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28.夜の森③夜の森で無双

 大鹿との激闘を制したオレ。腕に付いた鹿の血を舐めると鉄の味がした。


 動く事も儘ならない身体を引き摺り藪茂の中で一先ず休息を取ることにする。酷使した前足を舐め、顔に付いた泥と葉を手で掻いて擦り落とす。


 お腹を舐めようとしても腹部はボタン止めされていて舐められない。身を捻り体の軋みを堪えて股の間の汚れを舐め落とす。


 気付いたら服の背中の部分が裂けて所々に穴が開き黒い毛の奥で血が滲んでいた。痛々しい傷も少しある。


 この服、おニューだけど、大丈夫かな。ねこの服の値段なんてオレにはまるで検討も付かないけど、きっと高いよね。


 自身の傷を舐めると大鹿と同じ鉄の味がした。藪の中から倒した大鹿へ視線を投げた。2匹の野犬に喰われている最中だった。1匹が大鹿の喉に噛み付き、もう1匹は腹から零れ出た臓物を貪っている。


 ゾッとして背筋が震える。もし一歩間違えればそこで喰われていたのは自分だったかもしれない。もう一度前足に付いた大鹿の血を舐める。ごめんね、大鹿。


 2匹の野犬をよく見ると、親子かな。大きな体の犬が懸命に鹿の喉を足で抑えながら噛み付いて動かないようにしている。


 オレは全身全霊で2匹の野犬に気配を悟られないように息を潜めた。鼓動の音が耳の内側で鳴り響く。どうか見付かりませんように。


 大した耐久性がある訳じゃないけれど、ずっとオレの体を守ってくれたこの花柄の服に感謝した。


 頭を動かしてフードの中に入れて貰ったスマル特性の薬剤を取り出そうとする。藪の木の枝にフードを器用に引っ掛けて、落ちた薬剤をかじる。


 うわっ、にっげー。どうしよう、コレくそ不味い。


 飴玉みたいに口の中で転がすよりも噛んで飲み込んだ方が効果あるかな。ガリッと噛み砕くと舌が痺れて感覚が無くなっちゃった。仕方無く飲み込み胃に入れたけど、これ成分大丈夫だよね。


 じんわりと、身体がポッカポッカ温まってきた。良く分からない手応えだけれど、少し楽になった気もする。手足も先程より動かし易くなったみたいだ。


 ありがとう、スマル。


 食事中の野犬を注視しながらゆっくりと後退してその場を離れた。近くの木を登り木の枝伝いに移動を開始した。


 休んでいる鴉達の背後から迫って切り落とし、木の上で闘う。生い茂る枝葉が邪魔して思うように動けない鴉達を仕留めて進む。


 その後も蛇に鷲に鴉に狸にカブトムシにムカデにと、それぞれ余分な動きを控えて殺しながら森を移動する。どうしようも無い敵、例えば蜂の大群や軍隊ゴキブリからは多勢に無勢もいいとこなので逃げの一手だ。


 地上にいる綺麗な毛並みの3匹の犬に目を引かれて眺める。犬じゃない、あれは狐だな。迷ったけど倒すことに決めて、頭上の枝の上に移動する。


 耳をピクピクさせて周囲の気配を窺い始めた狐達。オレはゆっくりとかつ大胆に真上から飛び掛かった。


 【物質操作】で伸ばした爪が空を切る。あれ? オカシイな、当たったと思ったのに。


 着地して3匹の狐と対峙する。一番大柄な狐が前に出て、オレと闘う様だ。鼻をヒクヒクさせて臭いを嗅ぐ狐。


 オレも鼻を動かす。辺りは芳しい匂いで満ちているような。そんな気がする。


 あれ? 何か狐が霞みだしたぞ。輪郭がぼやけていく。


 オレは月明かりに照らされた艶かな金色の毛並みに見とれる。滲む視界にぼんやりしてしまう。何だろう。ぬるま湯に浸かってるような、心地好い気分だなぁ。


 ッ!


 衝撃に吹き飛ばされていた。視界が回っているけどなんで……。やがて、自分が湿原の中を転がっていることに遅れてやっと気付いた。


 あぁ、顔が痛いよ。重いよぉ……。


 働かなくなった頭を振るい立ち上がる。前方から狐がこちらへ駆け寄ってくる。どうすればいいんだっけ。闘うんだっけ。狭くなった視野の中で狐が跳躍した。


 オレはゆらりと狐の攻撃を避けながら【硬質化】した前足を突き出す。


 また外れちゃった。なんで? 可笑しいや。霞む視界の端で真横から狐がオレに迫っている。オレは隙だらけの背中を思いっきり噛まれた。


 ぎゃあああああぁぁぁ、いってええぇぇ!


 激痛のお陰で一気に頭が冴え渡った。組んず解れつのままオレと狐はバシャバシャと湿原を転がる。


 ヤバイ。マジで死ぬ。


 幻術かな。さっきのあれ、きっと狐の幻術だよな。


 オレの背中に食い付いて離れない狐は立ち姿勢になりオレを体ごと揺さぶった。食い込む狐の牙に気が狂いそうになる。


 【物質操作】で身体に付いた水滴を針の様に尖らせ体を振るって散弾した。咥内を酷く損傷した狐が血を口から撒き散らしながらのたうち回っている。


 オレは震える足を引き摺り慎重に近寄ると、耳を裂き目を潰した上で、喉を掻き裂いた。


 狐の絶叫に呼応するように残り2匹の狐がこちらに掛けて来ている。


 コイツらも親子みたいだな。でも容赦しない。もう幻術は効かないぞ。覚悟しろ。


 【身体強化】した後ろ足で一気に2匹の狐の真上の木の枝へ飛び上がると、枝を蹴り反動を付けて1匹の狐にぶつかる。もう1匹の慌てふためく子狐の正面からねこパンチで頭を砕く。血眼になって突進してくる最後の1匹も軽く跳躍してかわして背後から尻を切り裂き、その足で回り込んで腹と喉を裂いてやった。


 オレは血を流しながら木ノ上に登り下を眺めた。夢中だったから覚えが無いくらいに、木の下は3匹の狐の残骸が散らばり凄惨な状態になっていた。


 胃の中の物を戻して少し気が楽になると、さらにもう一段上の枝に避難して座り込んだ。


 周囲は透明な朝日の光に照らされ始めている。新鮮な空気を吸い込み吐き出す。


 いつの間にか髭が数本失われていた。無くなったのが命じゃなくて良かったと思う。


 全身を舐めて身体を癒していると、徐々に猛烈な眠気が押し寄せてきた。


 オレは少しだけ目を閉じて眠ることにした。

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