45.借金冒険者
「なんと愚かな……。哀れだ」
全身の骨という骨を砕かれたみたいにへなへなと崩れる落ちるイルマ。そして口を半開きにしたまま頭をポリポリと掻くガンク。
「見込み違いって言うのか何と言うか。ごめんな」
言いながら素直に頭を下げるガンクを見やる。しかし、にやにやした顔は剣がバージョンアップされるという期待に喜びを隠しきれないようだ。
「ね、見てみて、この魔鉱石! すっごい綺麗でしょ。しかも魔力の貯容量も膨大なの」
ローブの襟を広げて金の細工をあしらった大振りの朱色の鉱石の付いたネックレスを見せるナノ。その場でくるりと回り、ローブとネックレスがふわっと翻る。
イルマが嘆き呟く。
「このパーティは金食い虫ばかりだ。アクアアナコンダの魔核と魔核分泌液を換金したのは今朝だ。今朝の時点で大金持ちだったのが夕刻に借金パーティ化するとは……。
哀れと言わず何と言えるのか……」
危ないぞ、イルマが壊れ始めた。髪を振り乱しながら犬みたいにがりがりと地面を引っ掻いている。
「まあまあ、落ち着いてよ。イルマだって上等な弓も矢も買えたんだから良いじゃない」
「良くないぞ」
「まったまた。似合ってたわよ」
ナノがイルマへ可愛らしくウィンクを投げ付けた。ぷるぷると小刻みに震えて、そろそろイルマが本格的に崩壊しかねないな。
「イルマ、安心しろ。俺は強くなる。イルマだって武器を新調して強くなれるし、ナノだって、えっと……、ネックレスで可愛さがアップだ」
「やー、ガンク分かってる!」
「…………」
イルマは軽蔑の眼差しだ。
「イルマ?」
「……何だ? 貧乏神よ」
「ちょ、イルマそれ的確過ぎて笑える。やぁねぇ」
「ナノ、お前もだぞ」
「…………」
オレは後ろ足で首を掻く事にする。掻く、掻くのだ。掻いて誤魔化せればいいんだけどな、この居たたまれない空気を。
ガロットさんの家の扉が開いて、中から覗き見するようにミューネさんが顔を出した。少し罰の悪そうな表情をしているな。全部聞かれていたみたいだな。
「ご飯の準備が出来たんですけど、食べますか。
……あのう、大丈夫です?」
たぶん大丈夫じゃないと思うよ!
オレは愛らしいエプロン姿のミューネさんの足にすり寄ると、何かいい方法無いかな? と鳴いて見せた。伝わるはずないんだけれど。
一先ず、ガンクが返答した。
「今晩もお邪魔しても悪くないか?」
「ええ、どうぞどうぞ。主人の久し振りのお客様ですし、それに大勢で食べるご飯の方が美味しいですから」
最初に会った時とは雲泥の差で笑顔を振り撒くミューネさんだ。それが気遣いによるものだとしても、みんなの気持ちも少しは和らいでいる様子かな。
「もしよろしければなんですが……」
そう言って、ミューネさんが仕事を紹介してくれた。
ここドウォルフでは冒険者ギルドの支部が無いから冒険者は討伐などで依頼をこなして資金を得られない。武器屋や防具屋を営むドワーフ達もいるから素材の買い取りはしているけれど、手持ちの素材や武器や防具やアイテムを買い取ってもらうしか冒険者達は収入を得ることは出来ないのだ。
ではどうやったらここドウォルフで収入を得られるか。
簡単な話だ。稼ぎたければ素材を探して来ればいいのだ。
「ドウォルフ近郊は有数の鉱石採掘地ですから、皆さんなら希少な鉱石を収集して来られるんじゃないかしら」
ガロットさんは工房兼自室に引き込もってガンクの剣のバージョンアップ作業に勤しんでいる。チューリットちゃんはまだ一度も顔を見せずに二階の彼女の部屋に籠り続けているようだ。
従って、オレ達ガンク組とミューネさんだけの晩餐なのだ。
そりゃあ確かにミューネさん一人で食べる晩御飯はちょっと寂しいよね。
「是非お願いする」
力強くイルマが言った。その言葉にガンクもナノも続く。オレ達は借金冒険者だからな。
金欠の苦悩から光明を見出だしたオレ達に、ミューネさんは心を撫で下ろしたように微笑んでみせた。
「私は比較的難易度の低い鉱山しか知りませんが、価値が高くて希少な鉱石が捕れる鉱山もあると聞きます」
「その場所は分かるか?」
「強い魔物が出るらしいですが、大丈夫でしょうか」
ミューネさんが心配そうに見てくる。
「構わねぇよ。俺が作った不足分は自分で取り返してやらぁ」
「あれ、でもガンクは剣をガロットさんに引き渡してるんでしょ。丸腰でどうすんのよ」
力強く、二の腕の小さな小山を作ったガンクが固まっているところにミューネさんが笑う。
「大丈夫です。主人が昔作った剣で良ければお貸ししますから。
私が言うのもなんですが、頑張って鉱石採集して借金をチャラにして下さいね」
よーし。明日からは鉱石採集だ。ハストランの蚕の森での薬草採集みたいな感じかな。楽しみだな。




