48.もふもふ化
「時にガンク、その剣なかなかの物でないか」
「ああ。切れ味もいいし使い勝手も悪くねーな」
イルマの言葉に剣を掲げたり、縦に横に振って見せるガンク。
オレ達は蠍の襲来を無事にやり過ごしたあと、魔法水晶をすっぽりとアイテム袋へ収めて自然の地下坑道を更に奥へと進んでいる。
「もうその剣を貰っちゃえばいいんじゃない?」
「やだよ、アホ言うな。
この剣はな、ガロットさんがメールプマインのクーレントさんの元に弟子入りする際に見せた剣なんだとさ。ガロットさんにしてみりゃ自分の父親直伝の内の最後の一作だ。きっと思い出深い剣だ、簡単に手離すような物じゃねーよ」
ナノはきいたくせに早くも興味を無くしたようだ。そしてオレの尻尾と尻の穴の辺りに感じる視線。
振り返るとナノと目が合った。恥ずかしいってば、尻の穴見られるの嫌だ。見ないでよね。
オレは魔力を高めて、全身の毛を伸ばすイメージをした。
すると、なんということでしょう。オレは一つの大きな黒い毛玉となった。
「いやーっ、ランドちゃんが!」
「おいおい、どうしたってんだ……って、うわ!?」
「むぅ!」
オレは床を拭く掃除道具のように長い体毛を纏いもっさりとしている。どうだ、これで尻の穴を見れないだろ。
そして、恐る恐る全員から身体という身体を触られるオレ。くすぐったい! けれど、なぜか皆が幸せそうな、気持ち良さそうな顔になっているぞ。
ナノなんか感極まって涙まで流しそうな勢いだ。
どういうことだ!?
「待ってたよ。アタシはこのもふもふを待ってたのよ……」
抱き上げてオレの脇腹に顔を埋めるナノ。痛い痛い、腕の力が強いって。
離してほしい。けど頬擦りしてナノは、オレを捕まえ解放してはくれない様子だ。
ガンクが手を伸ばし、イルマも垂れたオレの尻尾を触ろうとするからその手を、ペシッと弾いてやった。ガルビナクさんまで羨ましそうな顔してないでよ。
「もっふもふ~、もっふもふ~」
「ナノ、次は俺だからな」
「ガンク、先に俺に譲ってもらおうか。先程俺が魔法水晶を見付けたのだぞ」
「イルマ? 成果をダシに使うのはやめようよ」
オレを抱き抱えたまま歩くご機嫌なナノと、オレを奪い合う男二人。なんなのコレ!?
「あ~ん、ランドちゃん最高! 温かい、気持ちいい。待ち望んだ甲斐があったわ」
「ズルいなー」
この地下坑道寒いから、確かにオレに引っ付けば温まるよね。オレも毛を長くする前より熱いくらいだし。でもオレの毛に涙を拭い付けるのやめて。
「いいですね。皆さん仲良しで」
朗らかに笑うガルビナクさん。だけどその瞳はみんなと同じでオレを狙ってるよね。
道は下り続け、死境の橋の崖下まで降りて来たのだろうか。両側に切り立った崖があり、道は左右に果てしなく伸びているようだ。地面は僅かにだけど湿り気が感じられた。
「ふむ……」
イルマは採掘地管理人から預かった地図を広げて、それを眺めて思案顔になっている。
「道を違えた記憶は無いが、地図にはここまでしか記されておらぬ」
「どれ、見してみ」
ガンクが地図を見て、ガルビナクさんもそれを脇から眺める。
「これは先人の、帰還したドワーフによって描かれた地図です。おそらくここまで到達して引き返したのでしょうね」
これまでの道に鉱物を持ち帰ったと見られる跡が幾つかあったからな。きっと、ここまでは蠍を撃退して地上まで引き返ことが出来たけれど、この先に足を踏み入れたドワーフ達は戻って来られなかったのだろう。
腕組してガンクがイルマに訊ねた。
「イルマ、どう感じる?」
「左右両側に強い魔力を感知。特に左手側だ。まるで隠しもせずに駄々漏れ状の魔力はいささか不自然な程だが。
……やもすると怪物級の恐れもあるな」
怪物級って、どれくらい強いのかな。アクアアナコンダくらいかな。
「どうする?」
ガンクが皆に尋ねた。しばらく沈黙が場を包む。
オレはもっと進みたいな。ダメかな、怪物ってのが気になるし。
でも誰も返答を見せないようなので、ガンクは続けて提案した。
「……とりあえず、右手側を探索してみよう。まだ魔法水晶しか入手してねーんだ、このまま戻るのは惜しい」
オレ賛成!
「うむ、一理ある。借金を返せずドウォルフを離れられないのでは先にも進めぬ」
「アタシはいいよ。アタシはほとんど何もしてないし」
そうだ、ナノは戦ってもいなければ発掘するでもなく、ただオレの身体を抱えてもふもふしていただけだぞ。
ガルビナクさんにも確認を取ると彼も、「構いませんよ」と答えた。
「僕は何の取り柄もないドワーフですから、少しくらいは冒険譚をこさえて箔を付けたいですし」
ガルビナクさんの足が震えているのは武者震いかな。
一旦その場で小休憩わ挟み、オレ達は高価値の鉱物を求めて更に奥へ進むのだった。
やっともふもふになれました。




