32.ガンマリヤの街並み
流れ行く景色をぼんやりと目で追う。枯れ木がぽつんぽつんと点を打つように疎らに見え、視界のほぼ全て茶色系統の平坦な色彩だ。実に面白味が無い旅だ。
オレ達は乗り合い馬車に揺られてガンマリヤに向かっている。ハストランからだと歩け2~3日かかる距離にあるからだ。馬車でなら今日の夕方にはガンマリヤの街に到着出来るという。
今オレは動物用の篭に匿われてガタゴト揺れる馬車の座席で、安心出来ない時間を余儀無くされていた。ねこは家畜篭に入れないと乗せてくれないらしい。
自由を奪われるって不安だよ。貧相な格子に前足を引っ掛ける。その気になれば、こんな木製の篭を破るなんて朝飯前どころか寝惚けながらでも出来るんだから。
オレはナノとガンクの間に篭ごと置かれている。イルマとナノは目を瞑り、ガンクは馬車の淵にもたれかかって地平線の先へ投げるように視線を漂わせている。ナノは眠りの中なのかも。
陽が傾き、真っ赤に染まる太陽が広大な大地へ沈む頃には辺りの景色が変わり、ゴツゴツした剥き出しの岩を避けるように進んでいく。
地形がまた変わりやがて切り立った崖の間を通る頃、陽は沈み薄暗がりの中を馬車は走っていく。振動で身体が跳ねて気分が悪くなるけど、皆我慢してるからオレだって大人しくしてるよ。
格子の隙間から見ると崖は高く、3階建ての民家くらいはゆうにありそうだ。暇で誰も構ってはくれないので、あの崖の上から矢を射られたり奇襲をかけられたりしたら恐いな、と悪い想像をしたり、崖から飛び降りたり登ったりする遊びを思い描いたりした。
そんなこんなでガンマリヤの街に到着したようだ。
巨大な崖の所々がくり貫かれていて、その無数の穴から光が漏れている。光の内部は居住空間のようだ。外壁である崖には階段が上から下まで延びていて、それぞれの部屋を結んでいる。
中央付近に滝が流れ落ち、崖下に出来た湖はオアシスの様に広がっている。久し振りに見る緑の葉を繁らせた木々と根元に茂る草花は、夕刻過ぎの半暗がりの中でも心に安心の念を抱かせた。
オレは家畜用の篭の中から、ガンマリヤの街の景色にしばらく心を奪われていた。
「アタシ達も、初めてガンマリヤに来た時は感動したのよ。なんてゆーか、幻想的なのよね。ロマンチック、特に夜は」
うん。こんな形をした街があるなんて、オレびっくりだよ。
「フン、住んでみればそうでも無いそうだぞ? 現に住人達は階段の昇り降りが面倒だそうだ。急で数少なく数も多いと」
「イルマはせっかく頭がキレても堅物なのがアンポンタンよね。ハァ。人生損してる」
「なんだと!?」
「ロマンを見出だせない男は、結局は報われないってことよ。
ね、ガンク?」
ガンクは滝をぼんやり見つめるように眺めていた。「そうだな」と控えめに笑う。
オレは少しガンクの大人しさが気になった。覇気がないのだ、先程から。ハストランでの疲れがまだ癒えきっていないのかな、と推測することにした。
イルマの案内で湖畔に佇むコテージみたいな建物に入った。
「1週間この場所を抑えてあるが、状況次第では2~3月滞在することになるかもしれん。ガンマリヤの住人と交渉次第ではあるが、何処かの部屋を間借り出来ればいいのだが。宿代も馬鹿にならんからな」
1階建ての湖畔の建物は大部屋1つと倉庫兼用の部屋がもう1つあるだけの簡素なものだ。炊事場は建物の外で各自が自炊し、風呂は共同風呂が近くにあるという。
いかにも冒険者の簡易的宿泊施設といった風情だ。似たような建物が軒を連ね、そのどれもが満室御礼といった具合に窓から灯り火が見える。
窮屈な篭から解き放たれたオレは、すぐにでも周囲を探索の名の元に徘徊して、この場所にオシッコしてマーキングしたい衝動に駆られた。テリトリーを主張したくなった。けれど、「それは駄目だ」と、厳しくイルマに注意を受けた。
「いいか。お前がねことしてその本能のまま動きたくなるのは多少ばかりは理解しているつもりだ。
しかし控えてくれ。余計な行動を起こし問題へと発展させてくれるな。
ここには多数の冒険者が遺跡目当てで集まってきている。話の通じる者もいればそうでない者もいれば、全ての規則を反故にして平然とのさばる阿呆もいる。冒険者たる義務意識も欠如している者だっているだろう」
そ、そうなの?
「ここでは身勝手な行動はよしてくれ。頼んだぞ」
アイテム袋から食材を取り出して、包丁で刻むイルマを眺める。
ガンクは薪を組み、ナノがそれに火魔法で着火させている。
似たような光景がちらほらと辺りでも行われている。
オレは仕方無く、ご飯が出来るまで大人しく待つことにした。




