29.夜の森④森の夜明け
温かいなぁ。でもなんかチクチクもするんだけど。気持ちいいなぁ。
やっぱり寝るのはリルの部屋で、ふかふかの布団で眠るのが最高だよなぁ。
リル、ちょっと痛いよ? 撫でてるのかな、毛を毟ってるの? 痛いからやめてってば!
ハッ、と目を覚ます。
危ない危ない、熟睡しちゃったみたいだ。目を擦り周囲を確認すると、驚いた。十数匹もの猿に包囲されている。しかもオレは大柄な猿に抱かれて毛繕いされながら背を撫でられていた。
無我夢中で大きな猿の腕の中から慌てて抜け出たものの、どうすればいい?
どこか名残惜しそうな顔をしてオレを見てくる大猿。乳房があるから雌猿かな。
この数はどうしようもないよね。流石に闘うだけ無駄だよな。2,3匹ならまだしも、数えたら14匹も集まっているし。逃げれるかな。
辺りが光に満ちていく中で、オレと猿達はろくに動きもせずに長い時間を過ごしていた。
うーん、本当にどうしよう。なんで襲ってこないのかな。こっちから仕掛けた方がいいかな。でも絶対に勝てっこないよな。
何だ? 何を考えてるんだ、この猿は。勝ち誇った風でもなければ威嚇するでもない、ただ静かにオレのことを見据えたままでいる。その瞳は澄んで濁りなく、実に綺麗な目をしている。
また幻術かな。猿も幻術使うなんて、世も末だよな。
遠くの方からオレを呼ぶ声が聞こえてきた。
ちくしょう、騙されるもんか。動いた瞬間に仕掛けてくるつもりなんだろ。もう幻術なんかくらうもんか。
「おーい、ランドォ! いるなら出てこいよー」
「ランドォ!さっさと出てきやがれ」
「ランドくーん! 大丈夫かーい?」
ガンクとヴァンザードにスマルの声だ。まさか、探しに来てくれたのか?
「ランドやーい! あれ、こっちじゃないかな」
「当てずっぽでもいいから叫んでやがれ。ねこは耳がいいだろ」
「もしかして寝てるのかもしれませんよ」
段々とこっちの方へ近付いて来てる。これは、幻術じゃない気がするぞ。
数引きの猿が声のする方へ移動を開始した。雌の大猿はまだオレを見据えたままだ。
オレは意を決して木の下に飛び降り、着地と同時に仲間の声の方向へ駆け出し、精一杯大声を張り上げて鳴いた。
「今、ねこの鳴き声がしなかったか? 」
「あぁ、確かに聞こえたぞ。おーい、バカねこランドー!」
「ランドくーん!」
オレはここだ、ここだよ!
後ろから猿達が追いかけてくる。地を駆け枝を伝い追い縋ろうとしている。
疲労と傷の痛みで強張る身体に鞭打って、オレは最後の力を振り絞り全力で走る。
居た。見えた、ガンク達だ。
オレはガンク目掛けて飛び付いた。
「ランド! お前、心配したんだぞ。起きたらいねーもんだからよ。やっぱし森に1匹で飛び込みやがったか。身体中傷だらけじゃねーかよ。無茶しやがって」
オレはガンクによじ登ると犬みたいに顔を舐めて甘えた声を出した。
「おい、辺りを見てみろよ。俺達猿に囲まれてるぞ。ったく、ランドよぉ、てめぇえれぇもん引き連れて来やがったな」
ヴァンザードが大きな剣を構える。
「待って下さい。手出ししなければ恐らく大丈夫な筈です。この猿達は温厚な種族だったと思います」
スマルが手に持った円筒型の缶を地面に置いて言う。
「弱めではありますが、鎮静剤を散布しているので、敵と見られない限りは攻撃してこないでしょう」
「本当かよ、信じるぜ」
スマルは腰に下げたアイテム袋から林檎を1つ取り出すと猿の群れに向けて放った。警戒しながらも1匹の猿が林檎を手に取りかじり付くのを見ると、続け様に3個放り投げ両の手の平を持ち上げてひらひらと降った。
どうやら襲ってこないみたいだ。
「よし、大丈夫みたいです。
ほら、猿達の気が変わらないうちに早く移動しましょう」
無事にオレ達は森から脱出してハストランまで戻ると、オレは宿で寝かされた。
ヴァンザードとスマルがオレの身体を眺めて言う。
「ボロボロじゃねーか。一晩でどんだけ壮絶な戦闘してきたんだよ」
「今は安静にしてあげましょう。治療師も呼んでおかないと」
ガンクがオレの為にと魚のほぐし身を持って部屋に入ってきた。
「これ食べて寝とけ。ったく、1匹でつっ走りやがって血だらけにもなって。死んでたらお前どうすんだよ。もっと考えて動けよな」
「おいおい、ガンク? それは果たしてお前が言える台詞なのか? 」
「うるせーよ」
喧嘩を開始する仲の良いガンクとヴァンザードを無視して、オレは魚のほぐし身を頬張る。
「弱めではありますが、動物の興奮を抑える鎮静剤を森に撒きました。一時的なものでしかないものですが。森の後の処理はボク達に任せてゆっくり静養して下さい」
ウインクするスマルに、そこで暴れている男2人にも鎮静剤打ってやって、と言ってやりたい。
ガンクが剣を掴んで威勢良く立ち上がる。
「よし、後始末してくっか」
「期限は今日中だ。遊んでる暇はねぇぞ。さっさと片付けようや」
「留守を預けますよ」
部屋から出ていく3人の男達。重い瞼を前足で擦り開けながら見送った。
やっと夜の森シリーズが終わった。まさか、こんなに長くなるとは。書いてて思ったのは、猿の澄んだ瞳というか、動物の純粋無垢な瞳には癒されるなあ、ということ。
純粋でいたいものですね。




