41.洗い流してキュラザン遺跡
盗賊達のアジトで間違いないだろう、石造りで朽ち果てたキュラザン遺跡へ勢いそのままに突入した。町の形になっている中で一際大きな建物へ回り込む。入り口の木の扉をガンクが思い切り蹴破った。
「な、何だてめーら!?」
テーブルの上は酒の瓶とグラスと食べ物で散らかっていた。連れ去られた女達の姿は無い。いたのは真っ昼間から酒を飲んで寛いでいた男達数人だ。全員が驚いた顔で立ち上がった。オレ達は臨戦体勢のまま中へ踏み込む。
「女三人拐ってった奴等がここにいるな? 返してもらいに来た。さっさと出せ」
ガンクが言う。
男達は酒を飲みながら見張りでもしているのか、小刀や弓や槍で武装している。
「アァ? なんだよ、こんな所まで助けに来たってのか。おいおい、出せって、それがもの頼む態度か?」
「ひひひ、今頃ひん剥かれて泣き叫んでるかもな」
「お頭が今奥でお楽しみ中なんだよ、へへへ。なんならお前も順番待ちするかよ」
胸糞悪い言葉ばかり吐く酔っ払いの顔へ跳躍して、ねこパンチを頬にぶつけた。ガスッ、て音と共にふっとんだ男はテーブルの上を転がり酒瓶からつまみから色々撒き散らしながら地面に落ちた。
怒り狂い発狂しながら男が槍を突き出した。オレはそれを避けながら足場にして近くの木箱の上に飛び乗った。
「なんだよ、この黒ねこは?」
「俺の仲間だよ。さっさと返してくれねーと痛い目見ることになるぜ」
あれ、なんか嫌な予感がする。
武器を構え双方が臨戦体勢取って今にも開戦寸前だけど、奥の部屋の地下かな、そこから魔力が脹れ上がってきている。
「ガンク、おそらく監禁場所は地下の部屋だ」
「分かった、すぐ助けてやろううぜ」
「いや……。逆に退いた方がいいかもしれん」
こそこそ囁き合うイルマとガンク。そこへ剣や弓に槍が飛び交うも二人はその全て捌きながら会話を続けた。
「ちぇ、もうちょっと待ってくれたら良かったのによ」
「そう言ってやるな。ナノが派手にかましそうな気配だ、待避せねば巻き添えを食う」
ガンクが大きくため息をついた。
「なぁ、あんたらが外道そうで逆に安心したよ。恨みはデカイけど、せめて死なない程度に生き残れ」
「因果応報という奴だ。ランド、脱出するぞ」
だよね、やっぱり。
木箱の上から弓持ちの男の頭を跳ね飛ばして降りてオレは入ってきた入り口へ駆け走り外に飛び出した。
イルマが言い終わるのとほぼ同時に、奥の部屋に通じる扉が押し倒され大量の水が流れ込んできた。水は鉄砲水のように勢いとその圧倒的な質量でうねりながら室内を掻き回した。
窓を蹴破り屋根の上へ避難したガンクとイルマに合流した。眼下では轟音を上げながら濁流が遺跡を瞬く間に満たし、雑多な物に紛れながら盗賊達が無惨な姿で右へ左へ激しく流されている。
オレは毛に付いた水を振るう。キュラザン遺跡は水で洗われ流され色々と綺麗になったのかもしれないな。
木片にしがみついて俺達のいる屋根の上に合流したナノ。
「あははは。いやー、自分で出した水に流されて死ぬかと思った。ちょっと失敗しちゃったかも」
よっこいしょ、と屋根上にガンクの手を借りて登った。
「お前はいつも大味なんだよ。死ぬとこだったのは俺達もだ。
助けに来たのか被害に巻き込まれに来たのか分かんねーじゃんか」
ナノが濡れた髪をかき上げ、ローブを搾る。びちゃびちゃと大量の水が屋根の上に落ちた。
「まぁまぁ。アタシもミューネさん達も助かったんだからいいじゃない。
あっ、そうそう。こっちの大きい方がミューネさんで、ちっこい方がミューネさんの娘さんのチューリットちゃん」
イルマに手を借りて引き上げられた黒装束の親子が近寄り挨拶した。オレはイルマの頬が少し赤く照っているのを見逃さない。
「ご挨拶が遅くなり、すみません。ミューネといいます。それに娘のチューリットです」
「チューリットです」
二人とも覆っていたフードは背中にまわされ、顔が顕になっている。ミューネさんは整った顔立ちの美人さんで、歳はたぶん三十歳くらいかな。チューリットちゃんは人見知りなのか、ナノの【水魔法】で怖い思いをしたのか顔がまだ青ざめたままだ。
キュラザン遺跡を蹂躙している水が引くまで待つ間、ミューネさんはチューリットちゃんの衣装の水を搾り落としてあげている。年齢は十歳くらいに見えるし、一人で出来ないのかな。
チューリットちゃんに興味が湧いたオレは近寄り、足にすり寄ってみた。そしたら避けられた。何故だ!?
負けん気を出してしまって、チューリットちゃんの肩によじ登り頬を舐めてあげた。そんな、「いやぁ!」 なんて言われるなんて初めてだよ。それにまた背中にまわしたフードで顔を隠されちゃった。
「ごめんなさいね。悪気がある訳じゃないの、許してね。とっても恥ずかしがり屋さんの子なの」
呆然と立ち竦むオレにミューネさんがしゃがんで我が子を釈明するように話しかけてくれた。
でもやっぱり悲しいよ。
髪を拭いて乾かしながらナノが言う。
「あらら、ランドちゃん、嫌われちゃったかな。でもチューリットちゃん、バッタとか蜘蛛もかじっちゃうねこちゃんだけどとっても可愛いんだよ」
ちょっとナノ!? そういう情報与えないでくれよ、ますます怖がられてるじゃん。
「ハハハ、ランドは雑食だからなー」
ガンク、笑い声上げてないで弁解してくれよ。
ナノがまたもや爆弾を投下する。
「んー、アタシ思うんだけど、なんかガンク最近目立ってないよ。もっと活躍してね、リーダーだからさ?」
「な!?」
いきなり話の牙を向けられ言葉を失ったガンク。
「だってほら、今回もだしアクアアナコンダの時も影が薄かったっていうのかさ。この頃パッとしてないよ」
酷いよナノ、ちょっと言い過ぎじゃない?
あーあ、ガンクが落ち込んじゃったよ。がっくりと肩を落として、さっきまでの血気盛んだった姿はもう見る影もないや。そんな無情な台詞を女の子に言われたら、男としてはたまんないよね。可哀想に、同情するよ。
見かねたのかミューネさんがガンクにお礼を言った。悲しくなるくらいの満面の笑顔を携えながら。
「でも、今回は本当に助けて頂いてありがとうございました。救ってもらえなかったら、今頃私も娘もナノちゃんもどうなっていたことか」
「いいよいいよ。救ったのはナノだよ、ナノにお礼言ってやりなよ」
本格的にいじけ始めたガンクを放っておいて、遺跡の外へ流れ水が引いた頃、イルマが盗賊達を一纏めに縛り上げた。彼等が簒奪した金品は俺達のものと出来るようだ。機嫌良さそうにイルマがさくさくと作業を進めていく。
「何を不甲斐ない顔をしてる。ランドもか」
オレの事は放っておいてくれよ。ガンクの事も放っておいてあげなよ。
「しゃんとしろ。気も身体も先ずは心からだぞ。
懐もそれなりに潤った。さっさとドワーフの街へ発つぞ」
「へーへー、次に進みましょうか。
まったく、頼りになるイルマくんは仕事も早くて有望株だね。目立ってて俺には眩しいよ、正視出来ないぜ」
「ぬ!? おい、一体ガンクはどうしたというのだ?」
ナノが慌てて謝る。
「ごめんごめん、アタシが思ったまんまのちょっとキツいひとこと言っちゃってさ。落ち込んでんのよ」
「またお前は。多少は相手の事を慮って発言すべきだといつも口を酸っぱく言っているだろう」
「だって、ガンクに甲斐性無い男になってほしくないし」
イルマがため息をついた。
「ガンク、阿呆の戯れ言だ。気にするな」
「ちょ、イルマ? アタシはガンクに期待を込めて言ったのよ。たくさんたっくさんの」
「ナノの言う通り、出鼻を挫かれる事はあるだろうが、リーダーはどんと構えていればそれでいい。リーダーがでしゃばり過ぎても困るだろう?」
「それもそうねー」
終始いじけて肩を落としたままのガンクをあの手この手で宥めながら、オレ達は再び、一路ドワーフの街へ向けて出発した。
オレもまだ凹んだままなんだけどね。




