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42.ガンクの憧憬

 ドワーフの街に到着した。盗賊との余計な戦闘もあったせいで夜も遅くなってしまった。周辺は乾燥地帯のようだが小雨もぱらつき始めている。


 ガンマリヤと同じように崖の岩肌をくり貫いた居住空間を造っていたり洞穴の奥に門扉があったり、地面に小屋を建てていたり岩や土で塗り固めた建物もある。岩の上に建てた高床式もあった。全体として所狭しと犇めき合い集落を形成しているようだ。


「ドワーフの街もガンマリヤ同様に、統治は国が行っていない。自治区に相当する。従ってギルドもなければ旅人を迎える宿屋もあるのかすら分からぬ」


 イルマは来たことが無いみたいだな。ドワーフの街って、そもそもどういう街なんだろう。


 首を傾げていると、ガンクがオレに憧憬半分に説明してくれた。


「ひゃー! 格好いいなー。学校の教科書の絵で見たまんまの風景だ。

 な? イルマもそう思うだろ」

「俺は好かん。避難時に行動が制限される上に火事の際にも不適合だ」

「ふーん、俺はこういうごちゃごちゃした感じ好きだけどな」


 オレも好きだ。遊ぶ所がいっぱいある。入りくねった通路を駆け回ったり、煙突に登ったり。それにあの大きな岩の上に建った家が楽しそうだ。岩の中に洞窟みたいな穴も空いてるし。


「アタシは嫌い。不衛生そう」

「うるせーナノ。ランド、お前ドワーフのこと知らねえだろ? オレが説明してやるよ。

 一言で言や鍛冶職人一族だ。刀鍛冶とか、盾や鎧を作ったり鍛えたりよ。しかも戦闘になっても強いんだ。憧れだよな。屈強な男達が一心不乱に、心血注いで見事な業物を作ってんだよ。

 凄くねぇか? 額から流れる汗を拭いもせず、ただただ一つの刀と自信が向き合ってよ」


 ガンクは刀鍛冶職人について目をきらきら輝かせて語る。剣を抜いて刀を研ぐ真似をしたり、それを掲げて刃の出来を確認するような仕草をしながらさらに続ける。


「まぁ、女には分かんねーよ。

 来る日も来る日も我が子のように造り育て上げた一本の刀。ひた向きな悪戦苦闘の一本道。工房に響き渡る硬質の槌音のメロディ。男のロマンがここにあんだよなー」


 ナノがため息をつく。


「ガンク、あんた刀鍛冶になった方がいいよ。向いてるんじゃない」

「アホか。オレが好きなのは冒険だ」


 イルマは腕を組みながら、やれやれといった表情だ。ミューネさんはガンクの話にどこか誇らしげな表情だな。チューリットちゃんはフードを思いっきり被ってそっぽを向いたままだ。そして、オレ達は結構雨に濡れている。


「もう遅いんで宿屋さんも閉まっていることでしょう。うちに来ませんか?」


 ミューネさんが提案してくれた。


「貴女はここの居住者だったのか。

 ……助かるが、いいのか?」


 イルマは何か心配事でもあるのか渋ってるようだ。何を考えているんだろう。


「大丈夫です。余分な気兼ねは要りませんよ。おそらくお察しの通り、主人は鍛冶師をしておりますが、泊める代わりに何か買わせるような魂胆はありませんから」

「フ、見透かされると言い逃れも出来んな。では好意に甘える事としよう」

「うふふ。それにガンクさんの話が、少し嬉しかったですし」


 ミューネさんはガンクを見やる。ガンクはオレに向けて剣に施す精巧な細工についての話あれこれを語っている。オレは身体を思いっきり震って水をガンクの顔へ飛ばしてやった。だって興味ないんだもん。


「雨が強くなってますから。風邪引くと行けませんし、どうぞ、こちらです」


 ドワーフの街の中をあちらこちらへ渡るように歩いて進む。鉄や蒸気の臭いに混じって腹の虫が騒ぐような芳しい匂いのする中を通り抜け、街外れの方までやってきた。


「ここです。家には主人が一人だけです。空き部屋もありますから」


 ミューネさんに案内されたのはまだ比較的新しく建てられた雰囲気の二階建ての小屋だった。窓には灯りが点っている。


 玄関口はそのまま居間になっているようだ。ミューネさんは、「ただいま! あなた、お客さまをお連れしたわよ」と奥に向かって声を掛けると、ドスドスと重量感のある歩き音が聞こえてきた。奥の扉が開く。


「おぅ、お帰り。

 よく来たな、お客さん。歓迎するぜ。で、なんだ? 刀か? 槍か? 鎧も時間は掛かっても作ってやるぜ。んん? それとも修復の方だったか?」


 質問を浴びせながら小ぢんまりとした赤髪赤髭面の筋肉の塊が気さくに近寄ってきた。


「あなた、お客さまだけど、そっちじゃなくて。今夜泊めて差し上げようって」


 ミューネさんが訂正すると、分かり易いくらいに肩を落とされた。


「紹介するわ、主人のガロットです」

「ガロットだ。まぁどっちの客でもいい。歓待なんぞ出来ねえ暮らしだが、ゆっくり休んでいってくれや」


 とりあえず、歓迎してくれるようでひと安心だ。


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