40.盗賊
ガンマリヤを出発したオレ達。第2カレンド遺跡に向かった時と同じく乗り合い馬車で、オレはまた篭に詰められ不自由な思いを強いられていた。
これはイルマ談だけど、
「貸し馬車は数も少なく非常に割高だ。盗まれた場合と借り手が死ねば返却の見通しは立たぬからな。買ってしまった方が安いくらいだが、買えば馬の世話をせねばならぬし今度はこちらが盗まれる側になる。
だから冒険者も町人なども、多くの場合が乗り合い馬車で目的地間を移動するのだ」
とのことだ。
話はガンマリヤ出発前に少し遡る。
ガンマリヤでドワーフ達が住まう街まで運行する馬車を探していると、黒装束を着込んで見るからに怪しそうな二人組に声を掛けられた。背の高い黒装束と低い二人。どちらもその線は細い。
「ドワーフの街までの馬車をお探しですか? 私達も今から同じ場所まで向かいます。良ければ御一緒願えませんか?」
女の声だ。黒いフードで顔を覆い隠しているけど、背の低いオレには分かる。物凄く整った顔の女性だ。澄んだ声は緊張しているのか震えがあった。
警戒を見せながらイルマが問う。
「確かに、俺達もドワーフの街まで移動したいのだが……。
失礼を承知で訊こう、何故その様な格好をしている?」
「訳あって人目を忍ぶ旅の最中です。この場で詳しくお答えする必要は無いでしょう?」
「ふーん。でもさ、余計に目立ってる気もするよ。なんか暑苦しそうだし」
ナノの言葉に動揺を垣間見せ、納得したように黒装束の女は少し笑った。
「確かにこの衣装ではそうかもしれませんね。
運賃は私達がお支払い致します。女子供二人なので、依頼料として別の報酬も致しますから、道中の護衛もお願い出来ないでしょうか?」
ガンクがはにかんで見せた。
「いいよ。何かあれば俺達がどうにかするさ」
「ありがとうございます」
黒装束の二人組は揃って頭を下げる。イルマはムッとしてガンクに詰め寄った。
「ガンク、勝手に判断するな。面倒事に巻き込まれても知らんぞ」
「大丈夫だって。悪そうな奴には俺には見えねーし。それに弱き者に手を差し伸べるのが冒険者だろ。女に、それに小さな子供なんだしさ。訳ありでも何でもいいよ。俺達には無関係な話だ」
「申し訳ございません。よろしくお願い致します」
再度頭を下げる黒装束の親子二人組。吟味するようにしばし眺めると、イルマは渋々ながらも了解したようだ。
話は戻って、馬車は崖の渓谷を抜け岩石地帯を通り過ぎ荒野を掛けていく。道は舗装というか積み重なった轍の跡で幾分通り易いくらいといった感じだ。だから揺れる揺れる。
オレはまた篭の中に収まっているけど、直に震動が伝わって寝付く事も出来ない。いい加減慣れたいものだけど。黒装束の女性二人は大丈夫だろうか。
「お客さん、この辺りから盗賊の被害が多い地域になりやすで、気を付けなされや。もし来やすったら、御身が大事でもワタシもまとめて守って下せえよ」
馬頭さんが前を見ながら告げた。馬車は変わらぬ速度で進む。幾つかの遺跡を通り過ぎた時だ。イルマが声を上げた。
「馬頭、前方に数人待ち伏せしているかもしれんぞ」
「へぇ、分かりやした」
どこか呑気な声で返答する馬頭さん。慣れてるのか冒険者を乗せて安心しきっているのか分からないけれど、もう少し危機意識は無いのかなと思う。
そうして少し進んだ先の岩場から、いかにも盗賊といった服装をした7人の男達が騎乗しながら馬車の通路を塞ぐ様に姿を表した。馬車はゆっくり停車する。
「む? 少々解せんぞ」
「何だよイルマ、どうした? 盗賊なら出るって行ってたろ。さっさと倒して進もうぜ」
「そうではあるが……」
イルマが言うように、オレも少し違和感を覚えた。だって、全員が危機感に乏しい、というか、緊張感を感じないのだ。盗賊もそれに馬頭さんも。
そしてそうこう言ってるうちに、3人の男達が馬に跨がったまま近寄って来た。皆が一様に下卑た笑みでオレ達を値踏みするように見ている。
「命が惜しけりゃ金品をこの場に置いてきな。歯向かわなきゃ痛い思いはしねぇからよ」
盗賊の常套句を述べる男。ガンクとイルマが立ち上がる。
「んだよ、見りゃあガキじゃねえか。ちゃんと金持ってんのかよ」
「おい見ろよ、女がいるぜ。しかも上玉だ」
「はいお前らー、金と女を寄越せや。分かってんだろ?」
途端、イルマが矢を射り最後に声を出した盗賊の腕にすとんと刺さった。まるで反応出来ない速度だったようだ。
「問題無さそうだな。俺とイルマだけで十分かな。一応、ナノ、ランドも出してやれ。あと、殺すのは無しで」
やった、やっと窮屈な檻から出られるぞ。
ナノが「ランドちゃん、やっておしまいなさい」と猛獣でも解き放つように仰々しく篭の入り口を開けた。オレもせっかくだから2回転して地面に着地を決めた。背の低い方の、黒装束の女の子はクスッと笑ったようだ。
馬車に近寄った盗賊三人をあっという間に片付けると、リーダーっぽい盗賊が馬頭さんに叫んだ。
「あんだよ、ガキと思ってりゃやるじゃねーか。聞いてねーぞ。
くそっ、メソッカス、走れ! 退却だ。逃げるぞ」
その盗賊が言うや否や、オレ達を乗せていた馬車が急旋回して走り出した。荷台にはまだナノも黒装束の二人の女達も乗ったままだ。
オレはすぐに走って追いかけた。けれど馬は早くてどんどん引き離されるばかりだった。
イルマが馬頭に向け放った矢も外れ、馬車は残りの盗賊と共にオレ達が来た道を戻っていく。
「チクショウ、やられた! 馬頭とグルだったか」
ガンクが抜いた剣で地面を叩く。
「すぐ追いかけるぞ」
「あいつらどこ行ったか分かんねーだろ、どこ行きゃいいんだよ?」
イルマがへたり込んだまま薄ら笑いを浮かべる盗賊の一人を蹴り倒し言う。
「こやつらが教えてくれるさ。だろ?」
言いながら、逃走しようとしたもう一人の盗賊の足に矢を放ち落馬させた。ガンクはガンクで、その場に残された盗賊の一人を剣で器用に耳を半分くらいまで割いている。
なるぼど、と追うのを諦めたオレもイルマが蹴り倒した男に飛び掛かってその目に爪を突き刺した。痛そうに。眼球が潰れたみたいだけど、ナノが連れ去られたんだし、そんなこと知ったこっちゃないや。
「五月蝿い。早くアジトを言え」
「ごめんなさい、許してください。命だけは……」
耳から血を垂れ流して命乞いする盗賊の腿にガンクが剣を突き下ろす。
「なぁ、こっちは切羽詰まってんだわ。あんたらのお仲間がいつオイタするか知れねーんだ。さっさとアジトを吐け!」
ガンクがグリグリと剣を捻ると、うるさい声が余計に大きくなった。
オレも負けじと、顔中血塗れになりながら騒いでいる男にまた襲い掛かる。肌が見えている箇所でガリガリと爪研ぎしてやった。辺りは盗賊達の阿鼻叫喚が木霊して血の臭いで溢れ返っている。
「アジトが判明した! 近隣にあるキュラザン遺跡だ」、
矢が何本も刺さったままの盗賊を道案内にと馬に乗せイルマが駆け出す。オレもガンクの背中にしがみ付いて騎乗した。馬車以外で馬に乗ったの初めてだ。
「イルマ、あいつら全員叩き潰す。手加減すんなよ」
「承知!」
もしナノに手を出してたなら、オレも全員殺す。加減なんてするもんか。
あれ? 殺しちゃだめなんだっけ。そんなのどっちでもいいか。
奪われたら取り返せばいいんだ!




