39.オレ達が進む道
「おーい。お前も入れよ、気持ちいいからさぁ」
「怖がるな、これぞ至福の一時だぞ」
いやだよ、オレは風呂嫌いなんだよ。
第2カレンド遺跡の調査を終えたオレ達ガンク組は、ガンマリヤに戻り、しばしの間のバカンスと称して、ガンマリヤ名物の岩石露天温泉を訪れていた。
他の冒険者とかち合うのを避け、夜更けの時間とある事情の為に辺りは何も見えないような濃い闇が拡がっている。周囲にオレ達以外の人の気配は無い。
見上げれば夜空には朧気にも下弦の月が照り、幾ばくもの星が静かに瞬き宝石の様に煌めいている。
「はぁ~いい湯だ。それにいい夜だな」
「灯しの無い闇に身を浸すのもまた優雅か。心静かに過ごせる夜だ」
ガンクもイルマも湯船に身体を沈めて楽にしている。ねこのオレには考えられない行為だけど。だって熱いじゃん、この濁った湯は!
イルマが額に浮いた汗を拭う。
「うら若き身の上ではあるが、旅を生き様とし幸も不幸も荒野渡りし日々の上のこと。人生の機微に触れながら」
「訳わかんねー事言ってんじゃねーよ。イルマの喋ってる内容、さっきから俺ほとんど分かんねー」
ナノが身体に布を巻いてやって来た。ハストランで買ったやつだ。暗い人影にガンクが奇声を上げる。
「よっ、待ってましたナノ様、いろっぺー!」
「ガンクうるさい、下品よ」
「まーまー。そんなこと言わずに今夜は楽しくいこうぜ。仲間同士裸の付き合いってんだ。
恥ずかしがんなくてもどうせ真っ暗だ、何にも見えねーよ」
「乙女は殿方にそうそう肌を晒さないものなのよ」
なぜ明かりも灯さず暗闇の中で温泉に入るのか。その理由はナノが恥じらったからだ。独りで温泉に入るのは嫌、皆と一緒に入りたいとごねたのだ。
夜目が利くオレには見えてるけどね。
ナノの肌は綺麗だ。月の光を浴びていつも以上にやけに色っぽい。以前にドルマックが言ってナノは虫酸が走ったみたいだけど、彼の言う通り全身を覆うローブなんかより女らしい華やかなドレスがオレも似合うと思うよ。
オレを除いた3人が温泉を満喫する間、入泉することなく露天温泉の近くで見張りの番をしながらみんなと同じ夜を過ごしている。もうもうと沸き立つ硫黄の臭いにそろそろ鼻が麻痺しそうだけど。
「にしても、デビルエレファントだったか。悔しいな。ドルマックに先越されちまってよ」
何度か吐いた台詞をガンクがまた呟いた。
「まだ言ってるの。男は引きが大事って昔習わなかった?」
「さぁ」
「む、諦念の理のことか?」
「イルマ、それ多分違うから」
湯船から上がり岩場に腰を下ろしたガンクは空の星を見上げた。
イルマは露天温泉の淵岩に腰掛ける。
「確かにデビルエレファント、魔象を捕られたのは手痛いが、しかしアクアアナコンダだけでも十二分な収益を得られた。
此度の第2カレンド遺跡調査では、以前までの在り方を見つめ直す機会にも俺にはなったように思う。お前達はどうだ?
今後は、レベル向上を念頭に置いた行動指針へと見直さないか」
イルマ以外全員が首を捻る格好になった。
「俺は最初からそのつもりだけど」
「どっちかって言うと、イルマがブレーキ役だったのにねー。何か心境の変化あった?」
イルマは取り乱した様に慌てた。
「何を言う、心の変化など無かろう。俺は昔から変わらず己と語らいながらだな……」
「起因はたぶんランドちゃんよね。いいなーイルマはランドちゃんと仲良くしてさー」
「そうだそうだ。
俺こっそりランドとイルマがお話ししてるの見ちゃってんだよ。最初ランドのこと『ペットを仲間に連れ歩くなど気が知れん』って喚いてたのによ。人は変わるもんだよなー。良かったねイルマくん、気の合う友達が増えて」
ガンクとイルマが子供みたいに殴り合うのをナノと一緒に眺める。やれやれ、仲がいいや。
と思いながら傍観していたら、ナノが「もっとやれやれー」と湯をぶっかけたからオレも巻き込まれたじゃんか。熱い、熱いって!
ふうぅー、と大きな息を吐いたガンク。
「今後はじゃんじゃん戦ってもっともっと強くなろう。最終目標は魔王を足蹴にすることだな」
「馬鹿者、冗談でも言って良いレベルの相手ではないぞ。俺達なぞ足元の爪先の先端にも及ばぬわ」
「いいじゃんいいじゃん。夢はでっかく気はおっきく! ね、ランドちゃん」
そうだ。魔王を倒すぞ!
……魔王ってどんな奴だかまるで分からないけどさ。
「なぁ、これからどうしたい? どこに進みたい?」
ガンクが真剣な調子になって尋ねた。
「フン、それはリーダーであるお前が決める事だ」
「アタシはどこでもいいでーす」
オレもみんなと一緒に冒険するなら、どこにでもどこまででも付いていくぞ。
「ガンマリヤで用が済んだら、1度王都に帰ろうと思ってたんだ。
でもやめた。冒険するなら故郷に帰るよりまだ行ってない知らない世界を旅した方がいいよな」
オレ達はその言葉を聞いて、口元に勝ち気な笑みを浮かべた。
「イルマ、ガンマリヤの先には何がある?」
「ふむ、……ガンマリヤ西部にドワーフの住まう街が近く、南東にはキューラカン、南に交易都市として有名なメールプマイン、さらにその南部には幾つかの港町があった筈だ」
「面白そうだな。全部まわろう」
「賛成!」
「フ 、先が思いやられそうだが、悪くないな」
いいぞいいぞ、なんか、楽しくなってきた。
まずはドワーフの住まう街を目指すことになったオレ達。
そしてまだまだ、楽しく心満たす夜は続いていく。




