まるで数分間全力疾走した後のような、一瞬で疲れてしまったみたいな具合だ。
「く、どうやら生気を今の光で奪われた。更に俺達の力をミイラ化したドワーフらへ配分されたようだぞ」
「そんな馬鹿な。イルマ、何かの間違いだろ」
のらりくらりと覚束ない足取りのまま、計五体の白骨化したドワーフがオレ達を標的と定めて襲い掛かってきた。
鋭く大剣を振るう骸骨達、戦斧を振り回す骸骨達、全てが当の昔に死んでいる元ドワーフだ。どういう理屈か甲冑も兜も落ちる事もなくピタリとその骨だけの身体に固定され、彼らを守るべくその役割を果たしている。
ゴーレムは魔力を集中でもしているかのように動きを停止している。けれど後頭部の石箱に付いた宝石は赤黒い輝きを揺らめく様に放ったままだ。
ナノが動揺したまま叫ぶ。
「ねぇ、大丈夫? アタシも手伝おうか」
「動いてねー今がチャンスだ、飛び降りろ。絶対に俺が受け止めてやるから」
「バカ言わないで。こんな高さから飛べる弭無いでしょ。ホント馬鹿ね」
「バカはお前だ。心配した俺がアホらしい。そのまま文字でも探してろ」
二人してバカバカ言ってる状況じゃないと思うよ。ほら、そんな二人をイルマも睨んでるぞ。
「スカルドワーフとでも呼べばいいのか?
聖属性の攻撃に効果があるかもしれん。元は、この場所まで来た程のドワーフだ、注意しろ」
言われなくても分かってるよ。
オレはスカルドワーフの薙ぎ払いをかわして【身体強化】を掛けてそのまま胸の辺りに頭から体当たりをかました。吹き飛んで壁に激突したスカルドワーフは、一旦骨がバラバラに分解されたけれど、倒したかと思ったのも束の間で、磁力で引っ付いていくようにカチャカチャ音を立てて元通りになっていった。ちょっと、怖すぎるんだけど!
「く、こいつら、攻撃効いてんのか、いや効いてねーな。ランドはガルビナクさんを守ってくれ。イルマ、何か方法はねーか?」
オレは、「ひい、ひいぃっ」とスコップを振り回しながら逃げ惑うガルビナクさんをすり抜けスカルドワーフに体当たりして、空中でねこパンチを放ち頭と胴体を切り離してみせた。
どうだ?
安堵した様子のガルビナクさんはオレに「ありがとう、ありがとう」と繰り返している。そんなガルビナクさんの足を尻尾でぺしぺし叩きながら、吹き飛ばしたスカルドワーフの様子を眺める。
ガチャガチャと音を立てながら転がった胴体と頭だけど、案の定ダメージは無いみたいだ。
起き上がった胴体は自身の頭を拾い上げると首へと装着し、またこちらへ近付いて来た。目玉の部分が空洞になったその目元は黒く妖しく光っている様に見えて背筋が凍っちゃうよ。しかも全然攻撃も効かないし。
イルマがアイテム袋をひっくり返す勢いで漁り、その中から聖水を取り出してスカルドワーフの一体にぶっかけた。
オレとガンクが他のスカルドワーフの攻撃を避けながら、祈るようにその経過を眺める。
聖水をかけられたスカルドワーフはしばらく動きを止めていた後、まるで何事も無かったかの様に再び攻撃を再開した。
ガンクが戦斧を受け止めながらイルマに訊く。
「くそっ。イルマ、他には方法は?」
「駄目だ。もはや俺にも分からぬ」
うわ、どーすんだよこれ。




