27.夜の森②1匹だけの舞踏会
誰も参加者のいない深い森の中、オレだけの月夜の舞踏会。月明かりが照らす薄闇の中で華麗に踊る、オレ!
なんちゃって。
あー! もう、全然落ち着く暇も無ければ身体を休める時間も無いくらいに次から次へと襲い掛かって来るんだから。襲い掛かられるよりこちらからの方が安全だよね。
ってな訳で、手当たり次第に戦闘を繰り広げてるんだけど、少しくらいニヒルぶったっていいよね。オマセな年頃なんだ。
また野犬に囲まれた。体力温存必須だ。【身体強化】で最低限の戦闘体勢を維持して【硬質化】とちょっぴりの【物質操作】で爪を伸ばす。
野犬達が反応するより早く動きザクザクと喉を裂いたり腹を掻き切っていく。
ギャオオオォン!
煩いな。断末魔を上げるなよ、また敵が寄ってくるじゃんか。
瀕死の犬に止めを刺そうと近寄ると、ふと目を擦る。あれ、なんか犬の体積が大きくなった? と思えば大根ぐらいの太さの大ムカデが巻き付いちゃってるよ、御愁傷様。害があるといけないからちゃんと爪で裂いておく。
ドドド、って音が聞こえたら藪の中から大きな猪がこっちへ突っ込んできた。身を翻して横っ腹にねこパンチを叩き込む。
んん、猪くんの骨が砕けたかな。爪に付いた血を舐めながら猪を確認する。まだまだ元気そう、やる気満々で駆け出して来た。猪突猛進ってこの事だよな。でも一直線は良くないと思うんだよ。飛び上がって猪の背に乗り背中向けてパンチパンチパンチパンチ。
ぐったりして、あぁ美味しそう。
舌舐めずりしてると突然背後から突き飛ばされた。地面を転がりながら見ると梟だ。バサバサと羽ばたく音が止まる。
どこだ、どこいった?
見失ったぞ。きょろきょろ周囲を見ていると横から蛇に絡まれ巻き付かれた。あぁうざったい。
胴を引きちぎって蛇の片割れを投げ捨てようとした時に聞こえた空気を割く滑空音に振り替えると、目前まで梟が迫ってきていた。オレは逃げずに真っ向からねこパンチで迎え撃つ。
以前はスズメ1匹捕ることも出来なかったな。脆弱だった昔を懐かしんで、マズマ師匠に感謝しながら梟の羽根をもいで遊ぶ。
蜥蜴をさくさくと倒しながら池へ水を飲みに向かう。危険じゃなさそうだけど兎もリスも狩っておく。
リスを食べたのは初めてだけどなかなか美味しい。これは発見かも。
てゆーか、リスもネズミも同じだよね。でも不衛生なネズミよりお腹に優しいかな。リスの尾を食わえながら池に到着。後で食べようとお楽しみに残して置いたのに、岩の上に陣取ったでっかいガマ蛙に長い舌で奪われた。
ゲーロゲロ。ゲーロゲロゲロゲロゲーロゲロ。
なんだと!?
ってオレ蛙語なんか理解出来ないよ。頬をぷくぷくしやがって、オレを馬鹿にしてんのか。オレのご飯を返せ。
蛙に飛び付き叩こうとしても表面がヌメヌメしていて気持ち悪い。それに叩いても効いてもいない。コイツ、本当に蛙? スライムみたいに踏ん付けてぺちゃんこにしてもブニョンと元に戻っちゃう。
仕方無い、爪で裂こう。臓器をぶちまけるガマ蛙を岩の上から蹴って下の池に落とす。これで一安心と、気を緩めた瞬間に別の蛙に足を捕まれ池の中に引きずり込まれた。
昼の水中ならまだしも真夜中の池の中は視界が悪過ぎた。闇の中で頭を叩かれ腹を強打された。胃の中に水が入ってくる。息が出来ない、死んじゃう。
暴れながら懸命にもがけどもがけど後ろ足2本を拘束されどんどん池の底へと引き込まれていく。左右から引っ張られて股が割けそうだ。オレは魔力を水中内に浸透させて半ば闇雲に【物質操作】を行った。
水中から噴出するように飛び出し地上に着地した。
池ではオレの魔力が行き渡っているようで、ジャバジャバと水面が渦を描きながら波打っている。しばらくすると、蛙や魚によく分からない水生の昆虫が小間切れになって浮かんできた。
上手くいった様で安堵した。この前のドルマックの渦状に切り裂くイメージで、水の中を切り刻む要領で水の刃を作り上げたんだけど。ちょっと魔力を使い過ぎたかな、失敗かも。でも死にそうだったんだから、まぁいっか。
最初の目論見から随分外れた結果だけど、溺れかけたおかげでたくさん水も飲めたし。
オレはフラフラ歩きながら引き続き獲物を狩っていった。鷲に蜘蛛に山羊にダンゴムシにバッタに。あ、ダンゴムシやバッタは危険性は無さそうだから見逃しても良いかな。
殺気を感じて立ち止まる。眼前に立ちはだかるのは2対の猛々しい立派な角を持った大鹿。コイツは強そうだな。
駆ける鹿に猪の時と同じように横にかわして真横に突撃するけど、素早く避けられ不規則な動きで襲ってくる角を身を捩ってなんとか回避する。
一旦距離を置いて牽制し合い、弧を描きながら互いに移動する。
背後の木陰から1匹の野犬が大鹿の尻を目掛けて飛び出した。
今だ!
オレは真っ直ぐ大鹿に向かう。野犬に気を奪われた隙を逃さずに必殺の一撃を食らわしてやるんだ。
しまった、と思った時には既に遅かった。大鹿は野犬などまるで気に掛けない風で、オレに鋭く目を向けたまま背後に後ろ足を蹴り上げ、野犬の顎を粉砕した。
急ブレーキの効かない速度で突っ込んじゃったオレは、ダメ元でも真正面からの突撃を余儀無くされた。オレは全身を【硬質化】させて大鹿の足下へと進む。狙いは……足だ。
大鹿の前足の膝蹴りを全力で身体を硬くしてガードする。よし、作戦成功だ。脚を痛めたな、動きを鈍くしてやったぞ。
そこまでは良かったんだけどな。膝蹴りでカチ上げられたオレを大鹿が首を縦に振り、ど迫力の角が迫ってきた。
全身を凄まじい衝撃が駆け巡る。吹っ飛ばされて地面を数回バウンドして草藪の中で転げ回る。
いってー。
全身打撲みたいだ、なんとか立てるかな。うん、まだいける。立ち上がり大鹿を見る。
紳士な鹿だな。追い討ちはかけない主義なのかな。
違うな、動きたくても動けないようだ。大鹿は痛そうに右側の前足をぶらぶらと宙に浮かせて苦し気な顔をしている。角も片方がひん曲がっている。よく見れば向こうも満身創痍だな。【硬質化】した甲斐があったってもんだ。
オレはゆっくりゆっくりと、大鹿はひょこひょこと負傷した前足を庇いながら、向かい合った1頭と1匹。
力を振り絞って、大鹿の浮いた前足目掛けて走り、横から回り込むように跳躍する。片足の爪を大鹿の背中に突き刺し、もう片足の爪に力を掻き込めて無防備な腹を掻き裂くと、大鹿の絶叫の悲鳴が深夜の森に木霊した。




